第111話 初めての鍛冶依頼

 子爵領を男爵領と言い間違えていた事に反省しながら王城を後にした俺達は、ユニコーン馬車に揺られながらゆっくりと宿泊場所へと戻っていた。

 揺られながらと言うのは比喩表現で実際は揺れない馬車のおかげで揺れていないのだが……。


 王都の住民達も最初こそユニコーンを見て驚いていたが、すっかり見慣れたのだろう、子供は目を輝かせながらユニコーンにてを振っている。

 ユニコーンも満更では無いのか、少し空中を歩いたりしている。


 のんびり車窓から街を眺めているとザクスが近づいてきた。


「カミーユ様。ユニコーンが一頭駆けてきます。何か起きたのかも知れません」


 御者との連絡用の窓から前方を見ると、確かに一頭ユニコーンが走ってきているのが見える。

 テディ君がユニコーンにしがみついているようだ。


「カミーユ様。サクラ様。シスター達が意識を取り戻しました。自分達が何処どこにいるのか判らないようで混乱しておりましたが、エスターの両親も一緒にいる事が判ったのか少し落ち着きを取り戻しておりますが、かなり怯えております」

「ありがとうテディ。ザクス、ナタリー。少し急いで戻りましょう」


 サクラが指示出し駆け足で戻っていく。


「カミーユ。先ず私がシスター達に会ってくるわ。貴方はエスターさんのご両親に」

「了解だ」


 宿泊場所に戻りサクラはシスター達の元へ、俺はテディ君が厩舎から戻るのを待ってエスターさんの両親の元へと向かった。


 部屋へ入るとエスターさんの両親は立ち上がろうとしたのでそれを手で制する。


「そのままで構わない。俺は女神クレティアの使徒カミーユ。エデンという国の国王もしている。今回の件、お見舞い申し上げる。諸悪の根源は神罰を受けて文字通り消えてなくなった。治療薬で身体は元に戻っているだろうが、心の傷は簡単に癒やす事が難しい。此処ここは安全だが王国内だ。お二人が良ければテディ君とエスターさんと一緒にエデンで養生されると良い。貴方達を害する者はエデンには誰一人いない」


「私はエスターの父エルモライと申します。妻はマリナと申します。この度は私達を救っていただき心より感謝申し上げます」

「孫の顔を見ずにこの世を去らなければならないと思っておりました。本当に感謝いたします」


「俺は俺が成すべき事をしただけだ。感謝はテディ君とエスターさんにすると良い。彼の行動が無ければ貴方達を助ける事は無かっただろう。そして貴方達はブッシュ領で圧力に屈せず正しい行動をした。全て繋がっているんだ。真っ直ぐに市民達の事を思い勇気ある行動が出来るテディ君。テディ君を射止めたエスターの優しさ。お二人の信念を貫く勇気ある行動。何か一つでも掛けていたならばこの結果にはならなかった。俺は女神クレティアの使徒として四人を尊敬し祝福を与える」


 クレティア像が無いので簡易的なキラキラ演出が発生し、金色の光が四人に降り注ぐ。


「何時までも俺がいては話も出来ないだろう。今後の事を含めしっかりと四人で話し合ってほしい。エデンの詳しい説明が必要であればメイドに声を掛けてアリーゼを呼んでくれ」


 部屋に戻りサクラから呼ばれるのを待っているが、何時いつになるのか判らないので鍛冶職人奴隷のロランドを呼んだ。


 エルトガドに来た時袋に入っていた短剣しか持っていないので、折角剣技が人外になったので、帯刀したいと思う。

 日本人として日本刀を腰に下げていたい。

 剣道刷らした事が無い俺でも、やはり日本刀には憧れがある。


「ロランド。身体の調子はどうだ?」

「お陰様で、新しくなった手足も以前通り使えますし、肩こりや目の調子も良くなりました。俺は一生カミーユ様に忠誠を誓います」

「そこまで大事に考えなくても良いぞ? 購入金額分はしっかり働いて貰うが、その後はロランドの好きに生きれば良いさ」


 本来であれば購入金額の数十倍は稼いで貰わないといけないのだろうが。


「俺は素材さえあらば何でも作れる。それが武器でも工作機械でも生活必需品でもだ」


 突然そんな事を言われてロランドは困惑している。

 そもそも此処に呼ばれた理由が判っていないからしょうがないだろう。


「しかし俺は剣には魂が宿ると考えている。はがねを鍛える鍛冶師の魂。それを使用者が魂を込めて手入れし振るう事で」

「そう思って貰えると嬉しいですね」


「でだ……。俺が持っている短剣だが、これは神界で作られた神剣で使徒の証しと言っても良いが魂は宿っていないと思っている」


 無造作に短剣を机に転がす。


「俺は使徒の証しでは無く、エルトガドの王として民を守るための剣を持ちたい。俺が国民を守る証しとして、誰にも屈せず戦い抜くための刃だ」


「当面は俺が魔法で作った剣を帯刀しようと思うが、ロランドが魂を込めて打った剣を帯刀したいと思っている。折れず曲がらず岩をも切り裂く王の証しだ。頼めるか?」

「俺で……。俺がそのような剣を打っても良いのでしょうか?」

「俺はロランドにしか打てないと思っている」


「この命に代えてでも必ず……」


「まあ、あれだ……。軽い気持ちで取り組んでくれ。ロランドの心の負担になっては困るし、ロランドには俺が考え出した物をエルトガドで実現するために協力して貰わなければならないからな。頭の片隅にでも入れてお入れくれれば今は良い」


 科学の代わりに魔法があるエルトガドで地球の技術を移転するには俺が魔法で作った物や俺の知識をエルトガドで実現しないといけない。

 そのためにはロランドが試作品を作り、エルトガドの技術で実現出来るかの検証作業も必要だからな。

 優先順位は王剣よりもそちらの方が上だ。


 それから王剣や実現したい技術や機械などについてロランドと話し合っていた。

 ミスリルやアダマンタイト、非緋色金の素材がふんだんにあり、好きな割合で合金化出来ると聞いて動きが固まっていたが、鉄道や自動車、飛行機等の移動手段や、地球の科学についての話にはかなり興味を持ってくれたようで目をキラキラさせて少年のようだった。


【マスター。エロ魔王極に進化して早速男色とはマスターも侮れませんね。流石と言うか節操なしと言うか困ってしまいますね。サクラには話を通してからにする事をお勧めします】 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る