第137話 大国に楯突く男

 誰かが『ハリスン陛下は何を恐れてこのような事をしているのだ』と呟いたが、ただ単に気に食わなかっただけだと思う。

 エルトガドで武力を含め国力が頭一つ飛び抜けているライオネル帝国を無視して、センドラド王国の属国であるレオニラン公国に世界初のエリクサーを渡しているのだ。

 世界はライオネル帝国を中心に……、否、世界はライオネル帝国皇帝を中心に回っていると思っているのに、自分を無視して世界が動き出したのが我慢出来なかったのだろう。


 帝国の諜報員や各国との情報交換によって、俺がレオニラン公国の騎士団を壊滅させ、ブラック男爵領を更地に変えた事を理由に俺を魔王に仕立て上げ、絶世の美女と噂のサクラを手に入れようと思った……。


 大量の献上品は皇帝から各国へ下賜され、帝国の地位を強固にする道具にするのだろう。


 まあ、どんな理由であってもサクラを物として扱った時点で決して許さないのだが、約束を守った俺達に対して刃を向けた。

 レオニラン公国もセンドラド王国も一度目の過ちは謝罪を受け入れ許したが、二度目には容赦しなかった。


 帝国は謝罪も無いまま二度過ちを犯し、実際に武力行使をした。

 センドラド王国に至っては三度目。


 ラブレターには各国の総意となっている。

 本当に各国の総意であったのかの確認は必要だな。


「チェス殿。ハリスン陛下からの書状には『各国の総意』とあった。玉座に座る三国以外の各国は本当に同意していたのだろうか? 採決もしくは委任状の提出等客観的な物はあるのだろうか?」

「通常そのような事は行いません。慣例ではございますが、ライオネル帝国、センドラド王国、レクストン共和国の庇護下にある国は、宗主国の決定に従います」

「全ての国が三国の属国なのか?」

「カミーユ殿。それは違うぞ。我がドノヴァン帝国は独立国家だ。三大国の属国では無い。帝国がカミーユ殿に要求した概要は知っていたが、同意もしておらぬし、同意を求められていない。本日はエデンを国家として認めるか否かの採決とカミーユ殿とサクラ殿のお披露目だと聞いておった」


 ジェイコブ陛下が怒りが籠もった声で答えてくれる。


「ジェイコブ陛下にとっては、書状の内容も含めて寝耳に水と言う事ですか?」

「ああ、そうだ。逆にここまで非礼な書状を受け取って登城した貴殿達に呆れてもいるがな」

「ジェイコブ陛下。我がエデンは世界各国から宣戦布告を受けたのですよ。武力で退けるのは容易たやすい事ですが、どうしても一般市民を巻き込む。それは禍根を生む元となる。戦わずして勝つ事が最善」

「玉座に座る三人は愚かな事をしたものよ……」


 玉座の三人を一瞥しジェイコブ陛下は着席した。


「チェス殿。ドノヴァン帝国と同じ立場の国は他には?」

「今までの慣例では無いですな。明確な主従関係が無くとも、三国の決定に異を唱える事はありませんでしたから」


 それで良いのか? とも思ったが、大国に楯突くとあっという間に制圧されるだろう。

 つまりは大国に逆らえない国々は俺達の敵と言って良いだろう。


「つまりはドノヴァン帝国以外の国は女神の使徒に対して宣戦布告を行い、約束を守った我々エデンに対し武力行使を認めたのだな?」

「待て! 貴様は先程から宣戦布告だの武力行使だのと言っているが、書状には何処にも宣戦布告と書いておらぬし、仮に武力行使が行われていたとしてどうして判るのだ!」


 何処の誰か知らないがご立腹のようだ。

 俺達からしたらナイスアシストなのだが。


「ライオネル帝国第一騎士団マルヨ・ホールネ団長。第五騎士団ホルヘ・カレーニョ団長及び第一、第五騎士団員約千名。センドラド王国騎士団統括指令スレヴィ・クパリ侯爵。他第一騎士団から第五騎士団までの騎士団長及び団員約三千名」

「このような大軍を良く動かせたな?」

「総指揮はライオネル帝国ウリセス・ベナリベス公爵閣下だそうよ」


 サクラが捕虜となった責任者クラスの名前をスラスラと告げていく。

 アンジェラをサクラの眷属としたのだろう。

 聞いていないが空気を読んでさも当然のように振る舞う事としよう。

 俺の仕事は空気を読む事。サクラに気持ちよく仕事をして貰う事だ。


「仮に宣戦布告と明記していなかったとしてだ、こちらは約束を守っているのに一方的に武力行使をする事は問題と思わないか? 君の国は同じ事をされても問題にしないと言うのか? それがこの世界の常識なのか?」


 何処の誰かは言葉が出ないようだ。


「確かにカミーユ殿が言われる通り宣戦布告も無く武力行使をすればそれは単なる侵略だ。その行動に正義は無い」


 玉座から声が届く。

 この声はレクストン共和国国王の声だろう。


「もしもカミーユ殿とサクラ殿が言われた通りの事が起きていたとすれば、我がレクストン共和国はライオネル帝国とセンドラド王国を断罪せねばならん。しかし、今の発言が真実で無ければ我々はたとえ女神の使徒であろうとも排除せねばならん」


 厳しい表情で共和国国王のガエル陛下が発言する。

 単なる意見で解決策は何も無いがな。

 そしてこれは共和国は武力行使に関わっていませんアピールだ。

 玉座の他の二人の表情がそれを物語っている。


「私の書状が言葉足らずであった為に皆に不要な時間を取らせてしまった事は詫びよう。確かに我が国とセンドラド王国で合同演習を行っていた。合同演習を武力行使と勘違いし拘束したのであればカミーユ殿。貴殿等の行動こそが軍事行動だ。賠償も含めどう責任を取るつもりだ?」


 あくまでも自分達は悪く無いと主張するらしい。

 今までそれが通りってきたから今後も通用すると思っているらしい。


「簡単な事だ。先程の五名をこの場に連れてきて真実を確かめれば良いだけだ。ライオネル帝国の主張が正しければ書状の通り俺を処刑しサクラを差し出そう。それと、今後エデンで生み出される利益を全て差し出そう」

「あら、私だけで良いの? 私の眷属もセットで良いわよ」


「俺達の話が正しいと証明されればライオネル帝国には献上品の返却、教会とエデン製品に対する税の免除を。センドラド王国には魔素の遮断。此処ここに集う各国は国民へ魔素枯渇危機と女神クレティアの恩恵を説明する事を実行して貰う」


 今日のところはライオネル帝国に俺達の要求をのませるだけで良い。

 仕上げは次回だ。


【マスター。このような展開は誰も望んでおりません。エロ魔王極の象徴であるマスターのマスターをポロリすれば全て解決します。さあ!】

      

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