第87話 教育? を愉しめる男

 俺とサクラを乗せた馬車はゆっくりと王都の街を進んでいく。

 でゆっくりと街を見る事は出来ないが、昨夜の騒動に付いては市民達は知らないようで、いつも通りの賑わいだ。

 王国のいつもを知らないが、少なくとも昨日見た王都の賑わいと変わらなかった。


「ふう~~~。サクラ。今日は王都の教会を回ってクレティア像の置き換えで良かったよな?」

「王都の総合ギルドへ挨拶がてら訪問する予定も入っているわよ」


 俺と違いサクラの呼吸は全く乱れていない。

 体力バカの俺でも息が乱れているのに……。

 ハイエルフの成せる技だろう。


「午前中に二つほど教会を回って、昼食を兼ねて総合ギルドへと訪問します。その後更に二つほど教会を回って本日は終了です。明日以降も概ね似たようなスケジュールです。本日も含め三日で王都の教会は終了予定です。何も無ければ……」


 御者の隣に座っていたアリーゼが小窓を開けて教えてくれる。

 顔は真っ赤だが、冷静に対応してくれている。

 修行の成果? が出ているのだろう。


「大丈夫だアリーゼ。昨夜の反省も踏まえて、粛々と作業を進めていく。俺は像の変更とシスター達への挨拶だけだ」

「そうよアリーゼ。いくらカミーユがトラブルに愛されているからって、毎日トラブルに巻き込まれる訳じゃ無いのよ? 大きなトラブルは王都を出るまでは無いでしょう」

「サクラ様。せめて帝国までトラブル無しでお願いしたいのですが……」

「そう? トラブルを小出しにした方が帝国でのトラブルが大きくならない気がするのだけれど……」

「それもそうですね……。まぁ、カミーユ様ですし、しょうがないですね……」


 二人とも待ってくれ。

 いくらトラブルに愛されているとは言え、あまりの言いようでは無いか?

 そして、サクラは俺のトラブルをコントロール出来るのか?


「安心しろ二人とも。エデンに帰るまでトラブルフリーだ。俺の学習能力を信じろ!」

「「……」」


 二人のジト目が気持ち良いぜ。


 そんな話をしていると、最初の教会に到着した。

 シスター達に出迎えてもらい、簡単な挨拶をしてから女神像を作り替えて、シスター達に祝福を与えて、祝福を受けたシスターの証しとして『クレティアバッジ』を渡す。


 シスター・エレオノールの進言により作成しておいた。


 効果抜群で、涙を流しながら受け取ってくれた。

 目にも力が宿り、表情も明るくなった。


 シスター達にも『日々女神クレティアに感謝を捧げる』『人として正しい行いをする』『笑顔で挨拶する』という三戒を伝え、三戒を守る事を女神像に誓う者には祝福を与え信徒の証しを渡すように伝え教会を辞した。


「アリーゼ。教会の財務関係は問題無かったか?」

「はい。問題ありませんでした」

「そうね。シスター達も充実した日々を送っていたようだし、市民達との関係も良さそうだったから安心ね」


 馬車の中で平和な会話が出来る喜び。

 因みにきちんと打ち合わせするためにアリーゼも馬車の人になっている。

 三人で打ち合わせ(という名の雑談)を楽しみ二つ目の教会に到着し、同じ作業を繰り返す。


 同じ作業と言っているが、決して手を抜く事はしないし、調子に乗る事もない。

 短時間しか会えないからこそ、この瞬間に全力を捧げる。


 日本でサラリーマンをしていた時は無難に仕事をこなし、時間が過ぎ去るのを待っていただけだったが、全力で仕事に打ち込む事の素晴らしさというか、充実感というか……。

 不思議な感覚をエルトガドで初めて味わっている。


 日本にいる時からこのように働いていたら……。とも思うが、そうなるとエルトガドへ来る事も無かったのだから、何とも言い難いな。

 

 この感覚を味わえる事にもクレティアに感謝だな。


「サクラ様。カミーユ様が聖人に見えてしまいます。魔王に手を掛けているというのに……」

「カミーユが魔王と呼ばれようと、女神の使徒と呼ばれようとカミーユはカミーユよ。私達が愛する旦那様よ」

「それはそうなのですが……、って。わっ、わっ、私達の、だ、だ、だ、旦那様って!」

「あら違うの?」

「いずれそうなればとは思いますが……。私はサクラ様に愛して頂ければ……」

「駄目よ? 私が愛する人を愛せないで私から愛されたいなんて……」


 二人の会話がかなりぶっ飛んでいる。

 否。サクラの思考がかなりぶっ飛んでいる。

 納得しているアリーゼもアリーゼだ。


「待て待て二人とも。俺はサクラがいてくれればそれで良い」

「昨夜女性に囲まれて鼻の下を伸ばしていた人が何を言っても説得力が無いわよ?」

「昨夜のは不可抗力だ。俺は女性慣れしていないからな!」


「カミーユ様。それをドヤ顔で言われても……」


 良い感じでこの話題が有耶無耶うやむやになったところで総合ギルドに到着した。

 問題の先延ばしだが良しとしよう。


【マスター。先程アリーゼが感動したばかりだというのに、舌の根も乾かぬうちに……。昨夜はサクラに譲りましたので、今夜は私が教育を……】


 大丈夫だそヘルピー。

 夜の教育には慣れてきている。

 まだご褒美の境地までは達していないが、それなりにたのしめるぞ?


 馬車を降りると総合ギルドの前で職員達が整列して出迎えてくれる。


「エデン国国王であり女神クレティア様の使徒カミーユ様及び王妃サクラ様。ようこそおいで下さいました。私は当ギルドでセンドラド王国エリアを統括しておりますユベール・アヴリーヌと申します。お二人の訪問を歓迎致します」


「カミーユ・ファス・ドゥラ・エデンだ。盛大な歓迎と丁寧な挨拶に感謝を。総合ギルドには大変お世話になっている。堅苦しいのは苦手でな。カミーユと呼んでくれ」

「カミーユの妻サクラ・ファス・ドゥセ・エデンです。私達がこうしていられるのも総合ギルドあっての事。対等な立場でお付き合いをお願いするわ」

「ありがとうございます。では、カミーユ様、サクラ様。此処で立ち話も何ですので、どうぞ中へ。王国料理をご準備しておりますので」


 そう言ってユベール統括が案内に立ち俺とサクラはそれに続く。

 単に食卓を囲み親睦を深める事だけが総合ギルドの目的では無いはずだ。

 気を引き締めていこう。


【マスター。エルトガドではトラブルと書いてマスターと呼びます。楽しみですね】     

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