第140話 理解不能な国王達

 世界VSエデンの決闘が決定してから三週間経過した。

 俺とサクラの生活はのんびりした物だった。

 帝城での口喧嘩の結果、ザクスとナタリー、そしてアリーゼの入国も許され、皆で帝都観光を楽しんでいた。


 ユニコーン隊の入国もユニコーン達が魔法を使った場合決闘に負けた事にする事を条件に許された。

 但し、正当防衛は認められたので、ユニコーン隊には帝国騎士団から監視が付いている。

 当初ビクビクしていた監視の騎士達も、ユニコーンの賢さと人懐っこさ、何よりもその美しさに魅了され、今では友好的に接してくれている。


 決闘の会場は帝国が急ピッチで進めている。

 決闘は世界各国に通知され、観戦チケットは即完売したそうだ。

 当然のように賭けも行われている。

 今のところ帝国側の圧勝を予想する者達が圧倒的らしい。

 俺はエデンの圧勝に賭けたいが、女神の使徒なので自重している。


 のんびり観光していると言っても完全にやる事が無い訳では無い。

 各ギルドとの面会や今後エデンが開発する予定の商品登録も行った。

 今回俺は自転車と魔力を動力とした自動ドアを特許登録し、サクラがセクシー系の下着や網タイツなど、女性も男性も喜ぶ方面のデザインを登録した。


「これは、カロリーバーとセット販売で爆発的に売れるでしょう。私も責任を持って使用し、レポートを提出します」


 とは、服飾ギルド総本部長のアンネマリー女史の言葉だ。

 やはりエルトガドの女性は貪欲だと思う。

 日本人が控え目なだけなのだろうか。

 まぁ、少子高齢化予防としても役立つアイテムだろう。


 それ以外にも各国から面談希望が殺到した。

 当然だが、決闘に帝国側で参戦する国との面談は全てお断りだ。

 俺とサクラが面談したのは三カ国。

 ドノヴァン帝国、レクストン共和国、そして、センドラド王国だ。


 ドノヴァン帝国との面談はジェイコブ陛下と面談した。

 お互いが信念に基づく行動を称え合い、俺が提唱する三戒とジェイコブ陛下の行動指針が一致しており、決闘の結果に関わらず魔素枯渇危機と三戒を広めてくれる約束をして貰った。


「私はカミーユ殿が負ける未来が見えないが、他の国はそう思っていないのだろう。いくつかの国では市民達が蜂起して混乱するだろうな」

「その時はジェイコブ陛下が纏めて下さい。今まで権力を持った事の無い市民が国体を維持する事は難しいでしょう。エデンでは法治国家を始めますので、それも参考にして頂ければ。権力者の責任と義務、市民の責任と義務、何をすれば罪になるのか、罪を犯した場合どのような罰を受けるのか。全て法で定められます。一見市民の為の施策のように見えますが、為政者の為の法でもあります」


 このような感じで非常に友好的かつ建設的な面談を行う事が出来た。

 今後もこの関係を維持したい。


 レクストン共和国はガエル国王と面談した。

 大国のトップが総合ギルドに足を運ぶとは前代未聞だろう。

 国王自ら足を運んで何を話すかと思えば、『今謝れば俺が取りなしてやる』と上から目線の命令だった。

 大国の国王だから、上から目線なのは理解出来るが、俺達が負ける前提で、共和国の利益を最大化する事が目的であるのが丸見えなのが滑稽に見える。


「ガエル国王が心配される事は良く判りますが、エデンが負ける事は万に一つもありませんのでご心配なく。玉座に座る三国と、三国と運命を共にする各国が決闘後に直面する困難に目を向け対策をされておく事が肝要かと」

「この期に及んで大言壮語を吐くとは……。そこまで愚かな者だとは思わなかったぞ。共和国の最後の情けを断った事を後悔すると良い」


 お互い負けるつもりが無いからこうなってしまうのは当然の成り行きだろう。

 旧公国やセンドラド王国で起きた事は当然知っているだろうが、自分だけは大丈夫という正常性バイアスが働いているのだろう。

 それは俺にも当てはまるのだろうが……。

 しかし、俺はエルトガドという場所に於いて負ける要素が皆無なのだ。


 最後に面談したのはセンドラド王国だ。

 ルーラント国王、セシル宰相、名前は忘れたが王妃の三人が総合ギルドまでやってきた。

 魔素供給の停止を阻止する為に言い訳を並べ不必要な貢ぎ物を差し出すだろうと思っていたが、正しくその通りだった。


「女神クレティア様の使徒であるカミーユ国王。この度のライオネル帝国皇帝からの書簡に関しましてはセンドラド王国は一切関知しておりません。どうか魔素供給の停止に付きましてお考え直し頂けないでしょうか」


 ルーラント国王が土下座して謝ってきた。


「ルーラント国王。そのような言い訳が通用するとでも? 百歩譲って書簡の内容について知らなかったとして、書簡の内容をハリスン陛下に一任した責任はあるはずだ。しかも、ライオネル帝国と合同で挙兵している。魔素供給の停止はかなり温情があると思っているのだが?」

「ちっ、違います! 誤解です! 帝国からの書簡はカミーユ様とサクラ様を各国首脳にお披露目する為と聞いておりました。誰があのような内容になると想像出来ましょうか。帝国との挙兵についても誤解があります。帝国との合同演習は定期的に行っております。我が国にはエデンに敵対行動する理由がございません。万一エデンに対し軍事行動を取っていたとしても、それは帝国軍のみの行動かと」


 全く話にならない。

 素直に謝罪し、今回の決闘に参加しないから減刑して欲しいと言うなら少しは話を聞いても良かったのだが、謝罪の言葉も無く『お互い勘違いしているようなので歩み寄りましょう』的な事を言われて、『はい。そうですね』とはならないだろう。


「国王さん。貴方達の話は聞く価値もありません。謝罪の言葉も無く、決闘に参加する準備は進めている。どちらに転んでも自分達の利益は守ろうとする。エルフ自治領の領主も最低だと思っていたけれど、それに劣らず貴方達も最低ね」

「まぁ、貴方達は女神クレティアに二度敵対した。女神は全てを許す訳じゃ無い。罪を犯した者には罰を与える。当然だろ? 何度も言うが、国全体がブッシュ領と同じにならないだけ情けをかけている事を有り難く思え。そして、今まで支えてくれた国民に対し国王として貴族としての責任をしっかりと取れ。決して死ぬ事は許さん」


 顔面蒼白で三人は帰って行った。

 国王以外の二人が何をしに訪れたのか全く判らなかったが、本当に何をしに来たのだろうか?


【マスター。アレですよ、アレ! 間違いありません! アレです!】 

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