第93話 圧迫面接
翌日も同じように仕事を熟し、この二日間は平穏に過ごせた。
カロリーバー無しの生活は一日で終了してしまったが……。
「今日はサクラがスカウトした衛兵が尋ねてくるんだったな?」
「そうね。国からも許可が出たらしいので、詳細を聞きたいそうよ。決めるのはその後になりそうね」
「それはしょうがないだろう。彼にも生活があるんだ。今以上の待遇と誇りを提供しない限り、普通は転職しないだろうからな」
それは当然だろう。
現在の仕事に誇りを持って待遇面で問題が無ければ転職する必要など何処にも無いのだから。
彼にも家族や、もしかしたら恋人もいるかもしれない。
簡単に決断する事は出来ないだろう。
こちらとしても来てくれたらラッキー程度に考えておかないと断られた時のショックが大きいだろう。
あの場では訳も判らず『はい』と言っていたが、訳も判らず言っていたからな。
「どうやら彼は新婚さんみたいで、夫婦で会いに来るみたいよ?」
「おぉ。このパターンは初めてだな。奥さんがエデンに来たいと思えるようにプレゼンしないとな」
「カミーユ様。サクラ様。テディ・ベル様とエスター・ベル様がお越しです。第一応接室へお通ししておりますので、宜しくお願いします」
テディ君はテディ・ベルか……。
やはり彼にはマスコットになって貰うしか無いな。
「ありがとう。アリーゼとザクス、ナタリーにも伝えてくれ。五分後に第一応接に入る」
今回の面接? は面接官五人だ。
しかも国王夫妻を筆頭に国の主要メンバーだ。
完全なる圧迫面接だな。
五分後テディ夫妻が待つ第一応接にサクラと向かった。
入室と同時に部屋の中にいた全員が起立し頭を下げ出迎えてくれる。
「待たせて済まないな。皆顔を上げてくれ」
「テディ・ベルさんとエスター・ベルさん。こんな時間に申し訳ないわね」
一国の国王夫妻とは思えない軽い感じで面接スタートである。
テディ君の面接と同時に俺達もテディ夫妻に面接されているのだろうから、威厳たっぷりにしても良かったのだが、俺達には似合わないだろうといつもの感じで話を進める事にした。
「そんな。滅相もございません。私達こそお時間を頂いた上に国王ご夫妻に直接お話が出来る機会を与えて頂けた事に感謝致します」
ビジッと背筋を伸ばしテディ君は言葉を返してくれる。
「私まで同席させて頂くご配慮を頂きまして誠にありがとうございます」
テディ君の奥さんのエスターさんも丁寧な挨拶をしてくれる。
学級委員長タイプという印象だ。
「まあ、立ったままでは話が出来ないから、皆座ろう」
全員が座ったのと同時にメイドさんが紅茶を出してくれる。
流石旧公国一のホテル仕込みだ。
「では、改めて自己紹介をしておこう。俺はエデン国国王であり、女神クレティアの使徒であるカミーユ・ファス・ドゥラ・エデンだ」
「私は妻のサクラ・ファス・ドゥセ・エデン。先日総合ギルドでテディさんに声を掛けてこんなにも早く再会出来る事を嬉しく思うわ」
こんな感じでアリーゼ、ザクス、ナタリーも自己紹介をして行く。
「センドラド王国第十二衛兵隊に所属しておりますテディ・ベルです。この度は一衛兵である私にお声掛け頂き大変感謝しております」
「妻のエスター・ベルでございます。夫の一大事と思い不躾ながら同席を願いましたが、快くご承諾頂きまして感謝致します」
「まあ、今回は単なる転職でなく国籍まで変わるような話だからな。エスターさんの心配も良く判るし、テディ君にしっかりした奥さんがいると判ってホッとしたよ。何せあの時のテディ君は訳も判らず『はい』と答えていたからな。ちょっと心配したぞ?」
「何を言っているのよカミーユ。勇気を出して国王夫妻に注意したらスカウトされたのよ? 自分に何が起こっているかも理解出来ないし、かといって他国の国王夫妻に向かって『否』と言えばどうなるか判らないし、パニックになってもしょうがないと思うわよ?」
「まあ、声を掛けたのはサクラだがな……」
「おかげで今日こうして話が出来るから結果的に良かったでしょ?」
若干不満の顔をサクラは俺に向けてくる。
「そうだな。サクラが声を掛けてくれたからこそ今がある。この場を作ってくれたサクラに感謝だな」
「それなのですが……。何故私なんでしょうか……」
まあ、そう思うのもしょうがないだろう。
彼は俺達に注意をしただけなのだから。
「私もそれが気になりまして同席をお願いしたのです。彼の目の前で言うのもあれですが、彼は飛び抜けた特技が無い、一般的な? 街の衛兵ですから」
「あらそうなの? でも、テディ君は他国の王族である私達に注意をしてきたのよ? 横暴な人だったら『不敬罪』と言いかねない事を承知の上で」
「彼が俺達に注意してきた理由は『市民が不安になるから』なんだ。国の体面ではなく市民の為に行動出来る人間は早々いないと思うぞ?」
「それは衛兵として当然の事です。あの場に他の衛兵がいたとしても同じ事をしていたと思います」
「そうかもしれないが、俺達は君以外にそのような衛兵に会った事が無い」
「私達の国では『法律』というルールに基づいて国家運営が行われるの。国王であるカミーユも私もその『法律』に違反すれば罰せられます。今まで王族だから、貴族だからと罪を免除されていた者達に対しても臆する事無く行動しなければならないのよ。貴方はそれを出来るでしょ?」
「……」
「それと、こちらの事情もあってな。現在旧公国には騎士を含め街を守る人材がかなり不足している。旧公国は法律で国家運営を行う『法治国家』として生まれ変わる」
俺が大量虐殺してしまったからな。
おかげで魔王クエストが発生してしまった……。
「テディ君もエスターさんも私達と一緒に新しい国造りをしてみない?」
衛兵として雇われると思っていたであろうテディ君とエスターさんはスケールが大きな話に困惑している。と言うか思考が追いついていないのだろう。
一衛兵でしか無い新婚夫婦に国造りをしようと誘う方が間違っているのだ。
「私がエデンに移籍したとして、どのような仕事を?」
「先ずは法律の素案作りだな。衛兵としての権利と義務を明文化する事からだな」
「例えば衛兵には罪人を逮捕、拘束出来る権利を与えるけど、逮捕、拘束する理由を明確に示す義務があるとかね」
テディ君は面倒くさそうな顔をしている。
頭を使う仕事は嫌いなのだろう。
奥さんのエスターさんは目をキラキラさせている。
彼女はこういった仕事が好きなのだろう。
【マスター。エスターは落ちましたね。新郎の目の前で新婦を落とすとは……。そっち方面もいける口だったんですね】
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