第121話 トラブルを避ける覗かれ屋

 ヘルピーからナチュラルにディスられている気がするが気にしない。

 ヘルピーの言動をいちいち気に留めていたらそれだけで一日が終わってしまう。


「アリーゼ。申し訳ないけど私が帝国宛てに手紙を書くから帝国まで走ってくれないかしら?」

「はい。私も世界の終焉を見たいとは思いませんので、可能な事は何でも……」


 たかだか帝国へ行くだけで世界の終焉とはアリーゼも大袈裟だ。

 武を示すと言ったが、本当に事を構えるつもりは無い。

 少しイラッとしてしまって口走っただけだ。

 

 こっそり入ってこっそり出て行けば問題無いだろう。


 俺達にはユニコーンという奥の手があるからな。

 奥の手が常に人目にさらされている状況ではあるが、ユニコーンの能力は知らないだろう。


 否。王国で思い切り見せていた気がする……。

 総合ギルドへの突入もそうだし、民衆の声に気を良くしたユニコーンが軽く浮いていた気が……。


 まあ、夜に空中を監視する事は帝国でも出来ないだろうし、問題は無いか。


「カミーユ。帝国は城壁の各所に探知魔法に長けている兵を動員して昼夜を問わず上空警戒も怠っていないのよ。夜中にこっそりは無理ね」


 毎度の事ながらサクラが俺の考えを見透かして俺の意見を却下する。


「じゃあ今回は、帝国にエリクサーとか大量に貢いで非礼を詫びて入国するか? それとも俺が武闘祭に参加させて貰う代わりに何かしら貢ぐか? 俺としてはどちらも嫌だが」


 何が悲しくてクレティアの使徒が頭を下げなきゃならないのだ。

 俺は誰にも頭を下げたく無いと言っている訳では無い。

 間違った事をすれば頭を下げるし、謝罪もきちんとする。

 しかし、今回に関しては頭を下げる理由が判らない。

 地球で考えれば、オリンピック期間中にその国に訪問するのは駄目だよと言っているのと同義だ。


 あれ?

 冷静に考えれば当然の事のような気がしてきた。

 開催期間中は世界中から沢山の人が集まり不測の事態も起きうるだろう。

 要人警護の観点からも招待されていない国王がそのような場に赴く事は駄目なのでは?


「よくよく考えれば行かない方が良いだろう。と言うよりも、行かない事が常識のような気がしてきた」

「ご理解頂き助かります」


 心の底からホッとしたようにアリーゼが安堵している。


 サクラからどういう心境の変化かを尋ねられたので先程考えていた事を話す。


「地球にオリンピックという催しがあって良かったわ。それと、私達もカミーユが身分制度が無い世界で生きてきていた事を失念していたわ。説明不足だったわね」

「サクラが謝る事では無いさ。改めるところはきちんと改めるから今後も遠慮無く指摘してくれ。アリーゼもよろしくな」


「それで、これからどうするの?」

此処ここからエデンの森に入って、帝国を迂回して別の国の教会を回ろう。時間が余るだろうから、その間に世界樹から最短距離で帝国へ繋がる道を作ろうかと思う」

「そうね。それでも時間は余るでしょうから、その間はエデンの進捗を確認しながら過ごせば問題無いでしょうね」


 今回の旅で想定される最大のトラブルが回避されたと話していた俺達三人だが、俺達以外の全員が安堵の表情を浮かべていた。


 そうなのだ。

 今回の旅では大きなトラブルが今のところ起きていない。

 知らない貴族が娘を献上しようとしたり、小国の王妃が俺のカミーユをガン見してサクラがイラッとしたりした小さなトラブルはあったが、国が無くなったり、貴族領が更地になるようなトラブルは無い。


 俺は奇跡を起こせる男カミーユだからな。


【マスター。普通は旅のついでに国を滅ぼしたりしませんし、街一つ更地になるような報復はしませんから。今まではマスターの懐の狭さが招いた結果ですね】


 と言う事は、俺の懐はかなり深くなったと前向きに捉えよう。

 常に成長し続ける男と書いてカミーユと読むのだ。


 という訳で進路変更。

 いざエデンの森へ向けて出発だ。


 俺は森の位置がさっぱり判らないので、他人任せと言うか、魔獣任せだが。

 何しろ俺はエルトガド初心者で、サクラ以外は公国と王国しか知らなかった超田舎者だからな。


 つい先日訪れた街をいくつか経由してエデンの森を目指す。


「どうかされましたか?」


 国名も街の名前も忘れてしまったが、殆どの街で領主や国王が青い顔をしながら尋ねてきた。


「突然申し訳ないな。今の時期帝国に赴く事は気が引けてな。一度エデンの森に入って帝国を迂回しようと思って森に向かっているところだ。特に宿泊する予定も無いので、通行料と思ってこれを受け取ってくれ」


 そんな事を言いながら、鏡を渡していないところには鏡を。

 スパイダーシルクを渡していないところにはスパイダーシルクを。

 森の木を渡していないところには森の木を渡しながら街を通過していく。


 エリクサーは希少性を持たせるために大国にしか渡さない事にしているので、今回の旅ではライオネル帝国とレクストン共和国にしか渡す予定は無い。


 追加のお土産を貰った領主達は皆ほくほく顔で通行を快く許可してくれた。


「サクラ。俺は魔王として討伐対象では無く、まさしく使徒として見られていると思うのだがどうだ?」

「カミーユ。私達が街に到着した時の領主達の顔を見た? 完全に怯えていたわよ?」


 やはりそうなのか……。

 薄々は感じていたが、そうなのか……。


「あの。カミーユ様が魔王とは?」

「先日クレティア様にお目にかかった時に知らない神がカミーユに加護を与えて、エロ……、では無く、ほぼ魔王になったのよ。そうで無くても今までのカミーユの魔法に怯えた権力者達はカミーユを魔王として討伐対象にしているらしいのよ」

「確かにカミーユ様のその、……は、魔王と言っても過言ではありませんが……。私としては討伐では無く攻略? チャレンジ? 試練? と思っておりますが……」


 アリーゼよ。

 君の思考はかなりおかしいぞ?


 世の権力者は俺の能力をかんがみ魔王として討伐する事にしているが、アリーゼは俺のカミーユだけを見て話をしている。

 そして、攻略とは?


「アリーゼ。落ち着きなさい。貴女も寝台に入って直接確認したでしょ? もう少し修行に励み時を待ちなさい」


 聞き捨てなら無い事をサクラが言ったが、聞き間違えか?


【マスター。気付いていないようですが、毎晩誰かしらしていますし、私など毎晩マスターのマスターと戯れていると言っても過言ではありませんが?】

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