第101話 張り切りすぎた魔獣達

 エルトガドに来て何度ヘルピーに助けられただろうか。

 彼女のおかげで何度前を向いて進む事が出来ただろうか。


 言動がだが、ヘルピーには感謝している。


(ヘルピー。ありがとうな。俺は俺の正義を貫くよ)

【はい。マスター。クレティア様もサクラもいつも側にいます。共に進みましょう】


 メイドさんにお願いして、エルトガドへ来た時にクレティアから貰った村人の服のレプリカ(スパイダーシルク製)に着替え、マントのレプリカ(スパイダーシルク製)を羽織り戦闘準備を整える。


 何となくこの装いが使徒としての正装と思ったし、原点回帰の意味もある。


「サクラ。熊どんが来たらちょっと出かけてくる。サクラは彼女達の側にいてやってくれ。サクラの代わりにシードル(狼くん)を連れて行くから」

「カミーユ。この装いは久しぶりね。似合っているわよ。クレティア様の使徒カミーユと言えばこの装いって感じがするもの」

「それは良かった。俺も使徒モードの時はこの服が良いと思ったんだ」


 サクラと出会った時は村人の服しか持っていなかったからな。


「シードルが到着したら声を掛けるよ。ザクスとナタリーを連れて行くが、問題あるか?」

「全く問題無いわ。何かあれば私とユニコーン達で対処できるもの」


 サクラは平静を装っているが目の奥に怒りの炎が見える。

 サクラの思いも一緒に連れて行こう。


「アリーゼ。ザクス。ナタリー。今回の作戦会議をする。集まってくれ」


 作戦会議と言っても熊どん達が到着次第ブッシュ領に向けて出発。

 制圧は俺と魔獣達で行い、ザクスとナタリーが総合ギルドの職員達の確保。アリーゼは此処で窓口業務だ。


「カミーユ様。既に準備は整っておりますのでご安心を。遠征組は少し身体を休めて下さい。私は熊どん達を迎えに城門まで行ってきます」


 アリーゼがそう告げる。

 サクラとの修行は順調の様で仕事が完璧だ。


 遅めの夕食をいただき、身体を休め、心を落ち着ける。


「カミーユ様。熊どんとシードルが到着しました」


 メイドさんの声で意識を取り戻し、外へ出ると出発の準備は整い全員が揃っていた。

 皆の目に怒りの炎が宿っている。


「皆の気持ちは俺が受け取った。彼らは一線を越えた。女神クレティアを邪神と罵り、シスター達を傷つけた。自らの保身のために罪無き市民に手を掛け人の尊厳を踏みにじる者を俺は決して許さない」


「これから行うのは聖戦では無い。神罰の執行だ。エデンに住まう人々を、女神クレティアを信仰する人々を、女神クレティア及び女神クレティアの使徒カミーユと妻サクラは、決して裏切らず守り抜く事を改めて誓おう」


「全ては皆の笑顔のために!」

「「「「笑顔のために!」」」」


 サクラが締めて皆がそれに続く。

 おごそかな雰囲気の出陣式だったが、驚きが先に来てしまった。


 ザクスが先頭で俺と熊どん達が後に続く。

 ユニコーン馬車が十台続き殿しんがりにナタリー。

 馬車を曳かないユニコーンの遊撃隊も六頭いる。


 空が白み始めた王都をゆっくりと進む。


 城門には通達されていたのか特に手続きも無くそのまま進む。

 二時間ほど進むと遠くに城壁が見えてきた。

 最後のミーティングのために一旦停止する。


「ザクスとナタリーは総合ギルドの護衛を馬車へ。俺はギルド職員の身柄引き渡しを優先する。申し訳ないがザクスとナタリーは馬車を守ってくれ」

「「畏まりました」」


「確保次第城内へ向かう。俺が魔法で城壁を消す。クレティアの信徒及び敵意を感じないもの以外は攻撃対象だ。情けは不要だ」

「カミーユ様。城壁を消す際に建物も消して下さい。いくら魔獣達でも建物を破壊しながらですと見落とす可能性もあるかと」

「そうだな。どうせ此処は更地にする予定だから、最初から更地にしておくか」


 ザクスの提案に同意し作戦を少し変更する。


「金銀財宝が目に入ると思うが、一切手を付けないように。後始末は後ろにいる騎士団に任せる事にする」


「ではこれより女神クレティアの使徒カミーユが神罰を執行する」

「ぐおぉぉぉぉ」

「「「ぐおぉぉぉぉ」」」


 俺の言葉に続き熊どんが咆哮を上げ、城壁を取り囲む森の魔獣も呼応する。

 城内にいる者達には死を告げる咆哮として聞こえているだろう。


 ゆっくりと、確実に歩を進め、城壁が近づいてくる。

 驚いた事に城門の前に二十人ほど兵士が出て城門を守っている。


「ザクス。ナタリー。総合ギルドの護衛を馬車に。丁重に扱ってくれ」


 五人の護衛は残念ながら息を引き取っていた。

 彼らのおかげで派遣されたギルド職員とシスター達やエスターさんのご両親の命が救われた。


 せめて安らかに眠れるように彼らに祝福を……。


「俺は女神クレティアの使徒カミーユだ。総合ギルドの職員の引き渡しを」


 勇敢にも城門を守る兵士達にそう伝えるが、答えは返ってこない。


「せめて自分達の手で弔いたいという願いだが……」

「しばし待たれよ」


 城門を守る兵士と無言のにらみ合いが続く。


「カミーユ殿。貴殿はギルド職員を引き取った後この地を去るのか?」

「いずれ判る事だ……。一言言える事は、君達に降伏は許されないし認めない」

「……」


 三十分ほど待たされてようやく三人が荷台に載せられて城門から出てきた。

 三人とも目を背けたくなるような酷い有様だ。

 エリクサーを振りかけたが、効果は無いようだ。


 やはり、此処にいる奴らに手加減は必要ない。

 改めて決意を固めてくれた彼らに感謝しても良いくらいのクズっぷりだ。


「我が名は女神クレティアの使徒カミーユ。この地に住まう全ての者に告げる」


 風魔法に声を乗せ、城内の隅々まで俺の声が響き渡る。


「女神クレティアを邪神とののしり、罪無き者達の尊厳を踏みにじる行為は決して許されるものでは無い。罪を犯した者は罰を受ける。神に罪なす者は神罰を与えられる」


 俺は魔力を練り上げ、城内の隅々まで魔力を張り巡らす。


「これより神罰のを執行する」


 魔法が発動する。

 領地をぐるりと取り囲んでいた城壁は一瞬にして消え去り、教会以外の建物は全て消え去る。

 魔獣達が咆哮を上げ動き出す。


 城壁近くにいた者は突然目の前に現れた魔獣を目にし硬直し、次の瞬間には命が消える。

 俺は熊どんとシードルに続き歩き出す。

 武装した兵士達は魔獣達の障害とはならなかった。


【マスター。開始一分ほどですが、ほぼ終了してしまいました……】    

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