第88話 きちんと乾杯出来たよ?

 ユベール統括に案内され、昼食会場へと総合ギルド内を歩いて行く。

 歩きながら聞いた話だと、今日の昼食は総合ギルド以外にも錬金ギルドや薬師ギルド、鍛冶ギルドや服飾ギルドなど、各ギルドの代表が集まっているらしい。


 俺やサクラが製造しているポーションやカロリーバーは薬師ギルドの管轄だし、鏡やポーションの容器などは錬金ギルド、スパイダーシルクは服飾ギルド等、各ギルドの利益を奪っているだろうし、エデンから提供される未知の素材も入手したいだろうからな。


 色々聞きたい事もあるだろうし、突然現れた凄腕の魔術師兼錬金術師兼薬師兼……。

 まあ、俺とサクラの顔を拝みたいのだろう。


「カミーユ様。サクラ様。こちらが本日の昼食会場となっております」


 ユベール統括が非常に立派な扉の前で立ち止まり到着を告げる。

 扉だけで格式が高い特別な部屋だと判る。


「カミーユ・ファス・ドゥラ・エデン国王及びサクラ・ファス・ドゥセ・エデン王妃のご到着です」


 ドアマン的な従業員? が扉を開けながら既に集まっている各ギルド長へ告げ、ドアを開けてくれ、ユベール統括に続いて俺達は会場へと入って行く。


 各ギルド長の値踏みするような視線が俺達に集中する。


 ここからは流れに身を任せながら余計な事を言わないように気を付ける事と、肝心な事はサクラに任せる事だけに集中しよう。


 俺とサクラは上座へ案内され優雅に席に着く。

 俺はともかくサクラは見惚れるような優雅さと美しい所作だ。


「皆様お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。本日はエデン国国王であり女神クレティア様の使徒であるカミーユ様と王妃サクラ様をお招きし、昼食を取りながら歓談頂ければと思います」


 ユベール統括が昼食会の開始の挨拶を始める。


「お待たせしてしまったようだな。先程ユベール統括より紹介がありましたカミーユ・ファス・ドゥラ・エデンだ。エデン国国王として、女神クレティアの使徒としてお目にかかれた事に感謝する」

「王妃でありカミーユの妻でありますサクラ・ファス・ドゥセ・エデンです。皆様のギルドと手を取りエルトガドの発展に貢献出来ればと思います。本日は腹心無く忌憚の無い意見交換を行いたいと思っております」


「では、本日皆様と出会えた事を女神クレティア様に感謝を」

「「「女神クレティア様に感謝を」」」


 今回は俺も無難に乾杯出来た。

 乗り遅れる事も『乾杯』と言う事も無かった。

 心の中でガッツポーズを決めていると、サクラが微笑んでくれていた。


「しかし、カミーユ様は王国到着早々事をなさっていたとか」


 楽しい事が何を指すのか、思い当たる節がありすぎて回答に困る。


「昨晩はルーラント国王の悪戯いたずらにお付き合いしただけですのよ。おかげで楽しい一時を過ごせましたわ」


 楽しい記憶は一切無いが、サクラがそう言うのだからそうなのだろう。


「悪戯にちょっと付き合って、迎賓館が消えたら、そこにいた人達はさぞ驚かれたでしょうな」

「ああ。アレはちょっとした子供騙しだ。魔力を使った手品だな。国王も貴族も喜んでいたようだ」


 何を探っているのか判らない。

 貴族的な言い回しほどでは無いが、もっとストレートに聞いて欲しい。


「ユベール統括も皆さんも……。カミーユはこういう回りくどい腹の探り合いは大嫌いなのよ。この時間が少しでも有意義になるように、ストレートに話して欲しいわ」

「ああ。済まないな。俺が元いた世界ではこういうのは無縁だったからな。何を言いたいのか、何を答えて良いのかさっぱり判らないんだ。オブラートに包まず素直に話してい貰えると助かる」


「まあ、そう言う事でしたら……。オブラートが何かは判りませんが、この場でははっきりと話しましょう。皆さんもそれでお願いしますね」


 ユベール統括の言葉に各ギルド長は無言で頷く。


「では、改めてお聞きします。王国をどうするおつもりで?」

「えっ? 先程の会話で聴きたかったのはこれか?」


「そうね……。後十回くらい言葉をやり取りすれば最終的に今の質問に行き着くかしら。結構簡潔に聴いて貰えた方だと思うわよ?」


 マジか……。

 俺には無理だな。

 せめてエデンでは日本的と言うか、日本の庶民的会話を正しい話し方にしよう。

 それ以外はサクラやアンジェラ宰相に丸投げ決定だな。


「結論から言えば、どうもしないな。王国は今まで通りだ。安心してくれ」


 緊張の面持ちで話を聞いていたギルド長達も安堵の表情を見せる。


「私達は別に喧嘩をしに来ている訳じゃ無いもの。クレティア様の像を正しい姿に変えて、ついでにクレティア様への信仰心が高まれば良いと思っているだけよ」

「国土が広がり、国民が増えれば責任も面倒事も増える。旧公国は成り行きでエデンとなったが、基本的に現状を変えたい訳では無い。サクラも言ったが、目的はクレティアへの信仰心向上だからな」


「基本的にと言う事は、例外もあると?」

「そうだな。エルフの国……。否、自治領か? ムルドランには思うところがある」

「サクラ王妃もエルフとお見受けするが?」

「だからこそ……、と言ったところだ。判って言ってるだろ? 察してくれ……」


 エルフが駄目な訳では無いのだ。

 ムルドランの上層部が政治的野心を持っている事も悪いとは思わない。

 サクラを生贄に差し出したり、現場の窮状を無視したりする事は許せない。

 実際にサクラの従者は皆命を落としてしまっているのだから。


「しかし、教会はエルフが運営しておりますぞ?」


 誰かは知らないが、何処かのギルド長が指摘する。


「そうだな。現状教会のエルフ達の献身によって教会は支えられている。だから俺は教会をエデン直轄に変更して行く」

「実際にエデンの教会や既に女神像を変更した教会はエデン直轄になっています。シスター達も喜んでいますし、ムルドランには使徒の名で書簡も届けています」


 若干憎しみが籠もった目でサクラが追加説明をしてくれる。


「と言う事は、今後ムルドランへ商品を卸すのは減した方が……」

「ムルドラン産の木工製品では無く、職人を引き抜くか……」


 エデンとムルドラン自治領が対立……。

 否、各ギルド長はムルドラン自治領が消えて無くなる前提で考えている。

 そこまでは考えていないのだが……。


【マスター。各ギルド長の認識ではマスターは魔王です。魔王としての教育も今夜から追加で開始しましょう! ねぇ?』

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