第102話 神罰 執行

 神罰の執行開始から僅か一分で制圧がほぼ完了したらしい。

 魔獣達は旧公国の時も先日の晩餐会の時も呼ばれるだけで何も出来なかったし、晩餐会の時は途中で引き返しているから、ようやく活躍の時が来て張り切ってしまったのだろう。


「ザクス。ナタリー。魔獣達が保護した者達を馬車に」


 人数は多くなさそうだがそれなりの人数が魔獣達に保護されている。

 全員を馬車に乗せられる程度の人数しか保護されていないのはかなり複雑な気持ちだが、それでもクレティアの信徒もしくは善良なる市民がいた事に安堵する。


 保護されている人達は何が起きたのか判らないようで放心している。


 俺は最後の仕上げをするためにブッシュ一族とロモロ商会関係者とおぼしき者達の元へと向かう。


「グスタフ・ブッシュの一族とロモロ商会だな? お前達の行動の結果がこれだ」

「きっ、貴様。このような虐殺が許されると思っているのか!」

「お前は誰だ?」

「ロモロ商会会長であるロモロだ。この事は各ギルドと王国に報告する。このような事が許されると思うなよ?」


「そうか……。お前がロモロか……」


 こいつが嘘を吹聴し、市民達を扇動した張本人か……。

 貴族でもないのに貴族が着るような衣服を身に纏い、欲深い顔をしている。


 スッと近づき四肢の骨をポキポキと折っておく。

 シスター達は四肢の骨を折られた挙げ句……。


「いっ。痛い。痛い痛い痛い痛いぃぃぃ」


 身体を動かそうにも少しでも手足を動かすと激痛に襲われる。


「シスター達の苦しみの万分の一程度でジタバタするな」


 ゆっくりとブッシュ一族の方に視線を巡らす。

 ブラック男爵の息子達と思われる青年が二名とその妻達と子供達だろう。

 女性は子供を庇い、息子達は後ずさるが、背後にいる魔獣達のうなり声でガクガクとその場で震えている。


「めっ、めっ、女神様は慈悲深いのだろう? 我が家の財産は全て差し出す、妻も貴殿に差し出す。この領地も好きにすれば良い……。なっ?」


 この期に及んで自分だけ生き残ろうとするとは……。

 俺に差し出された妻達は信じられない言葉を聞いて目を見開いている。


「そう言っているが?」

「わっ、私達は何も悪い事をしていません。あっ、貴方に全てを捧げます」

「そうですわ。そもそもエルフなど下賎な者達に手を出すなど高貴な血筋の者がする行為ではないととがめていたのです。それを聞かずに……」


「パァァン」


 エルフを『下賎な者』と言った女性がドサリと崩れ落ちる。

 頭部は爆散してしまった。

 怒りにまかせビンタをしたら手加減を間違ってしまった。


「これでは罰にならないな。自分が死んだ事も判らなかっただろう……」


 呟きながらゆっくりともう一人のご婦人を見据える。

 恐怖に震えながらも子を庇う姿は流石母と言ったところだ。


「君もエルフを下賎な者と思っているのか? クレティアを邪神と思っているのか? 自分達が贅沢出来れば、領民はどうでも良いのか?」


 ブンブンと音が聞こえてきそうな程激しく首を左右に振る。

 しかし、いくら今必死で否定しようとも、このご婦人も有罪だ。


「そうか、君が最初からそう思ってそこにいる男達を止めていればな……。まあ、保身のために今否定してももう遅いがな」

「こっ、子供達は……。子供達だけはどうかお助け下さい。この子達は何も判っていません。お願いします。どうか子供達だけは……」


 必死に子供達の命乞いをしてくる。

 親として、大人として当然の行動だろうが……。


「俺も子供達は助けようと思っていたのだが……。君があまりにも強く抱きしめているおかげで……」


 彼女の腕の中で子供達はぐったりしている。

 恐怖のあまり限界を突破していたのだろう。

 不幸な事故だ……。


「そっ、そっ、そんな……。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 完全に正気を失ったご婦人は自らの顔に爪を立て、ぱっと見は美しい顔を自ら傷つける。


「お前が……、お前が悪いんだ……。自分の欲にまみれたお前が全て悪い。この子達を返せ……。返せえぇぇぇぇ」


 気が触れたご婦人が、自分の夫に向かって飛びかかり、押し倒し顔に爪を立て、首に細い指を絡めていく。

 正に生き地獄だ。

 人は此処まで醜くなれるのか……。


「きっ、貴様。何をしている」


 襲われている夫の兄弟が腰の剣を抜きご婦人を切りつける。

 ご婦人は自分が切られているにも関わらず、首に絡めた指を決して離さない。

 

 何度も何度もご婦人を切りつける男。

 切りつけられても尚首を締め付けるご婦人。

 首を締め付けられている男は既に事切れている。


「ふう~。ふう~。ふう~」


 ようやく兄弟から離れたご婦人を見下ろしながら男は肩で息をしている。

 目は血走り、全身返り血で真っ赤に染まっている。


 四肢を骨折させられているロモロはあまりの惨劇に股間に水たまりを作っている。


「さて、ロモロ。自分の都合良く進めるために弄した策はこうして破綻した。今の気分はどうだ?」


 声は聞こえているが理解出来ないのだろう。

 キョロキョロと目は忙しく動くが瞳に感情が宿っていない。


「君達には一旦正気に戻って貰う。怪我も治してやろう」


 ヘルピーにお願いしてブラック男爵の息子とロモロ商会会長を正気に戻し治療する。

 俺には扱えない魔法だが、ヘルピーは問題無く行使出来る。


「今から君達二人にはこれまでの悪事を書面にして貰う。一時間で書類を纏めろ」


 俺の命令に素直に従い二人は自分達が行った悪事を書面にしていく。

 命令に従うのも魔法だが、筆記用具も魔法で作り出した。

 凄まじいスピードで白紙の紙に次々と悪事を書き連ねる。


「「カミーユ様。私の悪事は全て記載いたしました」」


 分厚い紙の束を受け取り懐に仕舞う。


「では、君達に神罰を執行する。女神クレティアに感謝するように」

「「女神クレティア様に感謝を」」


懺悔ざんげ灯火ともしび


 赤い火が二人の体内に吸い込まれていく。

 赤い火は体内で肉体を焼き尽くすまで決して消えない炎となる。

 灰すら残さず全てを浄化する『懺悔の灯火』


 唯一残された教会へ行き、浄化して正しい像へと置き換える。

 教会に祝福を行い、この地でやるべき事は全て完了した。


「魔獣達よ。ありがとう。先に森へ帰っておいてくれ。俺が戻ったらたっぷりご褒美を上げよう」


 魔獣達は嬉しそうに一鳴きし森へと向かう。


「ザクス。ナタリー。俺達はもう一仕事だ。王都へ戻ろう」

「「畏まりました」」


【マスター。素晴らしい裁きでした。しかし魔法の特訓は必要ですね。私が手取り足取りたっぷりと……。ねぇ?】 

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