第5話
声をかけてきた男の人は、ブレザーにネクタイといった着たオーソドックスな高校生風の男の人だ。黒い大きなバッグを持っており、髪形はワックスで流している感じの今風なんだろう、流行にも敏感そうに思えた。
「人んちの前で、泣きそうな顔をしてるからどうしたの?」
人んちの前でってことは、この人が例のおばさんが話していた、お坊っちゃんかな?
「もしもーし聞こえてるか?」
「はい。 でももういいんです」
「話しかけて一五秒ほどでもういい宣言とか、わけわかんないんだけどさ」
「ひよりさんに嫌われてしまったので……」
「お前、ひよりの友達か!?」
「そうですけど、嫌われちゃったみたいで」
「そんなこと言うな、なんかの間違いだよ。 よかった友達が来てくれたのか!」
男の人はたいそう喜んでいた。
でも、私はどん底だというのに……はぁ。
男の人はすぐにスマホを取り出すと電話を始めた。
「ひよりか、お友達が家に来ているぞ!」
「名前か? あぁ、ごめんあまりにもうれしくて聞いてなかったわ」
男の人はスマホ通話を止めると話しかけてきた
「ごめん。名前なんて言うんだっけ? あまりにもうれしくて肝心なこと聞きそびれちゃった」
「あのさっきもひよりさんに伝えましたよ……春風朱美です」
男の人はすぐにスマホ通話に戻った。
「春風朱美さんていうんだ。 なに知らない? わざわざ家まで来てくれたんだぞ。 しらない……」
男の人は何かを思い出したかのように通話を止めた。
「なぁ春風朱美さん、聞いてもいいか?」
「なんでしょうか」
「ひよりとは、ツイツイで知り合わなかったか?」
「そうですけどそれが何か?」
「ツイツイネーム”春美“だよな」
「だからそれがどうしたっていうんですか。執事の方にも言いましたけど知らないって言われて……あれ、なんで私のツイツイネームを知ってるんですか?」
男の人は、スマホを操作すると、なにかを見てつぶやいた。
「学校終わってすぐに婆のところに行ったからなぁ。見落としていたわ」
「何を見落としていたんですか」
「ダイレクトメッセージだよ」
「理解するために、全部目を通すまで待て」
そういうとスマホを一生懸命操作している。
「なるほど、事件はすべてつながった。一旦ここを離れるぞ」
「えっ、どういうことですか?」
「あぁもうめんどくさいな、ほらこれをみろ」
男の人はスマホを操作するとツイツイのトップ画面らしきものを見せてきた。
そこには見覚えのある”お菓子屋“さんの画面であった。
なんで彼がお菓子屋さんの画面を開けているのか不思議でならない。
「いい加減理解しろよ。 俺がお菓子屋だ!」
彼がお菓子屋さん? だって高見沢ひよりって別にいるのに?
「ちょっと事情があって、本名は妹のはひよりのを使っていた。ひよりにバレてるだろうけど一旦引くぞ!」
高見沢家の中を見ると、誰か女の子が出できた。
「監視カメラから見てやがったんだよ。急げ!」
「あのちょっと待ってよ」
「のろのろだな」
「荷物が重いんだもん」
「そんなもん置いていけ!」
「乙女の大事なものが積まているんです」
すると彼は私からカートを奪うと、荷物を持って走ってくれた。
ようやくこれで彼のスピードに追い付くことができた。
走ること数十秒?数分?ほどでようやく止まった。女子高生とは言えど朝から何も食べないし、知らない土地での旅の疲れからもう走れない。
「はぁはぁ、どこまで行くのよ」
「とりあえず安全な場所だ」
「あそこはあなたの家なんでしょ。そのほかに安全な場所ってどこよ」
「ホテルだ。ホテル。ラブホテルに朱美を匿うから」
「らっ、ラブホテル!!!?」
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