歓楽の枝

十六原 壇

プロローグ

第1話


夢を見ているような気分だ。空に浮かんでいるようだ。いや…水に浸かっているのか?


四方が静かだ。動けるのか? 体に感覚がない。五感に静寂がかかっている。 思考も一緒に鈍くなるようだ。 体が重すぎる。


意識が少しずつ戻ってくるにつれて、それだけ消えていく感じだ。意識をもっとはっきりさせようとする。私はなぜこんなところにいるのだろう。


目を開こうとするが、まったく動かない。


誰かを呼ぶために声を出そうとした。ダメだ。やはり体が全く動かない。


しばらく待っても何の変化もない…いや、注意を払うと何かが鳴るような音が聞こえる。


目隠しの向こうに何かが光を遮っているようだ。私の意識が消える。



目が覚める。


目が覚めた。体が少し汗で濡れている。悪い夢でも見たのだろうか…もちろん夢の内容は覚えていない。少し息を整えて窓の外を見る。まだ日が昇ってはいないが、だんだん明るくなってきた。


私は起き上がり、鏡を見た。鏡には、黒髪のやや小柄な普通の体格の少年が映っている。 まさにその年代平均という感じだ。 ただ、訂正すると、今日から大人になる。

リビングに降りる。また寝るには時間が曖昧で、とりあえず私は眠くなかった。成人式の開始までまだ少し時間があるし、どうやって時間を過ごそうかな。

やがて私は外出着に着替えて外に出る。


木造や石造の建物が立ち並ぶ通りは、まだ眠りから覚めず静かだ。この辺りは住宅街で、特に商店街よりも目覚めが遅いだろう。近くの唯一の武器屋は照明が消されており、剣や盾、あるいは赤ちゃんの頭ほどの鉄球が付いたメイスが並んでいる。特筆すべきは、遠くの空を二分する一本の柱である。あれは「賢人の塔」と名付けられ、空を突き抜けるようにどこまでも突き刺さっている。誰もあの塔について詳しいことは知らないし、1階より上に行った人はいないそうだ。

私は裏山へと歩いた。この時間に起きていそうな奴を一人知っている。



村の裏山はまだ夜明けの薄暗い空気が漂っていた。木々が生い茂り、視界がよく見えない。見えない蜘蛛の巣が顔に触れないように腕で頭を包みながら登る。山の中腹と思われる位置に来た頃、小さな小屋が見え始めた。私は木々の間を抜けて小屋に近づく。

小屋に近づくと、その周囲に広い空き地が見える。そこにはいくつもの丸太やかかしが立てられ、吊り棒のような、おそらく運動器具と思われるものもいくつか置かれていた。

そしてそこには黒髪の美少年が腕立て伏せをしながら腕立て伏せをしている。トレーニング中だからか薄手の上着を着た状態で、見た目は私と同じ黒髪黒目の明るい肌で、体格も私と同じくらいで、同年代に比べてそれほど大きくはないが、鍛え上げられた筋肉が全身を覆っており、それだけでがっしりとした印象を与える。


「やあ! フィロス! 今日も勤勉だな! 今日も修行か!」


彼の名前はフィロス、私はフィルと呼んでいる。幼馴染である。


「…」


逆上がりの男性は何も言わずに腕立て伏せをする。


「今日が何の日か知ってるだろ? いつ来るんだ?」


「…」


「あの、フィロス様、もしかして覚えてますか? 今日、私の成人式なので、疲れていても昼寝は控えて来て欲しいんですが…」


「…」


「全部聞いたし、ちゃんと覚えているんだから、同じことを何度も言うな。今、お前のせいで集中力が途切れた」


彼がバックタンブリングで着地し、正常に立ち上がる。普通、この年頃の子供は、このようなことはできませんよね?


「慣習というのは疲れるな。 そんなことをしたからといって、子供のバカが良くなるわけじゃないだろうけど」


彼は達観した大人のように、生気のない目で私を見ずに無表情で言う。


「そうですね、子供はしょうがないですね…それって私を含めるつもりで言った言葉じゃないですよね? それより、あなたも子供なんですよね? 私と同じ年でしょう?」


「ああ、あなたが今日年をとったことをちゃんと計算したらそうなんだな。偉いな、もうそんな簡単な計算がちゃんとできるのか」


「私に対する評価が上がったんですか? 以前の私はそれ以下だったんですね。 それに計算が分からなくて聞いたわけじゃないから?」


「いつも口数が多いね。 それはどうにかならないのか」


「いや、これはあなたが原因のせいだから」


「今日はソフィアの成人式か。 お前も行くんだろ?」


正確には、ソフィアと私の成人式だ。成人式は13歳の誕生日を兼ねて行われるもので、ソフィアが3日前、私が今日誕生日を迎えたので、両家の関係も近いので一緒に行うことになったのだ。


「私も当事者なんですけど、もしかして私だけだったら来なかったりするんですか?」


「すべては状況次第だ。無意味な仮定でしょう?」


「それは絶対来ると解釈していいんですね、私を信じているから?」


「今日は早起きだね。 ここに来たってことは、お前も修行に来たのか?」


「朝の挨拶が少し遅くないですか? そして、今日の主人公に朝から修行をさせようとしているんですね?」


「午後はカイルの面倒を見なきゃいけないから、早く終わらせよう。まずはランニングからだ」


「さっきから私の話をほとんど聞いてませんよね? 選択的に聞いてますね?」


「早く走れ! 早く終わらせてソフィアの行事に行かなきゃ!」


やはり私の行事でもあるのですが?



ハードなトレーニングに疲れ果てた私は、自宅ではなくソフィアの家に向かった。トレーニングに費やした時間からすると、そちらに行けば時間通りに到着するはずだ。


「すいません、ソフィア!いる?」


ソフィアの名前を呼びながら家のドアをノックする。扉を開けた瞬間、初対面の人は目を奪われるような端正な容姿の美女が笑顔で出迎えてくれる。


「あら!エミール。おはようございます、どうぞ入ってきてね」


この方はソフィアのお母様で、性格も穏やかで礼儀正しく、町でも一目置かれる学者として、しかも美人だ。くそ、ソフィアの父親が羨ましい。 まあ人には言わなかったけど、俺の初恋の人なんだな。 美人だし。禁断の恋というやつだ。

私は案内を受け、庭に入る。バーベキューパーティーの準備が完了し、これから始めようとしているようだ。


「エミール!おはよう!」


「おお、おはよう!」


私と同年代の女の子が私を見て手を振って挨拶する。彼女の名前はソフィアで、愛称はピアだ。茶髪の、端正な外見の美少女で、ソフィアの母親によく似た外見だ。たぶん、ソフィアの母親も子供の頃はこんな感じだったのだろうか。


「どこにいたのよ、 時間ももうすぐなのに、行方を知っている人もいないし」


「ちょっとフィロスのところへ行ってきたんだけど、捕まって一緒に訓練をすることになったんだ」


「そうか、じゃあフィロスも一緒に来たの?」


「いや、私に先に行けと言われたので、用事を済ませてから来るそうだ」


「うーん...とにかく準備しなさい。 私たちの主人公でしょう? 汚れがついているし、ちょっと入って身だしなみを整えた方がいいわよ」


「どうぞ、ありがとうございます」


私はざっと体を洗い、ピアちゃんの両親が持ってきた服に着替える。再び庭に出ると、人が並んでいた。フィロスと...カイルの家族も到着したのか。


「やあ!エミール! 来たね!」


「よく遅れなかったね、起きられたね?」


「うん、フィロスが起こしてくれたんだ」


やっぱりそうだったんですね、フィロス君お疲れ様です。

金髪に青い目、私と同じように細身の体格に朗らかな印象、星柄の指先手袋をはめ、半袖に長パンツを履いているこの子の名前はカイル。おそらく絵本の主人公を現実に引きずり出したらこんな感じでしょうか。 実際、活発な性格のおかげで周りからの人気も多く。残念な点があるとすれば、馬鹿で、寝坊すること。

近くを見るとカイルのお父さんも頭が伸びていて目が半分閉じている。親子ですね。


じゃあ、みんな揃ったか。私、ソフィア、カイル、フィロス。私たちは長くは10年前からの付き合いで、幼い頃から仲良く付き合っていたのだ。私とソフィア、カイルはこの村で生まれ、一緒に育ち、フィロスは7歳の時にこの村に移り住んだそうだ。

え? フィロスは?


「フィロスはどこ?」


「あ、あそこでイベントの準備をしている」


庭に目を向けると、真ん中でテーブルセッティングをしているフィロスが見える。


「みんな来たみたいね、そろそろ始めましょうか?」


ソフィアのお母さんが言った。私とソフィアの13歳の誕生日、そして無事に大人になった記念の簡単な祝辞を述べ、私たちは食事をする。

大人たちは大人同士で会話をしていて、私たちも一つのテーブルに集まっている。

カイルが言う。


「待ってたよ!やっとみんな大人になったんだね!」


カイルは3ヶ月前、フィロスは5ヶ月前にすでに誕生日を過ぎている。


「それで、これで塔に行けるんだね、すぐ行くのか?」


カイルの問いに私は答えた。


「うん、荷物を用意すればすぐに行けると思うよ。さっき言った通り、一週間後に集まろう」


塔というのは、「循環の塔」の話で、大人になると一度内部を循環する風習がある。まあこれも昔の話で、今の時代になってからは誰もあまり気にする人はおらず、たまに一部の人がピクニック気分で行く程度になり、ほとんど消えつつある風習と言える。私たちは暇つぶしに行くことにしたのだが。

カイルは私たちを待っていたという話だ。フィロスもたぶんそうだと思うが...。


「そういえばフィロスは?」


「あっちで料理をしている」


庭の片隅を見ると、表情のないフィロスがソフィアのお母さんと一緒にバーベキューを焼いている。今テーブルに座っている大人たちとポジションが変わってないですか?

まあ、あいつは元々大人っぽい奴で、子供の頃から非凡だったのだ。7歳でこの村に渡ってきた時も、大人を連れてきたわけではなく、一人で来たわけで、その年頃の子供が一人で生活するのは不可能なことだが、何かお金も多いようで、今まで無事に一人で育ったようだ。


もちろん、村の大人たちもそのくらいの子供を放っておくわけにはいかず、それに一役買っていたわけで、特に移住後からよく集まっていた私たち3人の両親、特にソフィアの両親がかなり世話を焼いてくれたようだ。

そして、やりすぎと思うほど毎日鍛錬をするのだが...ここの治安は悪くないし。本人は例外的な事態に備えるためだそうだが、そこまでする必要があるのだろうかと思う。

ソフィアが尋ねる。


「結局フィロスは、どうするの?」


「たぶん、一緒に行ってくれると思うけど。 あいつはツンデレだし」


1年ほど前に塔の話をした時から、行くとは言ったものの、私たちと一緒に行くというのは曖昧に答えたもので、しかし成人式を真っ先に済ませた後も一人で行ったことはない。何より、行かないなら正直に行かないと言ったはずだ。あいつは嘘が苦手で恥ずかしがり屋なので、長年の交友である我々は把握しているのだ。まあ、この辺は我々が理解してあげないとね。

俺は言った。


「まあ、もう一度その話をもう一度整理しておこう。護身用の武器一丁と、食料2週間分、そしてキャンプ道具だ。一週間後、塔の方角の村の入り口に集合だ」


「やはり2週間分って、そんなに持っていくの?」


「まあ、万が一に備えてね。 それに現地調達で食料を調達してさらに滞在するつもりもあるんだ。 ご両親には心配させないように、ちゃんと長期旅行だと言っておいてね」


そして、記録も更新しなきゃね。記録とは、あの塔で最も長く滞在した時間の記録だ。聞けばすぐに塔の中に見るものがなく、退屈して興味本位で入っても当日で出て行くことがほとんどで、現在の最長記録は3日だ。私はもっと長期の旅で塔を見ようと思っているのだ。

私は再び口を開く。


「単純な更新ではなく、塔をしっかり調べながら登る。我々が塔の秘密を解き明かす!」


あの塔は一見して謎そのものなのに、明らかにされたことがない。それだけなら分からないが、もはや人々があれに興味を持たないのだ。 外から見ると、空を切り裂くような外観と構造自体は目立つが、内部は1階は何度も訪れたことがあり、それ以上上る道がなく、特異点も発見できなかったからだろう。 それだけではよく分からないが...元々そうなのだろうか?


「おお! 楽しみだね!」


カイルが同調する。こいつは裏山探検みたいなのが好きなようで、興奮しているのだ。もちろんほとんどはフィロスに捕まって訓練で終わるのだが。


その後雑談をしながら、成人式を過ごす。


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