第109話 印刷業 はじめました
ヘルピーが舌の根も乾かぬうちにとんでもない事を言っているが、ヘルピーだからしょうがないと諦めよう。
創作活動はしないが、再会した時のネタは多い方に超した事が無いと思っているのだろう。
俺は熊どんに欲情する事など無い……。はず……。
特殊能力を授かりオールマイティになったらしいが、出来る事と、やりたいと思う事は別だからな。
いくら俺がエロ魔王極となっても、感情のある人間だからな。
俺は欲望のままに突き進む事はしない理性ある大人だ。
ヘルピーの期待には応えられないが、申し訳ないとも思わない。
その後も眷属となった熊どんとシードルに今後についてある程度話しておいた。
今後エデンの森に俺とサクラ以外の人間が立ち入る事が増えるので、間違って排除されては困るからな。
「私達森の魔獣にも人間が見て判る証しを作って欲しいですね。森の魔獣全てが王に従っている訳ではありませんので」
「より安全を考えるなら、森へ入る人間には緊急連絡用の笛を持たせると良い。ヘマをするつもりは無いが、百パーセント、絶対と言う事は無いからな」
熊どんとシードルがそれぞれ提案してくれる。
勿論採用だ。
証しは魔獣達の個体差が大きいので大きさや形状等検討する事があるが、笛はアンジェラ宰相に言って早速手配する事にしよう。
「熊どん。シードル。森の事は任せたぞ」
「「はい。我が
二頭が森に帰っていくのをサクラと二人で見送る。
熊どんは大型犬程度に小さくなり、気配を消したシードルは姿を捉える事が難しい。
どういった原理で小さくなるのか不思議だ。
エルトガドは魔法がある世界だからいつか人化出来るようになるかも知れないな。
「サクラ」
「何? カミーユ」
「全ての国とギルドに手紙を出そうと思う。俺は討伐対象だが、平和主義者だという事を改めて知らせたい」
「カミーユがそうしたいと言うなら別に構わないけれど……。法治国家の内容を知れば敵対する事は確実よ? 正しく理解出来なければ法治国家は為政者にとって不都合ですもの。そして、正しく理解する事は難しいと思うわ」
「別にそれでも構わないんだ。クレティアに感謝を捧げてくれて、俺達に敵対しなければそれで十分なんだ」
エデンに連なる者の尊厳を踏みにじるような真似をしなければそれで良い。
もしそうなった場合は旧公国や男爵領と同じようになるだけだ。
【マスター。その思考が魔王と恐れられ討伐対象となる原因ですよ?】
魔王と思われても良い。
俺は仲間を守り裏切らないと決めたから。
仮に攻撃されたとして『頭にきたぞ! 話し合いで解決してやるぞ!』と言っていては国民達が苦しめられるだけだ。
敵対したら国が滅びると思って貰っておいた方が衝突しなくて済むと思う。
仮初めの平和でも皆が平和に暮らせるのなら大歓迎だ。
その間に本当の平和を手に入れれば良いのだ。
「カミーユの気持ちは判ったわ。内容を考えましょう。王族宛に送る文面は私が考えるわ」
「ありがとうサクラ。文面を考えてくれたら俺が印刷するから午前中には完成させよう」
「印刷?」
「ああ。同じ文章を大量に複製出来るんだ。今は基本的に手書きだろ? 印刷が出来るようになれば大量生産が可能だ。学校の教科書にも使える。一人一冊教科書を配れるぞ」
「それは凄いわね。
「そういう人に印刷業をして貰えば良いんだよ。専門のギルドがあればそこに話を通しても良いかも知れないな」
実際に印刷機の仕組みは知らないが、俺にはヘルピーがいるからな。
エルトガドで実現出来る技術の印刷技術を導入すれば良い。
インクと紙の問題もあるが、一応紙はあるし、インクもあるので何とかなるだろう。
いずれはそちらも事業として興すか、ギルドに登録してパテント料で稼いでも良い。
魔法があるから既に印刷、もしくは転写が普及していると思っていたが、未だに手書きの一点物だ。
中世ヨーロッパや江戸時代の日本の方が印刷や製紙は発達している。
今回は江戸時代のかわら版でお馴染みの木版印刷で良いだろう。
大々的な機械を使う訳では無いが、版は簡単に作れるし、特別な能力を必要としないからこの世界にも馴染みやすいだろう。
そのうちエルトガドのグーテンベルクが誕生する事だろう。
サクラと話し合った手紙の内容は決まった。
・旧公国と男爵領での争いの原因と結果。
・敵対しない、仲間を傷つけなけらば武力行使はしない。
・全教会を回りクレティア像を正しい姿に変える。
・お土産を持って挨拶に行くが、トラブルを避けるため歓待の必要は無い。
・出来ればクレティアへ感謝を捧げて欲しい。
・建国祭を行う予定なので、別途案内を出す。
内容盛りだくさんとなってしまったが、トラブル防止のためにはしょうがないだろう。
サクラに聞くと便せん十枚は必要になるらしいので、アリーゼに頼んで紙と封筒、インクの手配をお願いした。
サクラが文面を考え、俺が版を作る。
俺の手書き風の版が次々に出来上がる。
手配していた紙とインクが届いたら、一気に刷っていき、メイドさん達にも手伝って貰って封筒に入れて封をしていく。
頑張って午前中に作業が終わった。
馬車に乗り総合ギルドへ赴き、国家速達便で各国へ配達依頼を出し、今回の印刷について登録が出来ないか、写本等のギルドがあれば今後印刷をそのギルドで請け負ってはどうかと提案した。
「カミーユ様……。製本ギルドへは私から話を通しますので、後日打ち合わせをお願いします。それと……。これ以上の技術の印刷もご存じでは?」
「それは知っているが、今のエルトガドでは難しい技術かも知れない。俺が異世界の知識を大量に持ち込むよりも、俺が端緒を開いてエルトガドで発展させた方が技術の継承や発展のためにも良い事だと思ってな」
「流石女神クレティア様の使徒様ですね。素晴らしいお考えです。他にも思いついた場合は今回のように形にする前に総合ギルドに相談して下さい。世界がひっくり返ります」
疲れた顔をしたユベール統括が必死に訴えかけてくる。
【マスター。ユベール統括にとっては仕事が増え続ける要因を作るマスターの事を間違いなく魔王と思っているでしょうね】
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