第95話 さらば ブラック男爵

「ちょっと待ってくれ。ポーションに関しては薬師ギルドとも協議しなければならないと思うが……」

「その辺は問題無いかと。我々奴隷ギルドとしても同じような事を何度も考えてその度に薬師ギルドへ相談しています。現状を見て頂ければ結果は判ると思いますが……」

「薬師ギルドは奴隷ギルドからの相談に応えられなかった。私達は提案を行った。それが全てじゃないかしら?」


 簡単に結論を出して問題無いのだろうか。

 小心者の俺には不安しか無い。


「カミーユ様。別に薬師ギルドと敵対する事になってもエデンとしては問題無いと考えます。エデンにはエデン産のポーションもカロリーバーもありますから」


「それもそうだな……。難しく考えていたようだな」


 アリーゼの一言で問題など最初から無かったと気がつけた。


「ポーションを作る前に相談と言うか、条件がある」

「どのような条件でしょうか?」

「簡単な話だ。絶対に市場に流さない事と仕入れた奴隷全員に必ず飲ませる事だ」

「市場に流さないのは判りますが、全員にですか……」


「別にエデンが儲かるからじゃないぞ? 奴隷全員に飲ませると言う事は、奴隷の価値を高める事になるし、奴隷ギルド所属の奴隷商の信用向上にも役立つ。何より、本人達のやる気と言うか……、少しは前を向けるのではないか?」

「そうね……。出来れば仕入れ時だけでなく、引き渡し時にも購入者の目の前でもう一度飲んで貰えれば更に効果的かしら」

「それであれば、仕入れの際は精神安定効果を、引き渡しの際は疲労回復効果を付与してはいかがでしょうか?」


 女性二人は営業上手だな。

 アリーゼは総合ギルドで鍛えられていたのだから理解出来るが、サクラは天性の物だろう。

 その美貌も相まって、男性に対しては抜群の効果を発揮するはずだ。

 流石にギルド長クラスの相手では難しいだろうが……


「問題は価格ですな。売値で金貨一枚程度に抑えたいところですが……」


 彼らも商売だ。

 商品が売れなければ、儲けが減ってしまっては意味が無い。


「そこは試さないと判らないだろう。取り敢えずサンプルとしてそれぞれ百本用意しよう。金額等詳細は……」

「それは私が行います。採用するしないに関わらず教会か総合ギルドに連絡を頂ければ問題ありません」

「では、お言葉に甘えてそのように」


 ポーションに付いては一旦これで終了だ。

 試供品はこの後造って納品しよう。


「ところで、俺達はこの後ブッシュ領へ向かうのだが、あまり良い評判を聞かないのだが……」

「ブッシュ領ですか……。先代の領主様の治世は良かったのですが……」


 やはりブラック男爵になってから評判が悪いようだ。


「既にご存じかもしれないけれど、グスタフ子爵とは私達も因縁があるのよね。面倒事に巻き込まれるのは嫌だから、情報があれば……」

「噂話程度には聞いております……。私の予想ですと、カミーユ国王とサクラ王妃は確実にトラブルに巻き込まれますな。ブッシュ領も城壁で囲まれているのですが、恐らく城内に入る時にトラブル発生です。確実にトラブルを避けたいのであれば、夜中にこっそり空から行く事ですな」


「そこまでですか……」


 何かしらトラブルが起きる心配はしていたが、アベラルドさんの話だと予想以上に悪い状況だ。


「そうですな。グスタフ子爵には二人のお子様がいらっしゃるのですが、グスタフ子爵からを受けておりましてな……」

「それだけで理解出来たわ。しかし、王国も私達が次にブッシュ領におもむく事は承知しているはずなのに何も対策していないのかしら」

「今回の騒動でブッシュ家は貴族籍から除籍される事は確実です。ブッシュ家に仕えていた私兵達も横暴を見て見ぬ振り所か自分達も甘い汁を吸ってきていた訳です。ブッシュ家と私兵達は最後の抵抗として住民を人質として籠城戦を行っておりますから……」


 予想以上にクズだった。

 あの時優しい言葉を掛けた俺はピエロだな。


「原因の一端は俺にもあるから、俺が堂々と入城して解決してこよう。使徒として女神クレティアから貰った力はこのような場面でこそ使うべきだな」

「私も使徒の妻として微力ながら……」

「では私は王国へ連絡を入れておきます。ブッシュ一族及びその私兵を拘束するので代官及び騎士の派遣で問題無いですよね?」


 ちょっとそこまで買い物に行く感覚で話を進めている俺達を見て、アベラルドさんは口をポカンと開けて固まっている。


「私兵と言ってもブッシュ家は武で名を馳せたお家です。私兵の数も五百は下らないかと思われますが……」


「その程度は問題無い。旧公国の話は聞いているだろ? あれは事実だ」


「しかし、今回は住民を人質に取っての籠城戦ですぞ?」

「ああ。問題無い」

「因みに旧公国の時も住民は誰一人傷ついていないし、亡くなった騎士達も一滴の血も流していないわよ。亡くなってはいるけど……」


 アベラルドさんの顔を見ると『信じられない』と言いたいのが良く判る。


「もし良かったら同行すると良い。良い仕入れも出来るかもしれないぞ?」


「何があっても同行しろと言う自分と、何があっても同行するなと言う自分がせめぎ合ってますが、今回は止めておきます。ポーションの件をギルド所属の商会と話し合いたいと思います」


「あら残念。カミーユの美しい魔法を見られる機会は早々無いのよ?」


 アベラルドさんもサクラも俺が負ける事など露程も思っていないようだ。

 俺も負ける気はしなし、一瞬で終わらせる自信がある。


 ヘルピーが『魔王への道を順調に進んでいますね』と言ってくる気がするが、今回は武装解除して拘束するのが目的だから死人が出る事は無いだろう。


【マスター。称号はどうでも良いのです。重要なのはの内容です。拘束されて幸せだと思えるを求めます】  

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