第98話 目配り 気配り 心配り

 王国側の準備が整うまで暇だから王都の各教会へエリクサーを配りに行く事にした。

 像の作り替えの時は三日かけて回ったが、今回はエリクサーを渡すだけだから半日もかからずに回りきれる。

 

 俺とサクラとナタリーの三人で移動だ。

 馬車には乗らず皆それぞれ相棒のユニコーンに乗って移動する。


 アリーゼは教会に残ってもらい、奴隷達への教育? と、ザクスを伝令とした王城とのやり取りをしてもらう。


 六件目の教会に立ち寄った時にアリーゼから伝言が届いていた。

 王国との打ち合わせは夕食を取りながら行うと言う事と今まで使っていた建物を引き続き宿泊場所として提供してもらった事が記されていた。


 ブッシュ領にも訪問日の変更について総合ギルドの特急便で知らせてくれているらしい。


 全ての教会を回りいつもの宿泊場所へと戻る。

 ユニコーンに跨がっていると子供と達がキラキラした目で手を振ってくるので笑顔で振り返しておいた。

 偶にはこういうのも悪くないな。


【マスター。もう少し乗馬の腕前が上達してからにした方が良いと思いますよ? 大人達から生暖かい目を向けられていた事に気付きませんでしたか?】


 気付いていないし、ヘルピーが言った事など聞こえていない。


 宿泊場所へ戻り、全員を集めて今回の件について概略を説明した。

「私達も予定通り行くとは思っておりませんからお気になさらず。たとえ襲撃されてもユニコーンもおりますし、蜘蛛の魔獣の子供達を数匹連れてきておりますので、どうとでもなります」


 事もなげにメイドさんの一人がそう言ったが、蜘蛛の魔獣の子供達を連れてきていたのか……。

 子供と言えど森の魔獣だから強いのかな?


「あれ? カミーユは知らなかったの? 蜘蛛の子供一匹で騎士団一つくらいは倒せるから問題無いと思うわよ?」


 知らなかったのは俺だけなのね……。

 俺の記憶が正しければ、俺は国王だったはずだが……。


【マスター。いじけないで下さい。今夜私が慰めてあげますから……。ねぇ?】


 慰み者にされる未来が見えるので遠慮しておこう。


 メイドさん達同行者の安全が確保されているのであれば問題は無い。

 安心してブッシュ領に侵攻? する事が出来る。


 時間を見計らい馬車の人となり王城へと赴く。

 騎士の案内により王城の一室に通される。

 既に国王以下会議の出席者は集まっているようで、俺とサクラの二席だけ空席となっていた。


「ルーラント国王はじめ皆様方。お待たせして申し訳ない」

「我々が先に集まって話していただけだ。お気になさらずに」

「そう言って貰えると助かる」


 俺とサクラが席に着き会議がスタートする。


「先ず、今回の件を事前に連絡頂いた事を感謝する。同時にこれまでブッシュ領を野放しにしていた事に謝罪を」

「王国からの感謝と謝罪を受け取ろう」


「それで、これからどうするの? 王国としての方針は?」


「それは私が説明します」


 セシル宰相が説明してくれるようだ。


「王国としましては、ブッシュ家廃絶。血縁者は全員拘束しこの国で一番重い刑に処す予定です」


 罪名は国家反逆罪で恐らく公開処刑だろう。


「領地は一旦国王直轄地として代官と騎士団を派遣し統治します。ブッシュ家と結託している者も少なからずおりますので、そちらの粛正も順次行います」


 それは当然だろうな。

 しかし、俺達が聞きたいのはそれではない。

 今の話は俺達にとってはどうでも良いのだ。


「私達は何時いつブッシュ領に行けば良いのかしら?」


 そう。これが俺達にとっての重要事項。

 何時行って、何処までしていいのか。


「四日後に代官と騎士団と共にご出発願えますか?」

「ああ。四日後だな? 問題無い」

「私達が先行し、遅れて騎士団が到着の流れが王国にとっても都合が良いのではなくて?」

「我々としては、騎士団が制圧後に……、と考えておりますが……」


 俺達が先行して制圧する事は内政干渉として諸外国は捉えるだろうか。

 恐らく他国の諜報員が今回の件も国に報告を上げるだろうからな。

 国内の問題を自分達で解決出来ないとあなどられるのだろう。


「それであれば俺達が同行する必要は無いだろう。ブッシュ領の教会を廃止してシスター達を引き上げれば俺達は問題無いからな」

「そうね。そうしましょう。あまり私達が出しゃばりすぎると王国が他国から侮られてしまうわね」

「ご理解頂きありがとうございます」


 集まっていた王国の重鎮達がホッと胸をなで下ろす音が聞こえた気がする。


「エデンとしては総合ギルドを通してシスターと第十二衛兵隊のテディ君の義両親をブッシュ領から引き上げるように手配する」

「今回は私達の身内に何も無ければ手を出さない。逆に言えば何かあれば……」


 ゴクリと固唾を呑む音が聞こえた。

 無事シスター達とご両親が脱出出来るようしてくれるだろう。


 話の区切りが付いたところで、待機していたメイドさん達が夕食を運んできて夕食を頂く。

 何故テディ君を引き抜こうと思ったかと問われたので、テディ君に説明した内容をそのまま伝えた。


「その場で王侯貴族に対して注意が出来るのは、余程の胆力の持ち主だろうな。誇らしいと思う反面、無条件で了承した上層部の見る目の無を嘆きもするな」

「カミーユが特殊だから判った事よ。いくら王侯貴族でもギルドの壁を壊す事は無いわ。事情を知らない人から見れば単なるテロ行為ですもの」

「それもそうか……」


 サクラの話で場が和んだところで王城を後にした。

 ナタリーにお願いして総合ギルドへ行ってもらい、ユベール統括と面会可能か確認してもらう。

 幸いユベール統括はギルドに居て、面会してくれるらしい。

 冒険者ギルドとの件があるから、無理をしてでも会ってくれるのだろう。


 ブッシュ領が大変な事になっている事は当然ユベール統括も承知していて、シスター達の救出? 脱出? を快く引き受けてくれた。


「実は総合ギルドの職員も引き上げさせる予定でしたので、引き上げる前で良かったです。引き上げた後ですと総合ギルドとしてもどうしようもありませんでした」

「間に合って良かった」

「今回の件はきちんと請求してね? 冒険者ギルドの件と今回の件は関係ありませんからね。それと、ギルドの職員さんに疲労回復のカロリーバーを」


 そう言ってかなりの数のカロリーバーをお土産として渡した。


【マスター。『目配り』『気配り』『心配り』です。サクラを見習いましょう】  

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