第94話 女神の使徒 守銭奴となる?

 ヘルピーがとんでもない事をのたまっているが、まるっと無視して話を続ける。


「あら。エスターさんは興味ありそうね?」

「えっ。あっ、はい。私は『法治国家』という仕組みが素晴らしいと思ったのです。私はグスタフ・ブッシュ子爵様が治める領地出身なのですが、ブッシュ領と王都では同じ王国とは思えない程違いがあります。両親の話ですと先代の領主様は寛容な方で、余程の事が無い限り不敬罪で拘束される事は無かったのですが、代替わりされてから、領主様の馬車を見て驚いた子供に対して領主様が『私の馬車を見て泣き出すとはなんたる無礼』と激高され、一族全員不敬罪で拘束されたらしいのです」


 ブラック男爵はとんでもないモンスター貴族だな。


「エデンで始まる『法治国家』では先程のケースですと恐らく領主様が罰せられるはずです。『法の下の平等』という言葉は私にとって凄く魅力的な響きです」


「そうだな。たとえ王族であろうと法を破れば罰せられる。その時に臆せず行動出来る衛兵が必要なのだ。此処にいるザクスやナタリーは俺達と同行する事が多くなる。その時にテディ君がしっかりと衛兵隊を動かしてほしいと思っている」

「それに、エスターさん。貴女が素晴らしいと言ってくれた『法治国家』『法の下の平等』では、『そんなルールがあるなんて知らなかった』と言われて、『じゃあ、次は気を付けてね』なんて事は無いの。市民の皆がしっかりと法を理解する必要があるし、法律を知らないばかりに犯罪者になってしまう可能性もあるのよ。国民に法を理解して貰う為に貴女の力も貸してほしいと思うわ」


 サクラが大丈夫と思ったのならエスターさんは優秀なのだろう。

 その後アリーゼやザクスにナタリーも話に加わりエデンの素晴らしさや現在の課題や将来の展望、もしエデンへ移籍した場合の条件面などを和やかに話し合った。


「まあ、今すぐに決めろとは言わないから、しっかりと話し合ってくれ。人生を左右する大きな話だろうから、親御さんにも相談してほしい」

「希望があれば親御さんもエデンに連れてきても問題ありませんからね」

「はい。ありがとうございます。私は問題ありません」

「私も問題ありませんが、両親の承諾も貰わなければならないと思いますので、一週間程度お時間を頂ければと」


 後は親の同意を得られれば晴れてエデンの住民となる。


「結果は教会か総合ギルドに伝えてくれ」

「その後アンジェラ宰相から今後について連絡が入るから、その指示に従って頂戴ね」


 和やかな面接が終わり、翌日に備えて身体を休める。

 俺の場合はカロリーバーのお世話にもなり身体を休める暇は無かったが……。


 明けて翌日は朝から奴隷ギルドへ訪問する。

 その後は王都を離れ各領地へとおもむきクレティア像の作り替えだ。

 最初に向かうのはエスターさんの出身地であり『ブラック男爵』の異名を持つグスタフ・ブッシュ子爵が治めるブッシュ領だ。

 アリーゼが総合ギルドや教会の報告を通して情報収集してくれているが、奴隷ギルドでも情報収集しておこう。

 ギルド独自の情報を持っているだろうからな。


 勿論質の良い奴隷がいれば即買いだ。

 その辺はアリーゼが事前にギルドに伝えているようで、俺達が希望する条件に合った奴隷と面会出来るようになっているらしい。


「ようこそ奴隷ギルドへ。私は当ギルドの責任者をしておりますアベラルド・アロジョと申します。エデン国国王カミーユ様と王妃サクラ様のご来訪を心より歓迎致します」

「丁寧な挨拶感謝する。エデン国国王であり女神クレティアの使徒カミーユ・ファス・ドゥラ・エデンだ」

「カミーユの妻のサクラ・ファス・ドゥセ・エデンです。これから長いお付き合いが出来れば嬉しいわ」


 毎度毎度お決まりの挨拶にもかなり慣れてきた。

 自分の名前もすらすら言えるようになってきている。

 流石は俺だ。仕事が出来る男……。


【マスター。もう少しすれば肩書きに『魔王』が加わりますね。その時は魔王を表すミドルネームが追加されますので……】


 要らない情報をヘルピーが教えてくれる。

 まあ、魔王になる事は無いだろうからその情報は本当に要らない情報だな。


 アベラルドさんの後に続いてギルドの応接へ通される。

 普通の応接と違い、俺達が入ってきた扉とは別の扉がもう一つある。

 恐らくだが、奴隷用の通用口なのだろう。


「しかしカミーユ国王。国政に奴隷を使う可能性があると伺いましたが……、正気ですか? 否。私共奴隷ギルドとしては大変喜ばしい限りなのですが……」

「有能な人材は活用しなくては勿体ない。身分によって差別する事は無いな」

「実力と性格に問題無ければ喜んで登用するわよ。私達の側仕えに相応ふさわしいと思えば躊躇無くそうするわよ?」


「いやはや……。王侯貴族は体面を気にしすぎるほど気にしますが、お二人はそうではないのですな……。余程人を見る目に自信がおありのようですな」

「俺はそうでもないが、サクラはその辺凄いと思うぞ。今まで外した事が無い」

「私はハイエルフですからね。今までも様々な人を見てきたので、何となく判るのよ。奴隷ギルドもエルフを雇って人物鑑定してみるのも良いかもしれないわね」


「実は以前何人かエルフを雇っていたのですよ。病気や怪我の最低限の治療もしなければなりませんし。しかし、相手は奴隷です。理由は違えど殆どの者は心に闇を抱えております。どうしても高潔なエルフ族の方達はそれに耐えられなく……」


 それはそうだろうな。

 俺でも心が病みそうだ。

 エルフは人族よりも寿命が長いから尚更だろう。


「我々奴隷商も商売ですので、できる限り商品の状態を良くしたいのですが、かかったコストは当然値段に反映されます。高くなると売れ残るリスクが上がり、たとえ売れたとしても場合によっては『高く買ってやったのだから』と酷い扱いを受ける事もありますので、難しい所です」


 初っぱなから重い空気になってしまった。


「横から失礼します」

「どうしたアリーゼ?」

「はい。奴隷ギルド向けの専用ポーションを作られてはいかがでしょうか? カミーユ様のポーションは安価でも効果は確かです。病や傷の程度は様々でしょうが、治癒魔法を使うには少し勿体ないと言った程度の傷や病を治せるポーションを」


「そのような事が可能なのでしょうか?」

「可能か不可能かと言えば可能だな」

「じゃあ、早速作りましょう。材料は揃ってるでしょ?」


【マスターもたまには使徒らしい仕事をするのですね。否。お金が絡んでいましたね。この守銭奴が!】  

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