第6話

いきなり何を言い出すのかと思えば、ラブホテルですって。

ラブホテルってあれよね。恋人同士の男女が入るホテルあれよね。

なんで私が見ず知らずの彼と入らなきゃいけないの。

でもツイツイでは、よく話ている仲ではあるけど、初対面なのは変わらないわ。


「ちょっとさ、いきなり、らっラブホテルに連れ込むなんてどういうつもりよ」

「あぁ、急に押しかけておいてその態度は何だよ」

「私、誰とでも寝るような女じゃないから」

「だれがお前なんかを抱くと言った? 勘違いするな」

「どういう意味よ」

「まんまの意味だ。俺だって君を知ってはいるけど、初対面で抱かないってことを言いたいんだ」


そんな会話を続けていると、街の色が一変した。

煌びやかなネオンや宿泊・休憩なる文字が増えてきた。

街角に立っている、女性からから話しかけられる。


「あれ坊や、今日は彼女と一緒なの? 嫉妬しちゃうわ」

「おねーさんてば、揶揄わないでくださいよ」

「いつになったら私の誘いに乗ってくれるのかしら」

「おもーさんに見合う、いい男になったらですかね」

「待ってるわ。うっふふふふ」


そういうと、女性の前を通り過ぎる瞬間、私はおねーさんから一言声をかけられた。


「あんた、田舎から出できたの丸わかりよ。少しは身なりを気をつけなさい」


言い終わると、タバコに火をつけ一服し始めた。

さすがは女性の感てやつなのか、私のことを速攻で見破られた。

改めて自分の服装を見ると、周りの女子高生から見ても、確かにダサい。スカートだって佐奈と比べると膝下だし、さっき走ったこともあってか髪はぼさっとしているし、マフラーだって今時手編みだし。

それに比べると、彼は長身ですらっとしているし、走っていたのに髪の毛一本も乱れてないし、堂々と街を歩いている。キョドっているのはこの街で私だけだ。なんか情けなくなるなぁ。

彼が立ち止まる。


「ここだ。入るぞ」

「ちょっと待って、心の準備ができてなくて……」

「はぁ、心の準備なんていらねーよ。落ち着いて話をするためだ」

「そういって田舎から出てきた私を騙して、食べるつもりでしょ」

「めんどい子だな。宣言するよ。俺は何もしません。君に触れません。話をしたいだけです。これでいいか?」

「本当に何もしないよね?」

「じゃあさっきのおねーちゃんみたいに路上に立って、泊めてくれる男を待つか? どうする? 俺はどっちでも構わん」

「入ります!」

「よろしい」


初めて入るラブホテルに緊張して、彼の腕をつい掴んでしまう。

中は外の外観と比べると宮殿かと思うほど、細工がされており、待合室になるのだろうか、ソファーが並んでいる。

壁にはパネルが展示してあり、お部屋を選べるようになっているが、すべてが真っ黒だ。つまり満室ってことらしい。

私はほっと胸をなでおろした。

これなら部屋に入ることはできないんだもの。


「これって満室だよね」

「あぁ、大丈夫。ちょっとここに座って待ってて」

「やだ一緒に行く」

「好きにしろ」


彼はフロントと書かれた小さな窓口を通り抜けて、関係者以外立ち入り禁止の扉を開ける。


「うぃーす、婆さん繁盛しているじゃんか」

「ガキに言われたくないね」


お婆さんはキセルを一服すると、火鉢に煙草の灰を落とした。


「おや、女連れかい。珍しこともあるもんだねぇ」


そして私をまじまじと見てくる。


「だが見ての通り今日はあいにく満室だ。他をあたりな」


その時、奥から掃除道具を持った男性が入ってきた。


「はいりまーす。あれ、高見沢君また来たの? あぁ女の子連れってそういうことか、ついに君も男になる気になったか!」

「そんなんじゃないっすよ。ちょっと事情があって、部屋借りに来ただけっすよ」


茶色のグラデーションのかかった色眼鏡をした男性は、眼鏡をずらして私を見定めるかの様にのぞき込む。


「へぇー事情ね。家出人に手を出すほど、君は女の子に不自由してないでしょ」

「だから、そういうことがしたいんじゃないんですってば、揶揄わないでくださいよ」

「ごめんごめん君にへそ曲げられちゃ、この辺りじゃ商売できないからね」


ここでも私が家出人だと思われている。実際そうなんだけどさ。複雑。


「五〇五号室なら空いているはずだ」

「あそこを使うって、本気で言っているかい?」

「雨風がしのげて、ゆっくり話ができればそれで十分なので」

「高見沢君がそれでいいっていうならね。オーナー」

「好きにしな」


そういうと、お婆さんは部屋の鍵を近くに居た私に投げ渡した。


「ありがとうございます」

「いつも高見沢君には世話になっているから、礼なんていらねーよ」

「気が変わらないうちにとっとといきな」

「さぁ行こう」


私たちは管理人室を出て、エレベーターへと向かった。

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