第132話 謁見? は荒れ模様

 謁見の間でひときわ豪華な扉が開かれ、護衛騎士を先頭に三人の男達が入場してきた。

 一番後ろはセンドラド王国のルーラント国王だから、一番前がレクストン共和国の国王で、真ん中が帝国の皇帝だろう。


 拍手の中ゆっくりと歩き、三段ほど高い位置にいある玉座まで進んでいく。

 皇帝と思われる男が手を上げると拍手がやみ静寂に包まれる。


 偉そうに俺達を見下ろす三人の男をゆっくりと観察する。


 ルーラント国王は居心地が悪そうにしているが、国王の矜持なのか胸を張り正面を見ている。

 俺とサクラに目を向けたく無いようだ。


 共和国の国王と思われる男性は、四十歳前後だろうか。

 ワインのような深い赤髪で彫りの深い精細な顔つきだ。

 引き締まった身体とからはエネルギーが溢れ出ている。


 ライオネル帝国の皇帝と思われる男性は未だ二十代前半だろう。

 金髪で赤い瞳をしており、はっきり言ってイケメンだ。

 俺はクレティアにいじられてイケメンになったが、素でこの美形とは何とも腹が立つ。

 この若さで皇帝になったのだから、自分に出来ない事は何も無い、世界の中心が自分だと勘違いしているのだろう。


 皇帝(仮)と共和国国王(仮)は俺を敵意の籠もった目で睨んだ後、サクラを下卑た目で舐めるように見た後に示し合わせたように玉座に座る。


「ご着席下さい」


 チェス宰相の声が会場に響く。

 本日の司会? はチェス宰相がするようだ。

 チェス宰相の言葉を聞き各国首脳が着席する。


 俺とサクラには椅子が無いので着席できないので立ちっぱなしだが。


 隣のサクラが動く気配が無いので、俺も堂々と立っていよう。

 サクラがそうするのならそれが正解のはずだ。

 俺は空気が読める男だからこの程度は朝飯前に出来てしまう。


「本日は魔素枯渇危機の際、突然地図上に現れたエデンなる国について、女神クレティア様の使徒を名乗る者及び女神クレティア様の眷属を名乗る者を招聘し、審議を行う事となっておりましたが、ライオネル帝国ハリスン・デクスター・ウル・ライオネル皇帝陛下、レクストン共和国ガエル・ジョナタン・コレット・レクストン国王陛下並びにセンドラド王国ルーラント・ペーテル・ファン・センドラド国王陛下により協議され、その結果をこの場に示し採決を行います」


 急な予定変更だが異論は認めないらしい。

 採決と言っているが、三大国の庇護下にある国は異論は言えないだろう。

 決定したから従えよと言っているに等しい。


「ドノヴァン帝国のジェイコブだ。発言の許可を」

「ジェイコブ陛下。どうぞ」


 ジェイコブ陛下がスッと立ち上がる気配がした。

 隣のサクラが振り返った気配がしたので俺も振り返り発言の主を確認する。


 六十手前の厳つく、恐ろしく目力のある黒髪の武人だ。

 恐らくこの会場の中ではトップクラスの強者だろう。


「三点確認をしたい」


 ギロリとジェイコブ陛下が俺とサクラを見やる。


「玉座の前に立つ二人がくだんの人物である事が間違いないのか。玉座に座る三人で決定した理由。そして、この場が茶番で無い事の証明だ」

「茶番とはなんたる不敬な」


 誰かが怒りの籠もった声でジェイコブ陛下を咎める。


「良い。ジェイコブ陛下がそのように思われるのも致し方ない。今回の議題を提起した張本人達が予定を変更しているのだ。チェス、説明を」


 このような反応を来るのを予想していたのか、ジェイコブ陛下が仕込みであるのかは判らないが、皇帝(仮)は不快感を示す事無くチェス宰相に説明を促した。


「では、先ず玉座の前におられるお二人が女神クレティア様の使徒カミーユと女神クレティア様の眷属サクラと名乗る者です」


「待て、サクラと名乗る者は我が娘ルシアナだ。先の魔素枯渇の際に世界樹へと赴き、見事世界の危機を救った救世主だ。隣の男に騙され従わされているのだ」


 その言葉に会場がザワつく。


 見た目四十前後のエルフのおっさんがギャーギャー言っているが、アレがサクラの父親なのだろう。

 おっさんが言う通り俺の隣にいるのはルシアナで間違いない。

 世界の危機は救っていないが……。


「ムルシア卿。発言の許可はしておりませんが……。貴殿の発言に対し回答いたします。入国の際にドッグタグも確認いたしましたが、表示されております名前はサクラ・ファス・ドゥセ・エデン。これ以上の説明の必要が?」

「しっ、しかし……。百二十年以上共に暮らした我が娘を見間違うはずが無い。世界樹へ赴く際に三大国を含め多くの国々に立ち寄ったはずだ。皆その目で見たであろう」


 サクラの父親の声が会場に響くが、冷ややかな目がエルフのおっさんに注がれる。

 エルトガドでドッグタグの情報は絶対だ。

 国を表す地図や魔力登録装置と同じ古代? 文明のアーティファクトだから。

 サクラのドッグタグは偽造だが……


「チェス宰相。発言を」

「カミーユ殿。どうぞ」


 チェス宰相に目礼し会場を見回す。


「お初にお目にかかる。エデン国国王であり、女神クレティアの使徒カミーユ・ファス・ドゥラ・エデンだ」

「エデン国王妃であり、女神クレティア様の使徒カミーユの妻であり、クレティア様の眷属サクラ・ファス・ドゥセ・エデンよ」


「先程ムルシア卿が我妻の事を卿の娘と言っていたが、それはムルシア卿の娘であるルシアナ・ヘノベバ・レムス・ムルシア殿の事であろう。チェス宰相も言ったようにサクラは間違いなく別人だ」

「そもそもムルシア卿……、いえ、ムルドラン自治領にも、自治領を認めているノヴァシスト王国宛にもルシアナ嬢及び従者三名の亡骸とドッグタグを保管しているとによって書状を届けているのだけれど?」


「ああ。それは我が国でも確認している。ノヴァシスト王国としてエルフの弔いについて口出す訳にはいかないと思いルシアナ嬢の件は一切口出ししないと卿にもカミーユ殿にも返書を出したはずだが?」

「ノヴァシスト王国からの返書は受け取っております。この場で貴国の名前を出したのは自治領側から『書状は受け取っていない』と言い逃れさせないためだ。申し訳ない」

「謝罪の必要は無い。この場でムルシア卿がこのような話を出す方がおかしい。貴殿らの心配も良く判る」


 ノヴァシスト王国もサクラの父親には困らされているようだ。


 この辺りでムルドラン自治領にトドメを刺しておくとしよう。

 外交的に……。


【マスター。仕事が出来ると思っているかも知れませんが、マスターの能力では難しいですよ? マスターのマスターを披露すれば皆従うでしょう。宝剣を解き放ちましょう】  

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