死にたい彼女たち

みり

第1話


私はこれから死のうと思います。


学校の屋上。

ただ死にたいと思ったからここに来た。

飛び降りを選んだのにも理由はない。

きぃ、と扉の軋む音。

誰かが屋上にやってきた。

私を見た彼女が、

「…あぁ、すまない。どうぞ続けて」

少し笑ったあとでそう告げた。

何事もないかの様に近づいてきた。

「止めないの?」

止めて欲しい訳ではないけれど、こうゆう場合普通なら止めるだろう。不思議に思って聞いただけだった。

「止めないさ。死にたいなら死ねばいい」

止められないのはありがたい。けど…

「先輩からのアドバイスだ」

そう言われ彼女の足元をチラリと見る。

彼女の上履きは私と同じ色をしている。

「同学年」

「誤解を招く言い方だったね。自殺未遂を起こした先輩からのと言う意味だ」

そう言って彼女は続ける。

「君には当てはまらないかもしれないが、自殺未遂を起こしても何も変わらない。それどころか私の場合悪化した。相手は自分が原因だと微塵も思っていないのだろうね」

この話をしてこの人は私のことを止めたいのだろうか。自殺なんてしても意味なんかないと言いたいのだろうか。

「なんでそんな話?」

「だって君、生きるか死ぬか迷っているだろう」

何でこの人にそんな事が分かるのか。

死にたいから今ここに立っているのに。

「死ぬ覚悟ができているのなら、私が扉を開けた時点で飛び降りているだろう?見られたくないとか考える必要もない。この世を去る君にとって誰かに見られるなんて瑣末な事だ。死ぬ瞬間誰も見ていなくとも、君が死ねば君の死体は大勢の注目の的だ。それに死ぬ気なら私の話に付き合う必要もない」

そうだろう?と彼女は問いかけた。

問いかけに私は答えられなかった。

迷ってる事に対してじゃない、多分彼女が言った事に対して聞いたんだと思う。

死んだ後の事なんて関係ない。

彼女の言い分は正しい。

即座にそうだと答えられなかった自分自身に、ほんの少し驚く。死のうと思っていたはずなのに…。

何も言えずにいる私に代わって彼女が話す。

「私が君を肯定してあげるよ。君が死を選ぶのはなにも間違っていない。生きるのに罪悪感があるのなら私が許してあげる。君は生きていて良い。まぁ、私は神でも何でも無いし、私が肯定したところでって感じだろうけど」

「何でそんなこと」

「本当は周りに認められたいだろうけど、案外知らない人に肯定される事で気が楽になるかもしれないだろう?たとえ誰に否定されようとも、私だけは君を肯定するよ。頭の片隅に、たった一人だけでも自分を肯定してくれる奴がいると思うのは悪くない事だろう」

そんな事言って、もし私が…。

「もし私が人を殺しても、犯罪を犯しても同じ事が言えるの?」

「言えるさ。罪を犯すのは確かに悪い事だ。けれど、そうしなければならないと君が思ってしまった時点で、君の置かれた環境も周りも悪い。君だけが悪な訳ではないよ」

なんでこの人はそこまで言えるの?

なんでそこまでして私を肯定してくれるの?

「なんで…」

語尾が消える。

私はこの人に何と答えて欲しいんだろう。

「なんでだろうね。ただ私に言えるのはこれは君の人生だ。君が生きようが死のうが、周りには関係ない。自分のせいで君が死を選択したなんて誰も思わない。皆、無責任と言う言葉しか投げつけない。私も君を肯定すると言ったけれど、これだって無責任な言葉だ」

そこで彼女は一度言葉を切る。

しばしの静寂。

「結局君の人生の責任は、誰も背負ってはくれない。周りが何と言おうとも決定権はいつだって君にある。私が死んでもいいと言っても、生きて欲しいと言っても、最終的に決めるのは君だ。私でも、周りでもない」

参考になるかわからないが…と、彼女は自分の話を始める。

「私も死ねなかったから今生きているが、もはや自分の意思で生きているのかすら分からない。…あ、君と話しているのは私の意思だけれど。死のうと思うほど嫌だった事に対して今は、何も思わなくなってね。それさえ、その時間さえ我慢すればいい。今は強く嫌だと思わなくても、嫌だった事は本当だったはずなんだけれどね。今の私は辛いとか、悲しいとか感じる事もなくなって…。もちろん楽しいとか嬉しいって気持ちも。まぁ、今の私は自分の為に生きてるって言うより他人の言いなりで生きてる気がするよ。だから君は君の為に生きた方がいい。先にも言った様に君の人生の責任は誰も負ってはくれないし、決定権は君にある」

「…しんどくないの?」

「しんどいかは分からない。けれど今でも死にたいと、死ねたらとは思っているよ」

静寂が辺りを包む。

静かに時が過ぎてゆく。

結局私は彼女の言葉に何も返せない。

今、私は本当に死にたいの?

「まぁ、私は去るよ。邪魔をして悪かったね。後は好きにするといい。何度も言うが、選択権は君にある。君自身が納得できる選択をするといい」

それではね、そう去ってゆく彼女に声をかける事ができなかった。私はわたしの選択をしなければならない。彼女の言うように。

どんな選択をしてもきっと彼女が肯定してくれるから……

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