第108話 知らない事だらけ

 ほぼ魔王で特殊能力を授かった事を思い出させてくれたヘルピーには感謝するが、誇りを持つ事は絶対に無いだろう。

 授かった特殊能力が俺にどのような影響を与えるのか判らないので慎重に行動しなければならない。


 エルトガドに生きる全ての者がの対象になっているし、全ての刺激に喜びを感じられるようになっているはず……。


 今のところ普段と変わらないが、最悪常に俺のカミーユが魔王状態になる事も想定しなければ……。


 もしそうなってしまったら、目を潰すか、対策が出来るまで引き籠もり確定だ。


 そんな事を考えていたらサクラが目覚めた。


「おはようカミーユ。え~っと、大丈夫?」

「今のところ特に変わった事は無い。サクラはどうだ?」

「私は問題無いわよ。授かった祝福や加護に関してもカミーユほどでは無いし……」


 サクラは特殊能力を授かった訳では無いからな。


『本当に大丈夫かしら』と言いながら、サクラが俺のボディーチェックを行う。

 特にカミーユ部分を念入りに……。


「特に外形に変化は無いわね……。使用感に変化があるのかしら?」


 ゴニョゴニョと何か言っているが、サクラの目を見れば何を考えているのか判る。

 今は駄目だぞ? 熊どんとシードルが来るからな。


 ……。

 …………。

 ………………。


での変化も見られないわね……。使も今まで通り……。スタミナが変わったのかしら……。カロリーバー無しでの耐久テストも必要かしら……」


 サクラ。

 そちらの検証は不要だぞ?

 問題は特殊能力と『ほぼ魔王』についてだからな。


 クレティアの拗らせ具合も大概だが、ハイエルフのサクラの拗らせ方も執着も大概だ。


「ほっ、ほら、サクラ。今日は熊どんとシードルが来るから。眷属になって貰って今後の事も打ち合わせしないと……。な?」

「そうね……。シスター達の事も心配だし、今後の事をもう一度考えないといけないわね」


 耐久テストは諦めてくれた。

 渋々ではあるが……。


 二人で宿泊場所の庭に出る。

 初めて庭に出たが、庭園と言った方が良いだろう。


 暫くすると熊どんとシードルが到着した。

 熊どんは十メートルほどの巨体だが誰の目にも触れずに此処まで来られたのだろうか?

 二階建ての屋根よりも大きいのだからどう考えても無理なはずだが……。


「んっ? 小さくなれるのか? シードルは気配を消せる?」

「あら? カミーユは知らなかったの?」


 サクラは前から知っていたらしい。


「森で魔獣達とかくれんぼして遊んでいた時に小さくなった時はびっくりしたけれど、他にも姿を消せる子や擬態出来る子とか、森の魔獣達は何かしら能力を持っているわよ」


 日本で過ごしていた時に他人に全く興味が無かった影響だろう。

 サクラの事はある程度判るが、それでもある程度だ。

 きっとサクラは俺の事を俺以上に知っている気がする。


 今からは人や魔獣達は勿論の事、エルトガドについて知る努力をしよう。


「熊どん。シードル。いつもありがとう。君達のおかげで安心してエデンの森を離れられる」

「エリクサーとカロリーバーを用意しておいたわ」


 熊どんとシードルは嬉々としてサクラから貰い、一気に胃に流し込んでいた。

 一瞬光に包まれたが、本当に一瞬だったので大きな怪我などはしていなかったようだ。


「俺とサクラは新たに神々から能力を授かり、俺は魔獣達を眷属にする事が出来るようになった。熊どん……。シードル……。俺の眷属になってくれるか?」


「「わふっ!」」


 二人とも喜んで眷属になってくれるようだ。

 なってくれるだろうと思っていたが、実際に同意を得られると安心する。


「では、女神クレティアの使徒カミーユがエデンの森の魔獣熊どんとシードルを我が眷属となる事を此処に宣誓する」


 頭に浮かんだ宣誓の言葉を口にする。


 俺と二頭の魔獣が柔らかな光に包まれ、繋がりを示すように光が伸び俺達を繋ぐ。

 繋がった光を通して俺の魔力が二頭に流れていく。

 確かに二頭と繋がった事が判る。


「これで熊どんとシードルは俺の眷属となった。これからもよろしくな」

「「はい。キングよ」」


 えっ?

 言葉を話した……。

 クレティアからは念話的な事が出来ると聞いていたが、聞き間違いか?


「サクラ。今二頭が話した気がするが……。俺の聞き間違いか?」

「カミーユにも聞こえたのね? 私の聞き間違いかと思っていたわ」


 どうやら聞き間違いでは無いらしい。


(ヘルピー。説明を頼む)

【はい。眷属となった魔獣と繋がりが深い場合、鳴き声が言葉となって聞こえます。今回の場合、マスターとサクラは熊どんとシードルとの繋がりが深いので、言葉となって聞こえています。他の人間には二頭の声は聞こえませんのでご安心を。当然念話として話す事も出来ます】


 ヘルピーから教えて貰った事をサクラに伝える。

 ヘルピーもサクラと直接話せるようになると何かと便利なのだが、流石にそれは無理なのだろう。


「判ったわ。熊どんもシードルもこれからもよろしくね」

「「はい。あねさん」」


「あっ、姐さん?」

「はい。森の仲間達は皆姐さんと呼んでますよ?」


 熊どんの説明にサクラの表情が引きつっている。

 確かにサクラが戦闘態勢になった時は姐さんと呼びたくなる気持ちは判る。


「さて、熊どん、シードル。眷属となってくれてありがとう。これで何時でも念話を使って会話を出来る」

「はい。常にキングとの繋がりを感じられますし、この上ない幸せです」

「姐さんとも会話が出来るようになって感謝してるぜ」


 熊どんは感激に身を震わせ、シードルは言葉遣いは多少荒いがサクラと話せる事が嬉しいようだ。


「熊どんにはエデンの魔獣を纏めてほしい。問題無いか?」

「問題ありません。元々私は世界樹の守護をしておりましたし、魔獣達は私の話をよく聞いてくれますので」


「シードルには森の警備を任せたい。警備部隊を組織して許可無く森に入る者の排除と、許可を得て森に入る者の警護を。出来るか?」

「ああ。任せてくれ」


「これからもよろしく頼むな」

「森に戻ったら沢山遊びましょうね」


【マスター。そんな事よりも熊どんと……。こういうのは最初にさも当然かのように、流れるように行動するのが良いですよ。今からささっと……。ねぇ?】  

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