第122話 契りを交わす?
ライオネル帝国を迂回するためにエデンの森を目指していた道中に、ふと気付いた事がある。
「サクラ。武闘祭の期間中は世界中から国王もしくはそれに準ずる要人が集まるんだよな?」
「そうね。帝国の属国や関係改善を図りたい国は国王が訪問する事になるでしょうし、その他の国でもかなり高位の貴族が訪れると思うわよ?」
「アンジェラ様の話では今回の武闘祭には軒並み国王クラスが参加するそうです。エデンには招待状が未だ着ていないとの事ですが……」
サクラとアリーゼが常識と現状を教えてくれる。
「と言う事は、武闘祭期間中は帝国以外の国や街へも行かない方が良いだろうな」
「まあ、その国や街と良好な関係を築きたければね。恐らくカミーユ対策会議的な話し合いもあるでしょうし……」
そうだろうとは思っていたが、サクラの口から聞くと間違いないと思えるな。
「じゃあ、武闘祭の期間は森の街道整備をしよう。建国祭までに完成すれば、各国からも歓迎されるだろう」
「そうね。エデンの商品も早く届けられるし、何かあれば軍事的にも役立つわ」
「心配なのはその街道を使って軍事侵略される事ですね。以前人類は死の森を支配下に置く寸前まで行きました。
確かにアリーゼの心配は理解出来る。
当時生き残った人物が密かに技術継承をしているかもしれないし、そもそも人間では太刀打ち出来ないはずの死の森の魔獣達が何故押し込まれていたのかの原因は誰も知らない。
熊どんに聞いてみるか。
(熊どん。聞こえるか?)
【はい。聞こえていますよ? 私に会えなくて寂しくなりましたか?】
確かに寂しい気もするが、何故か恋人の様な雰囲気で熊どんが話してくるのに戸惑ってしまう。
(確かに寂しいが、熊どんに聞きたい事があるんだ)
【はい、何でしょう?】
(随分昔に森が人間達に制圧されそうになっただろ? その時どうして魔獣達は人類に後れを取ったのかと思ってな)
【流石に判りませんね。と言うか、そんな事が起きていた事を初めて知りました。今は
熊どんと初めて会った時も熊どんと他の魔獣が戦っている様な音は聞こえてきていたからな。
そして、熊どんは俺の事を
(しかし、祝福を与える前でも結構仲良くしてなかったか? エリクサー風呂とか)
【それは、
ん?
契りを結んだ?
(判った。ありがとう。もうすぐ帝国側から森に入るから皆にも伝えておいてくれ)
【楽しみに待ってます】
確認しなければならない事があるが、森に戻ってから熊どんに改めて確認しよう。
サクラとアリーゼに熊どんから聞いた事を伝えると二人とも『そうでしょうね』と淡泊な反応だった。
「何故ヘルピー姉様に聞かないの?」
冷めた目でサクラが言ってくるが、冷めた目をするサクラも美しい、ゾクリとしてしまう。
本当に俺は極まっているようだ。
サクラの言葉に従いヘルピーに聞いてみたところ、答えは意外だった。
【マスター。当時の森の魔獣達は丁度キングを決めている最中でした。森のあちこちで魔獣同士が戦い頂上決戦を行っていたのです。当時人間に駆逐された魔獣達は戦いに敗れ傷ついていた魔獣達ですね。キングが決まった時には気付けば世界樹の側まで人間達が来ていて、怒ったキングが人類を駆逐していったと言うのが事の顛末です】
人類が死の森へ侵攻したタイミングと、キング決定トーナメントのタイミングが重なっただけらしい。
そのタイミングを引き当てた当時の人類のくじ運? も相当だ。
【当時の人類側の戦力、火力でも森の魔獣達の脅威ではありませんでした。心配する事は何も無いでしょう】
エデンはナチュラルに世界最強の軍事力を誇る無敵の国であるらしい。
しかし、油断してはいけない。
以前は油断とは少し違うが、隙を突かれて森を制圧されそうになったのだ。
何より人間は知恵がある。
反撃出来ない様な状況に追い込まれるかもしれない。
魔王認定されている俺を討伐するために人類は力を合わせて知恵を絞るだろうから、何が起きても大丈夫なように対策しなければ。
「どうしたのカミーユ。難しい顔をして……」
ヘルピーに尋ねている事を知っている二人が心配そうな顔をして尋ねてくる。
「ああ。森が制圧直前まで行ったのは単に魔獣達のトップを決める戦いを魔獣同士で行っていたかららしい。単にタイミングが悪かっただけのようだ」
「それなら良かったのだけど、何か心配事でも?」
「一人一人の人間は確かに弱いが、俺達が反撃出来ない状況を作られる可能性もあるから、油断せずにあらゆる可能性を想定しておいた方が良いだろうと考えていただけだ」
「確かにそうね……」
「武闘祭にかこつけて各国はエデン包囲網を敷くでしょうから、私達も建国祭までにはしっかりとした対策を……。アンジェラ様へ報告をしておきます」
武闘祭のおかげで再度中断する旅の間に整備する森の街道には防衛機能も持たせなければならないし、再開した時は取り敢えず裏の仕事を請け負う組織を潰していくか。
暴動を鎮圧するために水魔法を得意とする魔獣達を衛兵部隊に組み込んでも良いし、各ギルドに諜報的な事もお願いするか。
面倒だが俺の仲間を、国民を守るためにやるべき事はきちんとやらなければ。
やるべき事をきちんとやっておけば、クレティアの信徒も増えるだろうし、クエストも達成出来ると信じているから。
人間には知恵があると言ったが、それは俺達も同じだからな。
それに、俺達には森の魔獣達もクレティアやヘルピーも付いている。
信頼出来る仲間がこれほど心強いとは知らなかった。
日本では理解出来なかった事がエルトガドに来て実感出来るし理解出来る。
クレティアから俺を選んだ理由を聞いた時は信じたくなかったが、今では俺を選んでくれたクレティアに感謝だな。
【マスター。エルトガドに来る時には私利私欲にまみれていましたはずです。初心に返って欲望のままに動きましょう】
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