第136話 新たな扉が開く予感

 ルーラント国王が震える気持ちも理解出来る。

 自国の貴族が俺とサクラの逆鱗に触れ、文字通り領地が消滅したのだから。

 王城の地下牢で日々ブラック男爵の現状もよく知っているだろう。


「少なくともライオネル帝国とセンドラド王国はエデンと戦争状態であり、現在帝都を護衛達が包囲している事を忘れる事無く発言して欲しい」

「私達は要求通りに帝城へおもむいたのに一方的に軍事行動を起こされているのよ。先ず私達が帝国へ渡したエリクサー他全ての物を返却して頂戴」

「俺達は国も領地も欲していない。目的は女神クレティアの信徒を増やす事だ。魔素枯渇危機に際して女神クレティアの慈悲を正しく認識し感謝を捧げ、『日々女神クレティアに感謝を捧げる』『人として正しい行いをする』『笑顔で挨拶する』の三戒を実行して欲しい」

「それと、残念だけどセンドラド王国は女神クレティア様の慈悲を拒否したと見做みなすわ。一度は許されたのに残念ね」

「俺達の事を調べれば直ぐに判るが、二度目は無い。センドラド王国からは魔素が無くなる。当然、生活魔法を含め全ての魔法は使用出来なくなる」


 俺とサクラを否定もしくは約束を違えると言う事は、つまりは女神クレティアとの約束を違えると同義だ。

 若干暴論とも思えるが……。


 魔素枯渇危機を救ったクレティアを拒否したと見做してクレティアの慈悲による恩恵を与えない事にしたのだ。


「魔素が無くなる? 荒唐無稽な事をのたまうでは無いぞ」


 皇帝ちゃんは激おこだな。

 自分達の言葉が否定される事など全く考えられないのだろう。


「簡単な事だ。信じられないようだから今から帝城の魔素を無くそう」


 右手の指で『パチン』と指を鳴らす。

 ヘルピーが頑張って帝城を範囲指定し魔素供給を遮断し、帝城内の魔素を排出する。

 俺はどのような魔法を使っているのかさっぱり判らないが、端から見ると俺の魔法に見えるだろう。


(ヘルピー。ありがとう)

【この程度の事は造作もありません。報酬は……。ねぇ?】


 エロ魔王極に進化してから新たな扉を開けつつある事は自覚しているが、完全に扉を開放しそうで恐ろしいが、何処か楽しみにしている自分が怖い……。


「帝城から魔素を無くした。生活魔法でも攻撃魔法でも好きなように使ってくれ」


「ブリーズ……。ブリーズ……」

「なっ。魔法が……」

「どういう事だ! このような事をして許されると思っているのか!」


 魔法を試して愕然とする者、俺を罵る者。

 会場が再び騒がしくなる。


「静粛に。静粛に願います」


 チェス宰相が呼びかると素直に静かになる。

 この会合? 会議? が始まって僅かな時間しか経っていないが、チェス宰相はかなり疲れているようだ。


「俺が言っている事が嘘では無い事は判って貰えたかな?」

「あぁ……。信じられんが事実のようだ……」


 皇帝は事実を事実として何とか受け止めたようだ。

 納得も理解も出来ていないようだが。


「それではこれより真実をつまびらかに致します」


 ようやく本日のメインイベントが開催された。


「先程カミーユ殿がライオネル帝国ハリスン皇帝陛下からの招集状として読み上げられた件につきまして、間違いはございませんか?」

「あぁ。間違いなく俺がしたためた書状だ」


 皇帝も流石に認める。


「ではカミーユ殿。その書状をお預かりします。今後の事実確認に必要ですのでご理解を……」

「勿論問題無い」


 俺は素直にラブレターをチェス宰相へ預ける。


「では改めて私が読み上げます」


 先程俺が読み上げた内容と同じ内容だが、第三者が読み上げる事で考えられない内容が真実として伝わり、各国代表達が難しい顔をして思考にふけっている。


「内容についても間違いございませんか?」

「一言一句は覚えてはおらぬが、内容に相違は無い」


 堂々と言い切る皇帝は全く悪びれた様子が無い。


「ハリスン陛下が指定された日時にカミーユ殿とサクラ殿が登城されてた事は今更確認の必要はありません。又、入国に際してはお二人だけで入国された事は記録されております。更に、陛下が要求された品につきましても入国時に引き渡されている事は確認しております。この事実はライオネル帝国宰相チェス・カナルとして事実確認を行っております」


「本当に二人だけの入国なのか? 時間をずらし入国門を違えたと言う事は無いのか?」


 誰か判らないが質問が飛んでくる。


「ドッグタグの国籍が『エデン』となっている人物の入国はこのお二人だけでございます」

「間違いなく二人だけだぞ。御者も総合ギルドの職員を派遣して貰ったし、護衛は帝都の外で待機している」

「そのお陰で昨日は総合ギルドの宿泊施設で身体を休められたのよ。帝国は私達の事を客人では無いと考えているようで、宿泊場所の用意も無かったのよ?」


「サクラが愚痴を言いたくなるのも理解出来るが帝国が宿を準備出来ない理由を考えればしょうがないだろう。今は武闘祭の真っ最中で、俺達にラブレターが届けられたのは三日前だ。普通に考えれば旧レオニラン公国から帝国まで三日で到着する事は無理だろ? 宣戦布告した相手に宿を用意する理由が無い」


 再び会場がザワつく。

 俺とサクラの発言に対してわざわざ反応してくれて少しテンションが上がるな。


「待て待て。今の言葉が真実であれば、カミーユ殿が宣戦布告として受け取るのも頷ける。内容も女神の使徒へ向けた者では無いが……」


 皇帝の異常さを気付いた人がいるようだ。


「ハリスン陛下。お答え願います」

「私は概ね一月前に書状を認め至急届け返事を受け取るように指示を出したのだ。使者が戻っておらぬので何時いつそちらの手元に届いたのか預かり知らぬ」


 流石皇帝。

 責任は部下に押しつける気だ。

 まあ、一月前に帝城を出発したとしても今日帝城に来る事は無理なスケジュールなのだが。


「仮に一月前に書状を認めたとして、急いでも十五日はかかるだろう。何も準備せずに直ぐに出発し、入出国を含め道中問題無いとしてもギリギリの日程。準備を考えると最初から今日お二人が本日登城する事は不可能なのは明白。ハリスン陛下は何を恐れてこのような事をしているのだ」


 流れが俺達に傾いてきたが、何時まで俺とサクラは立ちっぱなしだろうか……。


【マスター。貴方の身体能力は人外です。サクラの為に空気椅子になってはいかがですか?】    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る