第7話

エレベーターに到着するタイミングでドアが開いた。


「東京はすごいね。電車も自動ドアだし、エレベーターも自動ドアなのか」

「はぁ、自動ドア? ここは婆さんが制御しているんだよ。客じゃないんだから商売っ気だすなつーの」

「なんだかわかんないけど、良い人なんだね。そのお婆さん」

「さっ、乗ったのった五階へ行くよ」

「うん」


二人が限度と思われるほど狭い室内に、大きなカートでぎゅうぎゅうになりながらのエレベーターでは、二人は密着してしまう。


「ちょっと変なところ触らないでよ」

「触ってないから。そっちこそどこ触ってんだよ」

「触ってませんけど、狭いんだから仕方ないよ」


言い争っているとやっとドアが開いた。

細長い通路が左右に広がる。

私は部屋の案内板をみてすぐに部屋を見つけた。


「五〇五号室ってここでしょ。今開けるね」

「まて、勝手に開けるな!」

「なに!? びっくりするじゃないの」

「すまん。この、今は特殊な事情を抱えてるんだ。開ける前に儀式をしてから出ないと開けらんないんだ」


すると彼は大きなカバンを下ろすと、何やら道具を取りだした。


「ねえ何するの?」

「準備しているからこの聴診器を使って室内の音を聞いてごらん」

「えっ、お医者さんごっこでもするつもり……そういうプレイが好きなの?」

「ちげーよ。聞けばわかる」


私は耳に聴診器をセットすると、ドアに当てた。


『うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

「なんか聞こえたか」

「うん。地獄の様なうめき声……なにあれ!?」

「幽霊のうめき声さ」

「どうしてそんな声が聞こえるのよ」

「いいから聞いてろ。何かしゃべったら教えろ」


私は恐々と聴診器を当てた。


『うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。もう来たのね。待っていたわ。さぁ入っておいで』

「声が聞こえたよ。うめき声の後の後のあと、待っていた。入ってって」

「こちらの存在にも気づいたようだ。よし、いい兆候だな」


震える私の肩をポンポンと叩くと、彼は準備を再び始めていた。


「ねえ、なんなのあの声」

「幽霊が読んでるのさ、俺をな」

「ここの部屋そんなのが出るの?」

「そうだよ」

「そこにこれから入るつもり?」

「お前は外で待っていろ」

「嫌よ。一人にしないで」


私は一人にされること恐れ、怖くなり、彼に引っ付いてしまった。


「これじゃ準備できない。分かったからくっつくな」

「いいか、入ったらすぐに右の壁に寄り添ってにうずくまって居ろ。いいな」

「うん。わかった」

「それだけできれば上出来だ。お魔物にこれを持ってろ」


彼からわたされたのは謎の言葉が描かれたお札が一枚。


「こんな頼りなさそうなお札一枚でどうなるのよ」

「一回限り。幽霊の攻撃から守ってくれるお札だ。持っていて損はないぞ。それから銃だ。身を守れ」


彼の準備が整ったようだ。

上半身にはショルダーホルスターを着け、拳銃を二丁下げている。

太ももに同様にホルスターを着けていが、これは拳銃じゃなくてお札が複数十枚入っている。


「ちょっと拳銃なんて持って何するつもりよ」

「幽霊退治だけど」

「幽霊に銃なんて物理的攻撃が聞くの?」

「いい質問だ。物理攻撃は基本的に不可能って言っていい。だから幽霊退治に特化した拳銃がこれになる」

「へぇー」

「人間に打っても精神的ダメージはあるものの、何も起こらないから安心しろ」

「へぇー」

「説明は以上でいいな、さてと行くか」

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