第112話 剣術稽古と男の友情

 暫くロランドと話をしていると、サクラがシスター達に会ってほしいと言ってきた。

 ロランドと別れシスター達の部屋へ移動する。


「三人とも初めまして。俺の事はサクラから聞いているかも知れないが、女神クレティアの使徒カミーユだ。三人に感謝と女神クレティアの祝福を」


 簡易キラキラ演出が三人のシスターを包み、三人のシスターは起きている事が理解出来ないのか口をポカンと開けている。


「カミーユ。紹介するわね。右からロズリーヌ、サンナ、マルヴィナ」


「ロズリーヌ・ルキエと申します。この度はお助けいただき心より感謝を」

「サンナ・ヘルメションと申します」

「マルヴィナ・キングスリーと申します」


「君達を苦しめ尊厳を踏みにじった者達は神罰を受けエルトガドからしている。安心してと言っても難しいだろうが、エデンに君達を傷つける者は誰もいない。エデンでゆっくりと心を癒やすと良い」


「ロズリーヌはエレオノールと旧知の仲で手紙のやり取りをしていてエデンの事も知っていたみたい。先ずはエレオノールに会ってからと思っているわ」

「じゃあ、先ず迎賓館に行ってからだな。エデンには世界樹の森があってな、そこに大神殿がある。大神殿を管理するシスターがいなかったから、出来れば君達にお願いしたいと思っていたんだ」

「姫様から……、いえ、サクラ様からその件は伺いました。私はともかく、二人の心の問題もございますので、エレオノールと話した後に一度大神殿へおもむきたいと考えております」


 恐らくロズリーヌさんが最年長なのだろう。

 二人を庇いながら気丈に振る舞っている。


「あまりこの国にいるのも心の負担になるだろう。明日エデンに出発しよう」

「そうね。私もその方が良いと思うわ」


 ヘルピーに言って今日の日報でクレティアに謝ってもらっておこう。

 女神像の変更が遅々として進まない。

 元々神像はあるのだから少しだけ我慢してもらおう。


「男の俺が此処ここにいるものあれだから、今日はゆっくりとして過ごすと良い。君達の姫様は今や王妃だ。聞きたい事も話したい事も色々あるだろう」


 三人とも美しい女性だから俺のカミーユがカミーユしてしまうと彼女達のトラウマを刺激してしまう恐れがある。

 そうならなくてもやはり男がいると怖いだろう。


 明日エデンに出発する事をアリーゼに伝えて準備をしてもらう。

 一応王国や総合ギルドへ報告しておいた方が良いだろうからな。

 総合ギルドへはそう遠くないうちに又来るからその時に印刷についての打ち合わせをしたいと伝言も頼んでおいた。


 夕食の時間まで暇だから、ザクスにお願いして剣術の手ほどきを受ける事にした。

 一応剣技が人外となっているが、剣道すらまともにした事が無い俺だ。

 いざという時にへっぴり腰でまともに剣が振るえないでは困るからな。


「カミーユ様が剣術? 必要ありますか? 石を投げるか魔法で全てが終わるのに?」


 呆れた表情でザクスが言ってくる。


「ほら、あれだ……。石が無い状況もあるだろうし、魔法が使えない状況もあるかも知れないだろ?」

「まあ、無くはないでしょうが……。まあ、良いでしょう。折角でしたらいつも同行している御者達にも剣の使い方を覚えてもらいましょう。私もナタリーも基本は教えられますから」


 ナタリーや御者さんまで巻き込んでの稽古が始まった。


「カミーユの旦那。俺達がアリーゼちゃんやメイドさん達を守ってやるから、旦那はサクラ様を守れば良いですぜ」


 口の悪御者が頼もしい事を言ってくれる。

 彼らも騎士の剣術を教わる事を楽しみにしているようだ。


「しかし、訓練するにも木剣も刃を潰した訓練用の剣がありませんのでエデンに帰ってからですね」

「それは問題無い。今から俺が造るから。ザクスの剣を貸してくれ」


 ザクスから剣を受け取り、お土産用の森の木に魔法を発動し木剣を三十本ほど作った。


「これで問題無いだろ? 取り敢えず夕食までの時間基礎の基礎を教えてくれ」

「しょうがないですね。取り敢えず今の実力を見たいので、木剣を好きなように振って下さい」


 俺がザクスの剣を模した作った木剣は両刃の所謂いわゆる西洋剣だ。

 ファンタジー作品ではよく見るが、日本にいた時には手に取った事は当然無いし、実際に見た事すら無かった。


 両手に持ち正眼に構えてみる。

 剣の握り方が合っているかも判らないが、不思議とこれで正解だと判る。

 動きを確かめるように真向斬り、袈裟斬り、一文字斬り、逆袈裟斬り、左袈裟斬り、左一文字斬り、左逆袈裟斬り、突きの順番でゆっくりと剣を振るう。


 この辺はラノベやアニメの知識があるから何となく判る。


「何処の流派かは判りませんが、身体の使い方や剣筋は素晴らしいですね。しかし、恐らくその動きは騎士が持つ剣ではなく、片刃の剣を振るう動きですね」


 成る程。

 左袈裟斬りや左一文字斬り、左逆袈裟斬りの時は手首を返しているから確かに片方の刃しか使用していない。

 恐らく日本刀を扱う動きになっていたのだろう。


 それを一目見て理解するザクスもそれなりの腕前なのだろう。


「恐らく俺がいた日本で使われていた刀の振り方だろう。流石ザクスだな。一目見て看破するとは」

「いえ、この程度はナタリーでも判ります。明らかに動きが我々騎士の動きとは違いますから。カミーユ様が刀? ですか? それを使用されるのであれば私がお伝え出来る事は剣技ではなく目的に合わせた動きですね。たとえば、相手が武器を持てないようにするには手の腱を斬れば事足ります」


 確かに日本刀と西洋剣では刃の使い方が違うからザクスの言葉にも頷ける。

 急所や無力化したい箇所をピンポイントで狙えれば最小限の労力で最大の結果を得られるな。

 エリクサーやサクラの治癒魔法では死者を生き返らせる事は出来ない。

 その辺りも剣技が人外となった俺ならば勝手に身体が動いてくれそうだが、知っているか知らないかは大きな違いとなるだろう。


「判った。それで構わない。これからザクスの事は師匠と呼ぶ事にしよう」

「止めて下さい。パワハラでサクラ様に訴えますよ?」

「それは勘弁してくれ」


 二人で笑い合い男の友情を噛みしめる。


【マスター。剣術の稽古もよろしいですが、毎夜行われる魔剣の稽古でサクラに負け続けているマスターには体術を習得する事をお勧めします。攻守逆転した時のサクラの……。ふぉ~~~。捗ります】

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