第2話:いや、むしろ来て欲しい。

「また聞くけど・・・ほんとに君、看護師さん?」


「ウイ・・・誰がなんと言おうと正真正銘ナースだし・・・なんかご不満ある?」


「いや、ご不満はないけど・・・」


「一応、看護師免許持ってるよ」


「ほんとに?・・・ならいいですけど・・・だけどさ」

「さっきも言いましたけど僕、間違えて違うサービスに登録したんじゃない

ですかね?」


「それは私には関係あ〜りません」

「来て欲しいって言われたから来ただけですけどぉ・・・」


「ああ、それは間違えたかもしれないのは僕の責任だから君は悪くないよね」


「やめます?・・・イヤなら私は帰ってもいいですけど」


(いや、いや、いや、間違えたとしても、こんな可愛い看護師さんもどきが

うちに来てくれたらそれだけで、めちゃ癒しになるし・・・)


「そういう意味で言ってるわけじゃないからね、むしろお願いしたいくらい

です、ティンクルさん」

「こうなったらどこの看護施設でもかまわないです・・・偽物でも喜んで

受け入れます」


「うん、まあそれはいいんですけど・・・実は私、今日がはじめてのご訪問なんです

広大さんのところが初お仕事だから、すごく緊張してるの」


「初仕事?・・・緊張って・・・どこが?とてもそうは見えないけど」


「だって心臓ドキドキしてるんですよ?」

「心拍数めちゃ上がってるんです・・・触ってみます?・・・ほれ」


「じゃ〜ちょっと・・・あ、いや、いい・・・女性の胸なんか触れないよ、

そんなことしたらセクハラになっちゃうでしょ?」


「私、緊張するとお腹が痛くなるんです」

「トイレお借りしてもいいですか?」


「あ、どうぞ・・・トイレは玄関のすぐ横です」


あれで、どこが緊張してるんだか・・・。


ティンクルさんはお腹が痛いと行ってトイレに入って行った。


「あの〜話、戻りますけど・・・私でよかったらお世話させていただきますけど

どうします?」


「ああ、びっくりした」

「え、トイレに入ったんじゃないんですか?」


「あ、ごめんなさい・・・おしっこ漏れそうなんで・・・」


「早くすればいいでしょ?・・・どうもズレてるな」


しばらくして、彼女はすっきりした顔でトイレから出てきた。


「はい、すっきりしました、お待たせ〜」


「お腹が痛いって言うから大のほうかと思いましたよ」


「大も小もです・・・お腹下げてました」

「普段は便秘ぎみなんですよ」


「そんなこと報告しなくていいから・・・」


「で、どうします?私でよかったらお世話させていただきますけど」


「もちろん、せっかく来てくれたんだし、このさい本物の訪問看護じゃ

なくてもいいからお世話して欲しいかも・・・いやむしろ来て欲しい」


「言っておきますけどネバーランドは本物の看護サービスじゃないにしても

私は本物の看護師ですからね・・・そのへん誤解しないでくださいね」


「はあ・・・もうそのへんは・・・ネバーランドがもし風俗関係のお店

だったとしてもこの際、かまいません」


その可能性のほうが大きいけど・・・。


「じゃ〜改めまして、私「如月きさらぎ ティンクル」です」

「これからよろしくお願いしますね、脇坂 広大わきさか こうだいさん」


彼女は前にじゃなく、少し首を横に傾げるようにお辞儀した。


「どうも・・・よろしく、如月きさらぎティンクルさん」


あのネバーランドの、まことしやかなキャッチコピーはなんなんだ。

あれじゃ騙されてもしょうがないじゃん、まあ訪問看護なんだから

ウソはついてないのかもしれないけど・・・。


ってことで、ティンクルさんは僕のお世話に来てくれることになった。


病気のメンテは不安が残るけど、なにもしなくても彼女が家の中にいてくれる

だけで部屋の空気感が違うのはたしかだった。

部屋の中に空気清浄機があるみたいにめちゃフレーバーな香りがして新鮮。


それで気づいた。

要は僕は体のメンテより安らぎや癒しが欲しかったのかなって。

ずっと遠ざかっていた異性の持つ柔らかさ温もりその雰囲気が欲しかったのかも

しれない。

いつの間にか心が乾いてたんだな・・・僕は心に潤いが欲しかったんだ。

男ってそんなもんなんだよね・・・だから彼女が欲しいって思うんだろうな。


そんな感覚をティンクルさんが気づかせてくれた。

もうそれだけで僕は立派に看護されてるじゃん。

彼女の存在は僕にとっては絶大すぎる癒し効果をもたらしてくれそうだった。

あのコスプレみたいな、ちょっとエッチいナース服も含めてね・・・。


だから今の僕は病気の心配よりも、これからのワクワクしかなかった。


つづく。



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