第99話 許されざる行為

 ヘルピーがまともな事を言っている。

 明日は雨……。否、雪かな?

 体調不良を心配してしまう。


 いつものようにカロリーバーのお世話になり目覚めた朝は、いつもと変わらない朝だった。

 そう言えばヘルピーはエルトガドへ転生してきた当初は口は悪かったが、まともな事を言っていた気がする。

 今までが異常だったと思えば納得も行くな……。


【マスター。朝から失礼な事ばかり考えないで下さい。お仕置きをご所望みたいですので、今夜はご期待に応えて……。ねぇ?】


 ヘルピーはヘルピーだった。

 病気では無かったようで安心したぞ。


 今日は予定通り王都からそれほど離れていない領地へおもむき、クレティア像の作り替えだ。

 ブッシュ領の件が片付くまで何もしないのは時間の無駄だし、俺達にも無限に時間がある訳では無い。

 早くクレティアの依頼を完了させて、エデンの運営をしなければならないからな。


 騎士団がブッシュ領をきちんと制圧するのかを見届けてから王都を離れる予定なので、あまり遠くの領地に赴く事は出来ないが、今のところ問題は無い。


 馬車の人となりこれから必要になるエリクサーを作ったりしながら目的の教会を目指す。

 盗賊や野良野獣の襲撃も無く到着し、トラブルも無く教会での仕事を終え再び馬車で王都へ戻る。

 

 夕方には総合ギルドがブッシュ領のシスター達を連れて帰ってくるだろうから、俺が晩餐会で調子に乗ったせいでとばっちりを受けているであろうシスター達へのねぎらいの品を用意する。


 俺は既に『目配り』『気配り』『心配り』が出来る男なのだ。


 宿泊場所に戻り、シスター達への労いの品としてミニクレティアローズのペンダントトップを作り終え、サクラやメイドさん達と他愛の無い話をしていると、玄関の方が少し騒がしくなった。

 シスター達やテディ君の義両親が到着したのかなと思っていると、アリーゼが血相を変えて駆け込んできた。


「カミーユ様! エリクサーを!」

「どうしたアリーゼ。落ち付け。何があった?」


 今まで一度も取り乱した事が無いアリーゼが取り乱しているので、緊急事態なのは判るし、エリクサーを要求しているのだから、誰かが瀕死の重傷なのも判るが、事情を知らない事にはエリクサーは渡せない。


「シスター達とエスターさんのご両親が……」


 アリーゼの話を最後まで聞かずにサクラが部屋を飛び出す。

 俺もサクラの後を追う。


「五人の状況は?」

「最低限のポーションで何とか命を繋いでいますが……」


 一体誰が?

 考えるまでも無くブラック男爵一族の仕業だろう。


「総合ギルドの被害は?」

「護衛として同行していた者が五名……」


 エリクサーが十本ほど入っている箱を抱えて、シスター達を寝かしている部屋へ移動する。


 シスター達の顔は赤黒く腫れあがっている。

 僅かに胸の辺りが上下しているので、呼吸はしているようだが、虫の息だ。

 沸々ふつふつと怒りがこみ上げてくる。


「エリクサーをミスト状にして振りかける。掛けている布を外してくれ」

「ごめんなさいね。男性は退室してくれるかしら……」


 静かに話すサクラの声が震えている。

 室内に残っている女性陣が手早く掛けられている布を外していく。


 露わになったシスター達は裸だった。

 手足の関節は折られ、白い肌は一切見えない。

 全身赤黒く変色し醜く腫れあがっている。


 女性の股間を見れば凌辱された事が一目で判る。

 エスターさんの父親のシンボルは根元から失われていた。


「カミーユ様。サクラ様。第三騎士団団長のキース・オリオーダン様です。被害者の状況を確認したいと……」

「通せ」


「エデン国国王カミーユ様。王妃サクラ様。第三騎士団団長キース・オリオーダンです。王都城門より緊急報告があり罷り越しました。被害者の状況確認と、可能であれば話を聞かせてほしい」

「話は無理だが急いで検分してくれ。検分後治療を行う。もし検分に手間取り命を落とす事があれば……」

「女性騎士のみ検分を許可します……」


「急いで検分を。否。検分の必要は無い……」


 横たわるシスター達を一目見て状況が判ったようだ。

 苦虫を噛み潰したような顔でキース団長が怒気を含んだ声でそう告げた。


「申し訳ない。急いで治療を……」


 俺は瓶から零れるエリクサーがミストとなり、横たわる五人に満遍なく降り注ぐイメージを構築し魔力を練り上げていく。


「サクラ。エリクサーを……。ミスト」


 サクラが俺の前でエリクサーの入った瓶を逆さにし、エリクサーが流れ落ちていく。

 流れ落ちたエリクサーは即座に霧状に変化し五人に降り注がれる。


 持ってきた十本のエリクサーを全て使い、五人の外傷が消えていく。

 腫れあがっていた顔や身体は徐々に人肌に戻り、呼吸も安定している。


「サクラ。一旦退室して状況を確認しよう。総合ギルドの職員や騎士団長もいる」

「……。そうね……。何かあれば直ぐに声を掛けて頂戴……」


 別室に移動しギルド職員の話を聞こうとしていた時にユベール統括が到着した。

 怒気を貼り付けたような表情だ。

 確か、総合ギルドの護衛が五名と言っていた。


「では、ブッシュ領で何があったのか話してくれないか? 思い出すのも怖いかもしれないが、これ以上同じ事が起きないようにする為にとても重要だ……。辛いだろうが頼む」


 キース団長が務めて優しく総合ギルドの職員へ話しかける。


「はっ、はい。私達三人は今朝王都を出発してブッシュ領へと向かいました。目的は、総合ギルド職員の撤収とエデンから依頼されていたシスター三名と領民二名の移送です」


 ギルド職員は小さな声で、時折怒りに震えながら、時に恐怖に怯えながら話してくれた。


 ブッシュ領の城門は固く閉ざされており、総合ギルドの職員証と王家から発行されたシスター達とエスターさんのご両親の移送命令書を門兵に見せるが、『五人を連れてくる』と言うだけで領内に入れなかった事。


 暫くすると、僅かに城門が開き、ゴミを捨てるかのように五人を放り出した事。

 その時には既に五人はこの状態だった事。

 領民に凌辱されているシスター達を俺達が助けてやったと門兵が言っていた事。


 急いでポーションを振りかけ馬車に乗せて出発しようとした時に城壁から無数の弓が飛んできて、護衛達が身を挺して守ってくれた事。


 許せない。

 絶対に許せない。

 たとえ魔王になろうとも、こいつらだけは許さない。


【マスター。僭越ながら私ヘルピーが全力でサポートします。彼らは一線を越えました】

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