第138話 勝利の条件

「俺達の話が正しいと証明されればライオネル帝国には献上品の返却、玉座に座る三国には教会とエデン製品に対する税の免除を。センドラド王国には魔素の遮断。此処ここに集う各国は国民へ魔素枯渇危機と女神クレティアの恩恵を説明する事を実行して貰う」


 ライオネル帝国が負けを認め権威の失墜と税収減、魔法ありきの世界で魔法が使えなくなる恐怖。

 クレティアへの信仰を促し信徒獲得。

 ライオネル帝国が献上品を返却する事は物理的に無理なので帝国の信頼は地の底まで落ちるだろうが……。


 俺とサクラが求めるのはクレティアへの信徒獲得とクエスト達成なのでこの要求で問題無い。


「我が帝国はその条件で問題無い。異議のある者は?」


 ハリスン陛下が会場を見渡し確認を取る。

 誰も異を唱える者はいない。

 まぁ、三大国以外は単に国民に話をするだけだからな。


「では、何時いつ、どのように真偽を確かめるのかの方法ですが……」


 チェス宰相が話を進める。


「先程サクラが上げた五名を護送してこよう」

「一ヶ月後でどうかしら? 各ギルドのトップに真偽を判断して貰えば良いと思うわ」


 俺が真贋の魔法を使っても良いし、嘘発見器的な水晶を使っても良い。

 どちらにしろ五人が来れば全て解決となる。


「待たれよ」


 ドノヴァン帝国ジェイコブ陛下が待ったをかける。


「カミーユ殿はエルトガドの常識に疎いとお見受けする。今回のように国と国とが対立する場合、決闘で決着を付けるのが常だ。用意した証拠や証言が本当に正しいのか不明だからだ。いくらでも証拠は用意出来るからな」


 成る程。

 武力に勝る国や高ランク冒険者を抱えている国であれば、難癖を付けて決闘に勝つ事で何でも出来る世界なのか。


「了解した。俺達は問題無い」

「私達はどんな条件でも受け入れるわよ?」


 どんな条件でも受け入れるというサクラの言葉に会場は再びザワつき出す。

 相手を見下した傲慢な言葉と受け取ったのだろう。


「では、今回の件は決闘にて決着を付ける事で異議はございませんか? 異議のある方はご起立下さい」


 チェス宰相が会場を見渡すが、誰も立ち上がっていない。


「満場一致で決闘を執り行う事を決定いたします」


 ハリスン陛下は思惑通りに事が進み勝利を確信したのだろう。

 にやりと笑い、下卑た視線をサクラに送る。


「では、今回の決闘について詳細を取り決めたいと思います」

「先程カミーユ殿は三大国だけで無く此処に集う全ての国に罰を与えると言った。決闘に参加する国は此処に集う全ての国としたいが、いかがか?」


 間髪入れずにハリスン陛下が自信に満ちた表情で俺に問う。


「別に問題無い。但し、参加する国は女神の使徒に対して二度目の敵対と見做みなす。エデンが勝利した場合、ライオネル帝国と同じ罰則が条件だ。免税と魔素枯渇危機と女神クレティアの恩恵を国民に知らしめる事だ」


 一度目の過ちは許すが、二度目は許さない。

 そうで無ければレオニラン公国とセンドラド王国、ブラック男爵で罰を受けた人達が浮かばれない。


「カミーユ殿より罰則の変更の申し出がありましたが、ライオネル帝国、センドラド王国側から罰則の変更はございませんか?」


 俺の発言を受けてチェス宰相が条件の確認を行う。

 流石エルトガド一の超大国の宰相。仕事が出来る。

 是非エデンに引き抜きたい。


「そちらが条件を変えるのであれば、我々も条件を変える。我々が勝利した場合はエデンの全てを頂く。死の森の資源、レオニラン公国の民、国土……。全てを我々がもらい受け利益を分配する」

「私達は問題無いわよ。カミーユが死んでしまうとエリクサーもポーションも作れないし、魔獣達も言う事を聞かないけれど」

「成る程……。では、カミーユ殿は、処刑では無く奴隷契約をして貰おう。勿論、サクラ殿もだ。そして、現在エデンが手にしているもの全てを頂こう」

「問題無い。その条件を受け入れよう」


「では、この決闘に於いてかけるものに付いてはこれで決定いたします。次に決闘の方法を取り決めたいと思います」


 罰則は決まった。

 負けると全てを失うエデンと、エデンに対し免税をする国々。

 平等とは言えないが、双方条件を出して合意したので問題無い。


「先ず、決闘の場に出る者は人族とする事。魔獣の参加は認めない」


 その条件は当然だろう。

 エデンの魔獣は死の森の魔獣だ。

 一匹で都市が壊滅するほどの戦力だ。


「勿論問題無い。民間人以外の人族と言うのが条件だ。人数制限は設けない」


 再び会場がザワつく。

「なんたる傲慢」

「負けた時の良い訳を用意している事は明白だ」

「決闘に言い訳は通用せぬ。民草もそれはよく理解している」


 連合軍対エデン。

 どう考えても自分達が負けると思っていないようだ。


「負けた時の良い訳など誰も聞かぬぞ」

「あぁ。問題無い。元より言い訳などする必要は無い。どう考えても勝利はエデンだ」

「その強がりと傲慢さが貴様等の過ちだ」

「自分中心に世界が回っていると思っているその考えが間違っている事を判らせてやろう」


 交わる視線がバチバチと火花を散らし、幼稚な舌戦を繰り広げる。

 言っている内容は本当に子供の喧嘩だ。


「では、決闘の参加人数は民間人以外の者で無制限と言う事で決定とします。決闘の方法は?」

「此処は我々が譲るとしよう」

「あら、優しいのね。じゃぁ……。魔法も含め何でもありで」

「死亡もしくは降参、審判による戦闘不能の判定で退場とする。勝敗は代表者の降参もしくは全滅」


 帝国側が降参するとは思えないので、どちらかが全滅するまで殺し合う事になるだろう。


「全く問題無い。審判をどうするかが一番の問題となるか……」


 中立の立場で審判が出来る組織、人を探すのが一番の問題だな。

 一番荒事になれている冒険者ギルドはエデン不介入の約定があるので引き受けてくれないだろう。


「それであれば、私が審判を引き受けよう」


 ドノヴァン帝国ジェイコブ陛下が名乗り出た。


「ドノヴァン帝国は今回の決闘に参加しない事を宣言する」

「何時からドノヴァン帝国は臆病者になったのだ?」


 ハリスン陛下がジェイコブ陛下に向け侮蔑の視線を送る。


「卑怯者からそのように言われる筋合いは無い。今日明らかになった事実から、私はカミーユ殿の言葉を信じる。信じる者へ刃を向ける事は無い。しかし、助太刀する程信用はしていないと言う事よ」


 両皇帝が睨み合い、お互い一歩引かない。

 これが力とカリスマ性で統治を行う皇帝の姿なのか。

 自信と覚悟、プライドとアイデンティティーがぶつかり合う。


【マスター。流石皇帝ですね。エロ魔王極という色物とは違いますね。色物も突き抜ければ皆畏怖の念を抱くでしょう。今夜は励みましょう】 

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