第100話 正義を貫くため 約束を守るため
総合ギルドの職員から語られた内容は
何故そのようになったのか理由は判らないが、俺が晩餐会の席で調子に乗ったのが原因なのは間違いない。
「アリーゼ。ソフィア(大鷲)にお使いを頼めるか? 森に戻って熊どんとシードル(狼くん)は
「畏まりました」
「ザクス。アンジェラに連絡を。ブッシュ領を更地に変える」
「畏まりました」
「ナタリー。テディとエスターを此処に呼んでくれ。ご両親の心のケアを最優先だ」
「畏まりました」
「サクラ。君はシスター達の側に。シスター達の心を癒やせるのはサクラだけだ」
「ありがとう……。カミーユも無茶をしないでね……」
「大丈夫だ。何も心配ない。動くのは熊どん達が到着してからだ」
「カミーユ様」
メイドの声が重苦しい室内に響いた。
「どうした?」
「男性が意識を取り戻しました」
男性の元へ駆けつける。
「エスターさんのお父さんですね? 私は女神クレティアの使徒カミーユです。先ずこれを……。ポーションです」
メイドさんの助けを借りて少し身体を起こし、エリクサーをゆっくりと飲んでいく。
身体が光に包まれ、やがて収まる。
「傷は癒えましたが、血は戻っておりません。暫くは安静に。此処は安全です」
優しくサクラが語りかける。
「妻は……。妻は何処に?」
「安心してくれ。奥様は隣の部屋でシスター達と寝ている」
少しだけ安堵の表示を見せるが、表情は暗く沈んだままだ。
無理も無い。
精神が壊れていても不思議でない状況なのだから。
「今代の領主様になられてから領内は狂い出しました……」
エスターさんのお父さんは話し出した。
領主が代替わりして領内一のロモロ商会が街を牛耳っていた事。
エデンという邪神国家が誕生しエルフの教会を庇護している事。
三日ほど前から領主一族、ロモロ商会を中心に教会を糾弾し始めた事。
住民も加担し教会を襲った事。
武装した兵はギルドを襲撃しギルド職員は……。
参加しなかった住民は非国民として……。
「話してくれてありがとう。もうすぐ娘さんも此処に来る。今はゆっくり休んでくれ」
エスターさんのお父さんが再び眠った事を確認し無言で退室する。
重い空気が支配する。
皆怒りに震えているのだろう。
「ユベール統括。総合ギルドとしてどのように考えている?」
「王国及びブッシュ家、ロモロ商会に対し遺族への謝罪と賠償を……」
「その件は王家と話してくれ。エデンはブッシュ家からの宣戦布告と
「まっ、待ってくれカミーユ国王。被害を受けたのは教会だ。エデンに被害は無いだろう」
「シスター達はエデンの国民だ。そして、クレティアの教会を支えているのはエルフのシスター達だ。シスターに手を出す事はクレティアに手を上げた事と同義。ましてやクレティアを邪神と
「しかし……。これは王国内での諍いだ」
「キース団長。私は総合ギルドのトップ。カミーユ国王はその名の通り国王だ。貴殿の発言は王国の発言と見做すがよろしいか?」
どちらも正論だが、どちらの意見も俺には関係が無い。
「団長殿。速やかに国にユベール統括と俺の言葉を伝える事だ。それが国を救うかもしれないぞ? 死の森の魔獣が二頭王都に入る事も忘れずに伝えてくれよ? 熊と狼の魔獣だ。魔獣に手を出すと命の保証はしない」
「騎士を四名置きます。私は王城へ上がります」
「私はシスター達の側にいるわ」
「ユベール統括は此処にいて良いのか? 総合ギルドの職員にも被害が出ているのだろう? 現地職員と護衛……。一番の被害者は総合ギルドだ。要望があれば何でも言ってくれ。可能な限り配慮する」
「職員と護衛を連れて帰ってきてほしい……。ドッグタグと一緒にギルド証をしている」
「他には?」
「カミーユ様に一任します……。私は遺族の元へ向かいます……」
ユベール統括も退室し、俺は一人部屋の中で考える。
何故こうなったのかと……。
ブラック男爵が当主となってからブッシュ領は狂い出したと言っていた。
ロモロ商会が噂を流し住民を扇動していたと言っていた。
俺とブラック男爵がぶつかるのは必然だったのだろう。
ぶつかった結果ブッシュ家は没落し、悪事が明るみに出るのを恐れてブッシュ家もロモロ商会も焦り、市民を扇動し籠城戦へと持ち込んだ。
俺という異物がエルトガドに来なければどうなっていたのだろうか。
今回の事件は起きなかっただろうが、魔力が無くなったエルトガドで今までのように生きていけたのだろうか?
クレティアがエルトガドの魔素枯渇を阻止するために俺を送り込んだのは間違いではない。
俺が使徒を望まなければ?
きっと俺は一日も持たずに熊どんに殺されていただろう。
世界は何も無かったかのように今まで通り日常を過ごせたはずだ。
俺が使徒を望んだのが全ての始まり。
地球上で最も影響力が無い平々凡々の俺が、ラノベに憧れ欲を出したのがそもそもの間違い?
俺が欲を出したせいでシスター達は地獄を味わっているのだ。
【マスター。しっかりして下さい! マスターは何も間違った事をしていません。マスターがクレティア様の使徒としてエルトガドへ来ていなければ、エルトガドに暮らす人々は今頃どうなっていたでしょうか?】
ヘルピーが一生懸命語りかけてくれる。
【今までのマスターの行動を否定する事は、クレティア様を否定し、私やサクラの事も否定する事と同義です。エデンの魔獣達もマスターに付いてきてくれた人達も、新しいエデンの国民も……。マスターと関わった全ての人々を否定するのですか?】
(しかしヘルピー。俺はイレギュラーな存在だ……)
【それが何だと言うのですか! マスターは確かに地球で生きていました。でも今は、エルトガドで生きています。エルトガドの人々も魔獣達もマスターの事を受け入れています。既にマスターはイレギュラーな存在ではないのですよ?】
(それでも……。そうだとしても俺には荷が重い……)
【マスターの正義は何ですか? マスターの思い描く未来は? マスターの誓いは何ですか?】
(そうだな……。ヘルピー。俺は友を裏切らない。森の魔獣達を、エデンに住まう友を守る事……。これが俺の正義だ)
正義を貫くため、約束を守るためになら、俺は鬼にでも魔王にでもなってやる。
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