第123話 人外になろう計画

 欲望のままに動けというヘルピーの言葉は無視するとしても、俺がエルトガドに転生する時に異世界でしたいと思った事は確か三つだったはず。

 ・チート無双

 ・スローライフ

 ・ハーレム


 チート無双は実現出来ていると言っても良い。

 はっきり言えばエルトガドで俺は無敵だ。

 毎晩サクラに翻弄されており、頭が上がらないが……。


 スローライフは出来ていないな。

 何せ使徒の仕事と国王の仕事があるので忙しい。

 自分のやりたい事をのんびりと実行する事は出来ていない。


 ハーレムに付いては約束されている。

 エルトガドでの実現は外堀が埋められつつあるが、小市民の俺にはハードルが高い事が良く判ったので正直実現したいと思っていない。


 そして、俺が使徒としてエルトガドへと転生して誓った事は『仲間を守る』と言う事。

 俺が力を付ければ付けるほど仲間を守る事が出来て、スローライフに近づくと言う事だな。


 ヘルピーがいつもの調子で言い放った言葉で今後やるべき事が改めて明確になった。


 チート能力を使いまくって『エデンやべぇ』と思わせる事だ。

 結果的に仲間を守り、のんびりスローライフが実現出来るはず。

 気がついたらクエストを達成していて目出度く神上がりする。


 超有能アシスタントであるヘルピーはさりげなく道筋を示してくれているのだろう。


(ヘルピー。ありがとうな)

【はい、マスター。何に対してありがとうかは不明ですが、言葉では無く行動で……。ねぇ?】


 ……。

 ……、だろうね。

 やはりヘルピーはヘルピーだった。


「という訳で、今後は自重する事無く俺の能力をフルに使って『エデンやべぇ』と思わせる」

「どういう訳かは知らないけれど、それで良いと思うわよ?」

「可能であれば、『ヤバイ奴だから潰してしまえ』とならないように立ち回っていただきたいのですが……」


「任せておけ。潰したくても潰しようが無いと判らせれば良いだけだ」

「「……」」


「幸いな事に現在は帝国でが行われているだろう。友好を示すならそれで良し。もしも敵対し嫌がらせや武力行使をするのであれば、叩き潰す」

「そうね。こちらからわざわざ敵対行為をするメリットも無いし、何より疲れるわね」


 世界を敵に回しても『疲れるのが嫌だからこちらから手を出さない』と言うサクラも大概頭のネジが外れている。

 絶句しているアリーゼが一般的な反応だろう。


「私もまだまだ修行が足りないようです。一度思考回路を壊して再構築する事にします」


 アリーゼの思考回路もぶっ飛んでいた……。


「出来れば自重して欲しいのですが……。先触れで先行する私とナタリーの事も考えて下さい」

「そうですよ。私達はカミーユ様やサクラ様と違って普通ですから。剣術も魔法も世間一般の常識の範囲内ですよ? 部下への気遣いもお忘れなく」


 ザクスとナタリーからクレームが入った。


「ザクスもナタリーも世間一般の常識を越えれば良い。幸い街道整備を行うから、良い魔法の鍛錬になるぞ? 森の野良魔獣を単騎で狩れるようになれば人外認定されるだろう。即死じゃ無ければエリクサーでなんとでもなる。因みに俺がエルトガドに転生した直後に会ったのは熊どんだぞ? 投石で何とかなったが、死ぬかと思った」

「私も今でこそ森の野良魔獣を狩る事は出来るけれど、初めて森の魔獣と戦ったのはシードルだったわね。あの時偶々たまたまカミーユが近くにいたから助かったけれど、もしもカミーユが近くにいなければ確実に死んでいたわね」


「「……」」


 ザクスとナタリーはこの世の終わりの様な表情をしているが、正しい努力をすれば結果は必ず付いてくる事をサクラが証明してくれているのだ。

 前を向いて励んで欲しい。


「アリーゼ。アンジェラに建築関係と魔法関係の人間を今回の街道整備に派遣するように伝えてくれ。良い魔法の鍛錬になる。魔法はイメージだ。エルトガドに無い魔法の使い方を俺が教えてやる」

「ついでに騎士や衛兵も派遣するように伝えてくれるかしら。野良魔獣が狩れるようになれば自信に繋がるでしょう」


 アリーゼは深~~~いため息をつきながらもアンジェラ宛の手紙を書いてくれている。


「そう言えばサクラは誰か眷属にしないのか?」


 俺は熊どんとシードルを眷属にして森のあれこれを任せている。

 サクラは人間を眷属に出来るようになったが、誰も眷属にしていない。


「考えてはいるのだけれど、安易に決めたくは無いのよ。カミーユにも判るでしょ?」


 確かに判る。

 熊どんとシードルは普段俺達が森にいないので、森の統治と防衛を任せているが、他の魔獣を安易に眷属とする事は考えていない。


 常に行動を共にするアリーゼ、ザクス、ナタリーを眷属にしても良いと思うが、いつも一緒にいるだけにわざわざ眷属にする事も無いというのもある。

 遠距離通信ではアリーゼの相棒である赤い大鷲のソフィアもいる。


「別に急いで眷属を増やさなければならない訳では無いからな。どの様な影響が出るかも判らないしな」


 熊どんとシードルは俺とサクラと意思疎通出来るようになり、俺とは念話で距離が離れていても離せる。

 それ以外にも何かしら変化があるかも知れないが、今のところはっきりしていない。


 俺としては大神殿のシスターの誰かを眷属にするのは有りだと思っているが、今度クレティアに詳細を確認しておこう。


 そんな事を話しながらもユニコーン馬車隊はエデンの森を目指し進んでいく。

 現在は森に一番近い街を出て、大平原を進んでいる。

 公国もそうだったが、街と森の間には見晴らしの良い草原を作り、森の魔獣の監視をしているのだろう。


 はっきり言って意味は無いが……。


 権力者が逃げる時間を作っているのだろう。

 

 あまり意味は無いが……。


「サクラ。真っ昼間だが空を進んで大神殿まで直行しようか」

「良いわね。楽しそう」


 この会話でユニコーン馬車隊は空を進み出す。遠くから誰かが見ているかも知れないが、特に問題無いだろう。

 俺達が森へ戻ったと判ればホッとする人も多いだろう。

 偶には目立つ事も大切だな。


【マスター。最近トラブルが無くて退屈です。人生にはスパイスが必要です。今夜はアリーゼをスパイスとして参加させましょう。それとも熊どんを?】

 

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