第124話 皇帝からのラブレター

 空の散歩を楽しみながらエデンの森に戻ってきてから二ヶ月ほど経過した。

 森の街道整備はゆっくりとだが確実に進んでいる。


 俺とサクラが土魔法を使えばあっという間とまでは行かないが、かなり早く完成するだろうが、魔法を教えながら行っているのでしょうがない。


 木を切り倒すと言う行為をする時に魔法を使うが、『斧で木を切り倒す』のがエルトガドの常識で、そのイメージで魔法を使う。

 それでは森の木は切れない。


 俺やサクラが説明して、実演しながらイメージを共有して数人がかりで切り倒せるようになった。


 問題となったのはそれだけでは無く、魔力量も問題だった。

 魔力を込める量で魔法の威力が変わるが、魔力を込めれば込めるほど魔法の持続時間は短くなる。

 魔力切れを起こして意識を失う者も多い。


 結果として魔力切れを繰り返していた人は魔力量が増加する事が判り、魔力切れで倒れるのは成長の為と皆嬉々として魔力切れを起こすカオスな状況が続いている。

 工事現場で意識を失う事はかなり危険だが『大けがしてもエリクサーがありますから』と瀕死の重傷を負う事への恐怖感は皆無だ。


 エデンの住民達はかなりぶっ飛んだ集団のようだ。


 土魔法で綺麗に道を仕上げるのは更に苦労した。

 地中は目に見えないので、地盤改良に手間取ったが、それも繰り返し繰り返し、懇切丁寧に教える事で数人が習得している。

 彼らがエルトガドの人間でも理解出来るように説明してくれれば習得する者も増えるだろう。


 日々魔法を扱っていたお陰で、工事従事者はかなりの魔法が上達している。

 魔力量も増えており、『帝国の魔法騎士よりも実力が上かも知れません』とザクスやナタリーが教えてくれた。


 街道造りが終わったら、魔法建築士として活躍して貰おうと思っていたが、いざという時の為に攻撃や防御の魔法を覚えて貰って、エデンを守る隠れ騎士になって貰うのも悪く無い。


 ザクスとナタリーは魔法の練習もしているが、森の魔獣を単騎で狩れるように訓練している。

 魔獣といきなり対戦するのは危険が伴うので、先ずは森の木を剣でスパッと切れるようにしている。

 森の木を切れれば、魔獣も切れるだろう。

 剣術よりも体術を得意とするナタリーは森の木に向かって拳を振るっている。

 勝ち気な顔つきでいつも澄まし顔のナタリーが実は脳筋だったというギャップが良いね。


 騎士や衛兵も同じように鍛錬しているが、最近集団戦ではあるが野良魔獣を狩っていた。

 これは人類の奇跡だと思う。

 エデンの騎士や衛兵は世界最強の戦闘集団になっているかも知れない。


 騎士や衛兵達に支給する武器や防具は鍛冶奴隷のロランドにお願いした。

 ロランドは街の人々や鍛冶職人達からも快く受け入れられている。

 本人が自分が奴隷である事や奴隷になった理由を気にするでも無く話しているようだ。


 鍛冶の腕前も確かで、表裏の無い明るい性格もあり、気難しい職人達にも可愛がられてているようだ。


 流石にミスリルやアダマンタイト製では無いが、堅く柔らかく、鋭い切れ味が持続する様な我が儘仕様を実現出来る合金で製作している。

 武器や防具の性能で他国に負ける事は無いだろう。


 法整備も順調に進んでいる。

 旧公国は意外と人材豊富だったようで、残業続きではあるが各法律は形になっている。

 現在は調整と試験運用段階だ。

 民法と商法で同じ事例で違う規定があればどちらを優先するのか、もしくはどちらかに会わせるのか。会わせた場合他の条項に影響は無いかなどの調整だ。


 試験運用は文字通りの試験運用。

 犯罪が起きてしまった時に裁判を行ってみたり、トラブルが解決しない時に調停したりしている。

 住民達の反応を見ながら、徐々に運用範囲を広げていき建国祭当日より全法律を施行する予定だ。


 帝国のお陰で充実した時間が過ごせている。

 普段直接関わる事が少ない人々と共に汗を流し、共に食事を摂り談笑する日々。

 帝国に感謝だな。


 そんな事を思っていると、アンジェラが血相を変えて工事現場にやってきた。


「カミーユ様。サクラ様。ライオネル帝国から書状です」

「帝国から?」

「嫌な予感がするわね」


 突然の帝国からの手紙。

 しかも、今は武闘祭も終盤に差し掛かり、かなり忙しい時に。

 サクラが言う通り嫌な予感がする。


「今上帝の紋章で封がされておりますので、内容までは確認しておりません。内容次第で巣が、私も直ぐに動けるように持参しました」

「休憩所で確認しよう」


 俺とサクラとアンジェラ、アリーゼにザクスとナタリーのエデン初期メンバーで休憩所へ移動し開封する。


 ゆっくりと三度ほど読み返し、手紙をサクラへ渡す。

 手紙を読み進めるサクラの顔は徐々に赤くなり、怒りを抑えているようだ。

 サクラが怒る理由が俺には良く判る。

 皇帝からの手紙は失礼と言うか、相手を煽るために全振りしている内容だからな。


 皇帝からの手紙はサクラからアンジェラへと渡り、アリーゼ、ザクス、ナタリーの順番に回っていき再び俺の手に戻ってきた。


 その間誰も声を発する事無く、必死に怒りを静めようとしている。


「まあ、皆これは俺達を暴走させる為の手紙だろう。此処で暴れれば帝国側の思う壺だ」

「それは判っていますが、失礼が過ぎます」


 怒るなと言う俺にアリーゼが怒気溢れる声で答える。

 怒気溢れると言う言葉は聞いた事が無いが、今のアリーゼにはぴったりな言葉だな。


「皇帝殿のお望み通り手土産を持って出向いてやれば良い。奴らは不可能と思ってこのタイミングでこんな事を要求してきたんだろ? 要求通り出向いてやって、奴らの驚く顔を拝むとしよう」


 今上帝は熱烈なラブレターを送ってくれた。

 

 ・帝国が認めていないエデンと名乗る国を認めるか審議してやる。

 ・謁見してやるから、三日後の正午に帝城に登城しろ。

 ・帝都に入れるのは俺とサクラだけ。他は城壁外へ待機。

 ・エリクサー百本、各種ポーション各千本、各種カロリーバー各種千個、鏡五百枚を献上せよ。

 ・約束を破った場合、森と旧公国は帝国領とし、勝手に国王を名乗った俺は死刑、サクラは今上帝の側室に。


 この条件はセンドラド王国を含む全ての国の総意である。


【マスター。世界を手中に収める時が来ましたね。各国の王妃や王女達を愛人枠に入れて、マスターが最初に望んでいたハーレムを作りましょう。日替わり所か秒単位で……。流石エロ魔王極です】 

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