第133話 世界を魅了するハイエルフ
ヘルピーがまたもやぶっ飛んだ事を言っているが、それを実行しても誰も喜ばない。
否。サクラは喜ぶ……、のか?
俺は露出狂でも無いし、ましてや男だらけのこの場でポロリしたところで誰得?
外交デビュー戦で変態の烙印は押されたく無い。
デビュー戦以外でも押されたくは無いが……。
気を逸らしてはいけない。
エルフのおっさんを外交的に死亡させるミッションに集中しよう。
確か、『謝罪の必要は無い。この場でムルシア卿がこのような話を出す方がおかしい。貴殿らの心配も良く判る』と言っていた。
「寛大な心感謝する。しかし、我々も貴国ほどでは無いにしろ困っているのです」
「と言うと?」
咎められないところを見ると、他の首脳もエルフのおっさんの事を良く思っていないのだろう。
「私はエルトガドの魔素枯渇危機を解決するために別の世界……、異世界より女神クレティアに派遣されました」
自分が異世界人である事を最初から暴露しておいて良かったと思う。
と言うか、死の森で生活している言い訳が思いつかなくて何も考えずにサクラに話したのが功を奏したのだが……。
「私が生きていた世界には魔法はありませんでしたが魔素は存在していたようで、女神クレティアはその世界の魔素を私の体内に圧縮収納し死の森の中心にある世界樹へ転送し、転送完了と同時に私の体内から魔素を解放し、魔素枯渇を解消し、魔素枯渇の原因であった世界樹を蘇らせました」
突然始まった俺の身の上話的な魔素枯渇危機解決の経緯に皆聞き耳を立てている。
「二週間ほど森の魔獣を狩りながら生活していましたが、流石に不足する物も多く、森から一番近いレオニラン公国へ向かっていた時に戦闘音を聞き、駆けつけました。そこには狼の魔獣と一人のエルフが睨み合っていました。周りを見ると三人のエルフの女性が倒れており、最後まで戦っていたエルフの女性も明らかに深手を負っていました。私が現れたのを見て狼の魔獣は森に消え、私は四人を荷車に乗せ世界樹の元へ戻りました」
全てを語ってはいないが嘘は一切無い。
「今でこそ完全回復薬であるエリクサーを私は作れますが、当時の私はエリクサーもポーションも作った事がありませんでした。森の狩りでは傷一つ付いた事がありませんので、必要なかったのが理由ですが……」
少しだけ『俺、強いでしょ!』と自慢する事も忘れない。
「エルフの女性を助けるために急いで回復薬の作成を始め、エリクサーは出来たのですが、間に合わず……。非常に悔しく彼女の親御さんに申し訳ない思い出一杯でした……」
「きっ、貴様のせいでは無いか! 貴様がエリクサーを用意さえしておれば娘は助かったのだ! 賠償を求める!」
駄目だぞおっさん。
そんな事を言ったらサクラから益々嫌われるぞ?
「ムルシア卿。静粛に! カミーユ殿の説明中だ」
おっさんの味方はいない事に気付きなさい。
隣のサクラがスンッてなっているだろうが!
怒りを静めるための生贄になるのは俺だぞ?
ご褒美でもあるが……。
「せめて四人の事を遺族に知らせ、彼女達の生まれ故郷に戻せればと思い、私はドッグタグを確認しました。そこには……。彼女の名前の後ろには……、このように書かれていました……」
「死の森への生贄……、と」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてくる。
「ムルシア卿は知っていたのです……。世界樹の元へ誰を送っても魔素枯渇は解消されないと……。本当に世界を救う気があるのなら、死の森にたった四人で入る事は無いはずです。私が彼女を発見したのは、森のかなり浅い場所です。死の森の魔獣は常人では傷すら付けられません」
「ちっ、違う! 我々エルフが世界樹へルシアナを派遣した結果世界を救ったのだ!」
「現在、彼女達は世界樹の元で安らかに眠っています。世界樹の大神殿宝物庫に彼女達のドッグタグや装備も保管展示しております」
エデンの国民以外見に来る人はいないがな。
「その後女神クレティアより伴侶として眷属のサクラを迎えレオニラン公国に赴きましたが、公国の教会は酷い状態でした。シスター達は一日一食口に出来れば御の字。当時の公国と教会は不平等な契約を強制され、収入はほぼ無い状態。ムルドラン自治領からは定められた金額を必ず送金しなければならない。何度窮状を訴えても『励め』の一言で済まされる……。教会の現状に私とサクラは愕然としました」
思い出しても怒りがこみ上げてくる。
「それから私達は総合ギルドに相談し、女神クレティアの使徒カミーユとしてムルドラン自治領とノヴァシスト王国宛に、最後まで世界を救うと必死に戦った四人のエルフの英雄と教会の窮状改善のため書状を送りました……」
怒りで言葉が繋がっていかない。
「使徒カミーユが当時の自分の無力さを思い出し、悔しさのあまり言葉が繋がりませんので、この先は私が説明いたします」
良い感じにサクラが引き継いでくれるようだ。
俺の意図はしっかりと伝わっているだろう。
「書状は確かに総合ギルドに届けていただき、ノヴァシスト王国からは丁寧な返書を頂きました。しかし、ムルドラン自治領からは一向に返事が届きません。私とカミーユはポーションとカロリーバーの開発に成功していましたので、販売を総合ギルドに依頼し、教会が私達から仕入れ販売する事とで当座の生活を凌ぎ、公国と交渉し不平等名契約を正常な契約へと何とか戻せました」
サクラの透き通るような声に皆耳を傾けている。
「その事も書状で伝えました。ノヴァシスト王国からは丁寧な感謝の言葉を頂き、ムルドラン自治領からは……。余計な口出しはするな。収入が増えたのなら自治領に治める金額を増やせ……」
「しっ、知らんぞ! でっ、出鱈目を言うな!」
サクラが殺意の籠もった目でエルフのおっさんを睨み付ける。
おっさんは真っ赤だった顔を真っ青にし、ブルブルと震える。
【マスター。流石サクラですね。役者が違います。それに比べてマスターは感情のコントロールさえ出来ないとは……。これはお仕置きのおねだりでしたか。腕を上げましたね……。ねぇ?】
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