第2話
1週間が経ち、私は荷物をまとめて町の北口に向かった。そこにはカイルとソフィア、そして...ソフィアの両親も来ていたのか。
「おはようございます。お見送りに来ましたか?」
ソフィアのお母さんが答える。
「おはよう。 ええ、お見送りくらいは大丈夫でしょう? ソフィアをよろしくお願いしますね?」
「はい、まあ、私もお世話になる予定ですので、よろしくお願いします」
「くっ...」
クマに似たフィアちゃんのお父さんが泣いている。あいつは娘バカで、当分可愛い娘に会えないと思うと悲しいだろう。
「戻ったらエミルを殺す」
「そんなに悲しいなら、その前に娘を説得したらどうかと......それに、私が無理強いしたわけではありませんよ?」
彼は意に介さずすすり泣く。あなたの体格に合った立ち居振る舞いを身につけてください。周りの視線が気になるので。
ソフィアのお母さんが言う。
「この子たちももう大人でしょう? 笑顔でお見送りしてください。私はカイル君とエミール君なら安心して任せられますからね?」
「「へへへ」」
カイルと私が照れくさそうにする。フィアちゃんのお母さんが再び話す。
「結局、フィロス君は来なかったのね? 私はきっと一緒に行くと思っていたわよ」
そうだ。フィロスは私の成人式の翌日から姿が見えず、結局会う約束をすることができなかった。彼の家に用事があるので探さないでくださいというメモがあるので、事故ではないようですが...まあ、誰かが心配することを考えてしっかりメモを残すところがツンデレらしいですね。
「そうですね、まあたまにあることだし、今の状況では会うわけにもいかないので、とりあえず予定通りに行きます。じゃあ、そろそろ出発しますね、また来年お会いしましょう。 ...おじさん、冗談でしょうからやめてください」
冗談でも来年は嫌だったのか。 オヤジから俺に送られるオーラが痛い。俺は殺気なんて信じないけど...人同士で殺すなんて怖い話だし。
◆
3日後、我々は塔のすぐそばまでたどり着き、塔を見上げる。
「「うおお!!!」」
「うわぁ!」
私たち歓声を上げる。
眼前に聳え立つ賢人の塔は、想像を絶する巨大さで空を貫いている。その高さは雲を突き抜け、頂上は肉眼では捉えられないほどだ。塔の直径は小さな村がすっぽり入るほどあり、その存在感は圧倒的だ。
塔の外壁は、漆黒の巨大な石板で構成されている。それらは完璧に組み合わされ、継ぎ目すら見当たらない。表面は鏡のように滑らかで、光を反射することなく、深い闇を湛えているかのようだ。この不変の姿は、時の流れすら受け付けない永遠の存在を思わせる。
近づいてよく見ると、塔の表面全体に複雑な文様が刻まれているのがわかる。それは幾何学的な模様や、未知の文字、そして奇妙な生き物や天体を描いたものまで、実に多様だ。これらの文様は、見る者の目を惹きつけ、その意味を解読しようとする衝動を駆り立てる。
塔の基部は地面にしっかりと根付いており、その周囲には巨大な岩が点在している。これらの岩は塔の建設時に残されたものなのか、あるいは何か別の目的があるのか、その理由は定かではない。
塔の周囲には不思議な静寂が漂っている。その静けさは、まるで塔が周囲の音を吸収しているかのようだ。鳥のさえずりも、風の音さえも、この巨大な建造物の前では消え去ってしまうかのようだ。
塔の麓には奇妙な植物が生えており、それらは他の場所では見たことのない種類ばかりだ。中には、塔の表面を這い上がろうとしているものもある。しかし、どれも塔の表面のほんの一部を覆うにすぎず、塔の巨大さを際立たせている。
この賢人の塔は、まさに人知を超えた存在だ。塔の不動の姿は、時間と空間を超越した永遠の謎を象徴しているようにも見える。
そして今、私たちはこの驚異の建造物に足を踏み入れようとしている。扉を開ける前、塔の威容を前に、一瞬の畏怖と興奮が胸を駆け巡る。
巨大な塔の外壁に沿って歩き始めた。滑らかな黒い石の表面に手を触れながら、ゆっくりと進んでいった。塔の曲面に沿って歩くことは、まるで巨大な円を描いているかのような感覚だった。
塔の表面は一様に同じパターンが続いており、変化は見られなかった。しかし、しばらく歩いた後、突然、指先が微妙な段差を感じた。
注意深く観察すると、そこに扉らしきものが存在していることに気づいた。塔の表面と完全に同化しているため、一見しただけでは見分けがつかなかったが、確かにそこにあった。
一瞬、扉を開けるのを躊躇する。このまま開けていいのだろうか、何か罠があるかもしれない。ここはとりあえず...
もう少し塔の外壁を辿っていくと、同じような扉が一定間隔で並んでいました。
私は一行に聞く。
「うーん...これはどこに行けばいいんだ?」
扉が複数あるなんて聞いたことがないようだが...カイルが答えた。
「だいたい入ってもいいんじゃないの? 入り口がどうとか聞いたことないし、どうせここは何もないところだろ?」
「確かにそうなんだけど...」
どの入り口も一本道で繋がっているのかな?違うかな?
じゃあどうやって選べばいいんだろう。うーん...
ドアを押しても開かない。鍵がかかっているのか?
「よし!入場!」
鍵はかかっていないか。 カイルが興奮して扉を開けて入る。 そんなものは一緒に入ってください。カイル君。
◆
入ってしばらくは通路を歩くだけだった。村で聞いた通り、ダンジョンの内部のような陰鬱な通路が続いているのが繰り返されるだけだ。
少しずつ左に曲がっていく通路は、おそらく建物の中央を中心に円形に回るようになっていると思う。 左側は完全に壁面だが、右側の壁面上部に手のひらサイズの採光となる穴が続いているので、明かりは必要ない。
だから似たような風景に迷子にならないように気をつければ...ここは一本道なのでその心配はない。
途中おしゃべりもしていた私たちは、いつの間にか口数が減り...黙々と歩き始める。
やがて、沈黙を破ってソフィアが口を開く。
「うーん...何か話さないの? みんな退屈でしょう?」
まあそうだろう。カイルが言う。
「じゃあ、ちょっと落書きしたらどうだ?」
「遺跡をもっと大事にしてください。一応、公共施設みたいなものでしょう」
私がカイルに答える。フィアも同調する。
「そうだね、落書き禁止の看板も立っていたし」
「え? マジで?」
私が聞き返す。
「うん、入るときに見たよ。[消しにくいよ]って。」
「この塔を管理していたんですか? そして、なぜそれをすぐに教えてくれずに今更?」
「いや、お掃除屋さんがいるのかなって思って...」。
「まさか、掃除屋さんか。 どこかの奉仕団とかじゃないの? そうなんだね」
カイルが納得した。私は納得できなかった。
「いや、納得しにくい設定ですが、とりあえずそれで済ませます。 何か考えにくいし」
「じゃあ、落書きして、すぐに消そう」
「するな」
◆
「問題がある」
私が二人に言う。
「なんですか、くだらない話なら
ソフィアが答える。
「あの凶悪な武器が私たちの方だったのね、頼もしいけど、向きを間違えた。ただ、君が手を動かしたかっただけだろう?」
「いいから早く言えよ、早く終わらせるから」
こいつ...さっき自分がくだらない話を始めた時とは態度が違いすぎる。
「俺が下らない話をすることを前提に話を進めてはいけない。 そして、たとえ人が間違ったとしても頭を割ってはいけない。
ここ、トイレに行けないんだね」
そうだ。今まで出口を見たことがない。 つまり、この通路の内部で解決しなければならないのだが...
「あ、それなら大丈夫ですよ、案内図によるとすぐにトイレのような施設があるはずだから」
「はい?」
もう少し進むと、横にトイレの部屋が出てきます。
「ソフィア様? どうしてわかったんですか?」
「入る時に、案内図に書いてあったわ。路上放尿は控えてくださいって。
エミルちゃん、よく我慢しましたね、よく頑張りました」
「...ありがとうございます」
しばらく何から話せばいいのかわからず、まずは感謝の気持ちを伝える。
ようやく、言いたいことを思い出した私は再び口を開く。
「私、もう13歳ですからね?こっそり解決したりしないよね?」
「疑問で終わらせるな。
...考えながら歩かないで、ちょっと周りを見渡せば役に立つかもしれない」
カイルが言う。改めて考えを整理した私が言う。
「いや待てよ、トイレに掃除屋さんに、この塔跡ですよね、管理されているんですか?」
そんなこと聞いたことないけど。 カイルも何か違和感を感じたのか、つぶやく。
「それはちょっと疑問だな。 さすがにトイレまで行くと誰かが工事をしているのだろうか。ちょっと引っかかるなぁ」
「掃除屋さんです。そこから疑問を持てばいいのでは?おじさんを忘れないでください」
「いや、ちょっと暇な人がそうすることもあるんじゃないかと思うんだけど...とりあえずは考えてみよう」
「ありがとうございます!疑問を持ってくれてありがとうございます!」
やっと悩みを共有できるようになったか。 嬉しい!
ソフィアは言う。
「じゃあエミル君、トイレ行ってくる?」
「はい!」
その後、私たちはもう少し進めて、日が暮れてキャンプをした。
◆
「エミール、そろそろ起きて?」
清楚な少女の声が、私の意識を目覚めさせる。私はまぶたを少し動かし、やがて目を開ける。
目の前にフィアちゃんの顔が見える。
「カイルも起きたわね。カイルより遅いなんて珍しいね、何かあったの?」
「うーん...そうなのかい? ふぁ〜」
伸びをする。どうやら熟睡したようだ。
「...どうやら問題なさそうね、そろそろ出発の準備をして」
彼女が立ち上がり、寝具を片付けながら言う。天窓に光が差し込んでいるところを見ると、朝なのだろう。
「うん。わかった」
「カイルもエミールもまだ子供なんだね。 まだお姉ちゃんが起こさないといけないんだね?」
「いいえ。私は認めないから。お前はたった3日早く生まれただけだろう」
こいつがお姉さんぶってたのは...女が男より成長が早い時期があるのだろう。本当に昔の話だから。
彼女を見て思う。今は身長も私の方が大きいですね。 そして、うーん...
この後の言葉は飲み込んだ。すでに最初に勝っているのだから、ここは大人として口に出す必要はないのだ。続ければ負ける部分も出てくるだろうし。
フィアが遠ざかった後、カイルが口ずさんだ。
「胸には勝てないんだな」
「そんな考えは別に私とシンクロしなくてもいいですよ。カイル君」
「たしかに、男として胸の大きさで競うという考えはちょっとどうかと思って」
盲点を指摘してくれてありがとう。カイル君、一緒に自省して?
◆
私たちはまだ通路を歩いている。誰も口を開かない。
そんな中、ようやく沈黙を破ってカイルが口を開く。
「うーん...何もないのか」
そうだ。本当に何もない。
「これ、何に使ってたんだろう」
「まあね。苔が付いてるくらいだし。レクリエーション用としてはちょっと無駄に大きいな」
「そういえば、エミール、お前は何でそんなにここに来ようとしたんだ? ここには俺たちしかいないから、正直に言っていい。 エミールは伝説とかあまり興味ないだろうと思ったから」
カイルが尋ねる。
「そうなんですね。正直に聞きたいわね、ちょっと執着してたみたいだから」
ソフィアが言う。うーん...話しにくいな。
「私はカイルが気にしてるみたいだからついてきただけよ。記念だし、悪くないと思ったんだ。カイルは?」
事実ではある。カイルのように冒険精神に燃えてドキドキしたなんて、言いにくいだろうね。自分らしくない。
カイルは沈黙する。やっぱりこいつ、俺と同じような理由でただ遊びたかったんだろう?子供っぽいとからかわれるかもしれないし、ここは俺が黙ってスルーしてやる。
その時、沈黙していたカイルが口を開いた。
「もしかしてお前ら、この塔に何か違う感じはなかったか?
ん?
「違う感じ? 何のことだ?」
「ただ、この塔についてどう思う?」
「これ、大きいし、古いし」
「私も、そんな感じ?」
私とソフィアが答えた。
「実は私はこの塔。何だか気になってたんだな。 何だか来てみたくなったんだ」
「何言ってんだそれは。主人公の展開フラグみたいなものか?」
「こんなの...なんかいいじゃん、本物の冒険って感じだよ!」
「よかったね」
こいつの妄想が混じってるのか。 まあそんな年だからいいんだろう。
適度に暗くなり、天窓から光が入らないので、そのままキャンプをすることにする。
◆
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