第97話 少し? 効果が高いポーション

 結局、奴隷ギルドの職員全員がクレティアへ誓いを立て、祝福を受ける事となった。

 教会に連れて行く事も考えたが、ギルドを無人にするのは問題なので、この場で女神像を作り儀式を行う事とした。


 収容人数の関係でギルドのロビーで儀式を行う事にした。

 儀式を行う場所は関係ない事は今までの経験で判っているので問題無い。

 ついでに今回作るクレティア像もそのまま設置して貰って少しでも信徒獲得に寄与する事を期待する。


 代表してアベラルドさんが誓いを立て職員がそれに同意する。

 サクラが最終確認し俺が宣誓し祝福を与える。


 祝福を受けた職員達に信徒の証しを渡し儀式の終了だ。


 初めてキラキラ演出を見たアベラルドさん達は感動していた。

 俺も最初は感動したしな。


「クレティア像はここに設置したままでも良いか? 不都合なら撤去するが」

「是非このままでお願いいたします。始業時と就業時に皆で感謝を捧げます」

「祝福を受けたいという方がいたら教会へ行くように伝えて頂戴。現在王都の全ての教会で同じ祝福が受けられますし、信徒の証しも渡せるわ」


 サクラは追加で営業活動を行っている。


「奴隷ギルドで働く皆さん。『奴隷』という商品を扱っていると言うだけで軽蔑の目を向けられる事もあるだろうが、奴隷ギルドがある意味セーフティーネットとの機能を果たしていると俺は思っている」

「貴方達のおかげで救われる人々がいる事は誰も否定出来ない事実。三戒の『人として正しい行いをする』にも通じる尊い仕事です。これからも誇りを持って、胸を張って励んで下さい」


 俺とサクラの言葉で涙を流す職員もいた。

 人身売買組織と奴隷商(ギルド)を混同して心ない言葉を投げつけるやからもいるのだろう。

 自分達の仕事を『尊い』と初めて言われたのかも知れない。


 エデン式法治国家にも奴隷制度を組み込むつもりだから奴隷ギルドやギルド所属の奴隷商達には清く正しく商売に励んで欲しい。


 奴隷ギルドを後にし向かう先はここから一番近い教会だ。

 王国から提供して貰った宿泊施設は今朝引き払ってきたから、打ち合わせ等を行う場所が教会しか無いのだ。


 教会に到着するとつい先日会ったばかりのシスター達が出迎えてくれる。


「こんにちはシスター。急な事で申し訳ないな」

「いえいえ。何時いついかなる時でも私達がカミーユ様とサクラ様を歓迎いたします」


 シスターの表情を見れば社交辞令ではないだろう。

 素直に嬉しい。


「この三人は新たに俺達の身内になった。よろしくな」

「「「よろしくお願いします!」」」


 声を揃えて元気良く挨拶する三人を見て驚きと戸惑いの表情を見せたシスターだったが、『こちらこそ、よろしくお願いします』と柔和な笑顔で返していた。


「では、三人とも改めて自己紹介をしておこう。俺はエデン国国王で女神クレティアの使徒カミーユだ」

「妻のサクラよ。ある程度馬車の中でアリーゼから話を聞いていると思うけど、私達は新しい仕組みで国造りを始めるの。私達と一緒に新しい国造りをしましょう」


「先ずはこれを飲んでくれ。だ」


 そう言って俺は三本のエリクサーをテーブルの上に置いた。

 エリクサーと言えば絶対に口にしないだろうから。

 三人は互いの顔を見ながら飲むべきかどうか判断に迷っているみたいだ。


「大丈夫よ。これは私達からのプレゼント。三人とも奴隷商にいる間は、心も身体も休められなかったでしょ? 私もカミーユに貰ったし、森の魔獣達ですら飲んでいるから安心して飲んで頂戴。お題は請求しないから」


 どう見ても尋常じゃないオーラを放っているポーションを前に戸惑っていた三人だが、魔獣も飲んでいると聞いて覚悟を決めたのか手に取って一気にあおる。


 一拍置いて身体が金色の光に包まれていく。

 自分の身体に何が起きているのか理解出来ずに唖然として固まってしまう。


「なっ、なっ……」


 右手と右足を失ってしまった鍛冶職人のロランドが驚きの声を上げる。

 腕や足がゆっくりと再生されているのだから当然だろう。

 女性二人もそれを見て言葉を失う。


「セヴリーヌ。ステファニー。ロランド。君達は今生まれ変わった。過去を無かった事には出来ないが、より良い未来を共に目指そう」

「エデンは貴方達三人を歓迎します」


 俺とサクラは笑顔で歓迎を伝える。


「私の全てをエデンに……。女神クレティア様に感謝を」

「「女神クレティア様に感謝を」」


 ロランドに続き女性二人も跪き感謝の言葉を続けた。


「別にそこまで大げさに考えなくても良いのよ。たとえエデンから離れたとしても、三戒を忘れず、誰かの幸せを願いながら生きていきましょう」


 流石サクラだ。

 こういう場面で完璧な言葉を選んで話してくれる。


「エリクサーを飲めば手足が生えてくると思って無茶はするなよ? 次回からはキッチリ料金を頂くぞ?」


 悪戯っぽく言ってみたが、三人が固まってしまった。


「えっ。エリクサー?」

「いっ、いっ、今私達が口にしたのは伝説のエリクサー?」

「手足が生えてくるのだから納得は出来るが……。エリクサー?」


「あら。逆に聞くけどエリクサー以外で手足が生えてくるようなポーションはあるのかしら? まぁ、先程も言ったように、エデンでは魔獣も口にするほど普通に存在してますから気にする事は無いわよ」


「こう見えて女神クレティアの使徒だからな」


 ドヤ顔で決めてみた。


【マスター。サクラの説明でマスターの声は届いていません。人の言葉に乗っかってドヤ顔する痛い人にしか見えませんよ?】


 マジか……。

 この三人減給だな。


「三人とも商会で支給された服だろ? ロランドのリハビリがてらその辺で三、四着ずつ購入してくると良い。アリーゼ同行を頼む」

「「「「はい」」」」


 現金な奴らだ。


 買い物に行く前に礼拝堂で誓いと祝福を受けて貰い四人は買い物に出かけた。


「カミーユ様」

「どうしたシスター」

「先程のエリクサーの件ですが……」


 エリクサーがどうしたのだろうか。

 言っても良いのか逡巡しているようだ。


「そうね。エデンでは特別でもないし、市場に流す予定も無いから、像を作り替えた教会のシスター達にも飲んで貰っても良いかもしれないわね。教会を支えてくれているのはシスター達ですもの」

「それもそうだな。じゃあ、シスター達も飲んでくれ」


【マスター。一応言っておきますがエリクサーは伝説の存在であり、今までエルトガドに存在していませんでしたからね? ご褒美としては上等すぎます。今後のご褒美は私が改良した『ブラックハイヒール』で……。ねぇ?】

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