第134話 It‘s Show Time?

 サクラの父親が静かになり、会場はサクラに言葉を促すように静寂に包まれる。

 ゆっくりと会場を見渡し、ゆっくりとサクラは言葉を紡ぐ。


「カミーユも私も争いを好みません。争いは憎しみを生み、民を疲弊させます。帝国からを受けて尚、この場にいる事がその証明でしょう。しかし、クレティア様に連なる者や守るべき存在が害された場合は先頭に立ち死力を尽くします」


「宣戦布告だと?」

「帝国と争う事を恐れたのか?」


 会場がザワつく。


「発言力を少しでも高めるために自らの娘を死地に送り、全てはエルフの悲願のためにと自らの命を削るシスターの声を無視し、自ら神と崇めるクレティア様の使徒を蔑ろにする。そのような者がこの場にいる資格があるのでしょうか」


「サクラ殿。貴殿の言う事は正しい。当面の間エルフの自治権を停止し調査を行い正しく統治する事を約束しよう。ハリスン皇帝陛下及び此処に集う各国に謝罪を」


「謝罪には及ばない。この場にこの男を呼んだのは帝国だ」

「感謝する」

「良い。あのエルフの男を退出させよ」


 騎士がサクラの父親を拘束し会場から引きずり出していく。

 サクラの父親なら最後まで胸を張って堂々と退場して欲しかったのだが、所詮は欲にまみれた小物だったのだろう。


「静粛に願います」


 チェス宰相の声が会場に響き渡り、会場は再び静かになっていく。


「では、話を戻します。ジェイコブ陛下。二人の事はこれで問題ございませんか?」

「ああ。二人の件はそれで良い。残り二つの件は?」


 ドノヴァン帝国のジェイコブ皇帝の確認事項は三つだった。

 ・俺とサクラが本物か。

 ・三大国で決定した理由。

 ・この場が茶番で無い事の証明。


「三国で話し合い決定した理由は我が説明しよう」


 左側の玉座に座っている共和国国王(仮)が立ち上がった。


「そこの二人は初めてであるな。我が名はレクストン共和国国王ガエル・ジョナタン・コレット・レクストンである」


 共和国国王(仮)は、共和国国王で間違いなかったようだ。


「理由は非常に単純だ。昨日そこの二人はこちらの条件通りたった二人だけで帝都へ入り、要求していた品をライオネル帝国に引き渡している事。非常に忙しいであろう諸侯に無駄な時間を取らせては申し訳ないという至ってシンプルな判断だ。当然我ら三国で決定する事では無いと承知している。異議があれば誰でも自由に発言して構わない」


 異議を唱えれば判っているよな? という脅し込みで非常に簡単な説明を行い着席した。

 こいつも世界の中心気取りだな。


「承知した。では最後の質問の回答を聞こう」


 俺とサクラの事と先程の回答はジェイコブさんにとってはどうでも良い質問だろう。

 本命はこの三つ目だ。

 この場が茶番で無い事の証明。


 普通に考えれば俺とサクラがこの場にいる事は不可能だ。

 なのに、この場にいる。

 しかも、要求していた品は納品済みなのだ。


 俺達と三国の間で打ち合わせ済みと思われても仕方ないだろう。

 三国の中にはセンドラド王国も含まれているのだから。


「それは、俺から説明しよう」

「かっ、カミーユ殿……」


 軽い感じで声を上げた俺にチェス宰相が戸惑いを見せる。

 茶番では無いのは当事者の俺がよく知っている。

 説明くらいしてやろう。


「最初に伝えておく。俺達にとってエデンを国として認めるかどうかは些細な事であり、正直どうでも良い。何故なら俺とサクラの目的は女神クレティアの信徒を増やす事であり、国という枠組みは不要だ。現在旧公国で建国祭の準備をしているが、それは、旧公国を滅ぼした俺達の責任を果たしているだけだ。旧公国の民には何ら責任は無いし、クレティアの事を信仰しているからな」


 守るべき対象に旧公国の民が入っただけだ。


「ライオネル帝国の皇帝から俺達の元へが届いたのは僅か三日前だ。此処にいる者達はその事を知っていたのだろ? 三日前に書状が届いて今日此処に俺達が来れるはずが無いと。だからジェイコブ陛下はこの場が茶番であると疑っている」

「概ねその通りだ。茶番であれば三国は我々を侮辱しているに等しい」


「安心してくれ。この場は茶番では無い。俺達は売られた喧嘩を買いに来ただけだ」


「貴様。先程から宣戦布告だの売られた喧嘩を買いに来たなどと巫山戯ふざけた事を抜かしよって、各国首脳が集まるこの場で不敬極まりない」


 何処の国の誰なのかは知らないが、顔を真っ赤にして『僕、怒ってます』アピールをしてくるおっさんがいる。


 華麗にスルーしておこう。


「俺とサクラは女神クレティアからの依頼により女神像を正しい姿に変更するために、全ての教会を巡回中だ。その事は既に手紙で伝えてあるので承知しているだろう」


 センドラド王国から一旦森に戻った時に『接待不要』のメッセージ付きで送っているからな。

 知らないとは言わせない。


「センドラド王国でがあったので、予定より遅く帝国へ到着しそうだったのだが、現在武闘祭中と言う事で、俺達は入国を見合わせ、一旦エデンの森に戻っていた。俺達は不要なトラブルを避けるためにしたのだが……」


 重要な事なので二回行ってみました。

 

「今から三日前、血相を変えて宰相が俺の元にライオネル帝国皇帝の証しで封をしてある書状を持ってきた。内容は知っているだろうが、敢えて此処で読み上げよう」


 俺は手紙を取り出し、読み上げていく。

 ・帝国が認めていないエデンと名乗る国を認めるか審議してやる。

 ・謁見してやるから、三日後の正午に帝城に登城しろ。

 ・帝都に入れるのは俺とサクラだけ。他は城壁外へ待機。

 ・エリクサー百本、各種ポーション各千本、各種カロリーバー各種千個、鏡五百枚を献上せよ。

 ・約束を破った場合、森と旧公国は帝国領とし、勝手に国王を名乗った俺は死刑、サクラは今上帝の側室に。


「この手紙には『この条件はセンドラド王国を含む全ての国の総意である』と書いてある。此処に集まっている全員が俺達に宣戦布告をしてきたという訳だな」


 俺とサクラは怒りを表すように殺意を振りまく。

 殺意に当てられ皆顔面蒼白だ。


「護衛も言われた通りに城壁外で待機している」

「「「「ウヲォォォ~~~~~」」」」


 念話で熊どんに指示し、帝都を取り囲んでいる魔獣達が咆哮を上げる。

 顔面蒼白だった国王達の中には粗相をする奴も出始めたようだ。


「ジェイコブ陛下。これは茶番では無いのだよ。女神クレティアの使徒カミーユと、眷属であるサクラが、君達を裁く場なのだよ」


【マスター。ドヤ顔してますが、最後の台詞が絶妙に威厳がありませんね。どうしてもして欲しいのですね】

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