第86話 騒動後の緩和的な? ねぇ?

 はっきり言おう。

 日本でぼっちだった俺は、単にぼっちだっただけで女性に興味が無かった訳では無い。

 当然だが、女性と仲良くしたいとを抱く事もある。


 そんな俺が女性に囲まれて『カミーユ様素敵!』的な事を言われてポーカーフェイスでいられる方が無理な話だ。


 男なら誰でもそうなるだろ?

 ニヤけるだろ?

 勘違いするだろ?


 ゆ・え・に!

 俺は何一つ悪く無い!


 サクラには言えないが、俺は悪く無い!


 悪く無いはずだが……、サクラに馬車に乗せられ、宿泊場所へと連行されている。

 実写版ドナドナだな。

 子牛の気持ちが良く判る……。


「カミーユ。今日は色々あったけどカミーユのおかげで丸く収まったわ。あの時カミーユが私の前に立って悪役を演じてくれたから、私は……」

「何を言っているんだ? サクラが俺をかばって怒ってくれたんだろ? 感謝するのは俺の方だ。この結果はサクラのおかげだよ……」


 甘~い空気が馬車の中を満たしていく。


「ところでカミーユ。アリーゼに伝令の中止を伝えた? このままだと王国は大変な事になるわよ?」


 完全に忘れていた。

 しかし、アリーゼは何処に行ったのだろうか。

 姿が見当たらないが……。


「ザクス。ナタリー。アリーゼを知らないか?」

「アリーゼならソフィア(大鷲)に乗ってエデンへ向かいましたよ? 一応アリーゼには残るように伝えたのですが、『宰相には直に伝える』と聞かなかったもので……。後で私かナタリーのどちらかが飛ぼうと思っていたのですが……」


 申し訳なさそうにザクスが答えてくれた。


「ザクス。こっちの護衛は良いから、今から全速力で飛んでくれ。魔獣達が王国に到着する前に止めてくれ!」

「では直ちに!」


 そう言ってザクスは相棒のカトレイン(ユニコーン、メス)に一声掛け、夜空に駆け出した。


「サクラ有り難う。気が抜けて完全に忘れていた」

「補い合いながら進めば良いのよ。 まぁ、アリーゼも必死だったようだし誰も責められないわね。問題点が見つかればその都度解決して改善しましょう」


 先程まで怯えていた俺は馬鹿だったな。

 サクラが何の考えも無しにあの場であの様な事を口走る訳が無い。

 俺もしっかりしなければ……。


 今夜はしっかりと寝て英気を養って明日以降に備えよう。


 その日の夜は英気を養う事は出来なかった……。

 どちらかと言えば精気を吸い取られた……。


 更に言えば、カロリーバーは進化していたし、『ブラックハイヒール』も……。

 皆まで言うまい。


「あっ、カミーユ様。おはようございます? 昨夜は……。ねぇ?」


 顔を赤らめて挨拶をしてくるメイド達の言葉が全てだろう。

 公国のホテルから覗きの常習犯であるメイド達ですらこの有様である。


「あっ。サクラ様は既にご準備を済まされて食堂でお待ちです。今日はいつも以上にお化粧乗りが良くて……。ねぇ?」


 メイド達も『ねぇ?』の使い方をマスターしたようだ。

 クレティアへの信仰と共に『ねぇ?』も一緒に広まりそうだな。


「おはようカミーユ。ザクスは間に合ったようね。さっきアリーゼを連れて戻ってきたみたいよ?」

「おはようサクラ。それは朝から朗報だな。今日は良い事が起きそうだ」

「一応アリーゼには益々精進するように私から伝えておくわ。カミーユももう少し我慢しててね?」


 サクラ。それはアレだよな?

 アリーゼを一人前の側近に育て上げるという意味だよな?

 誰が聞いてもそうだよな?


(ヘルピー)

【はい。マスター】

(もしもの話だが……。アリーゼが俺とな関係になってクレティアはどう思う?)

【そうですね……。既に彼女も私の作品に登場していますし、問題無いかと……。髪の色も瞳の色も種族も違いますからね。一応今のところ種族被りもありませんし……。はい】


 ヘルピーの姿は見えないが、確実に目が泳いでいるな。


(ヘルピーさんや。本当の事を教えてくれ)

【いえ……。あ~~~。アリーゼはマスターと言うよりも、サクラに……。ねぇ?】


 あれ?

 アリーゼはカミーユのカミーユを見て顔を赤らめ、そのために励んでいるのでは?


(それ、サクラは知ってる?)

【サクラも知っていますし、クレティア様も容認しています。徐々にアリーゼのファンも増えてきています】


 クレティアもサクラもアリーゼに何をさせようと言うのだろうか……。

 そしてヘルピー。アリーゼの役どころを教えて欲しい。


(ヘルピーの作品に他に登場している人はいるのか?)

【それは……。まぁ……、はい。しかしマスター! 私の作品はフィクション……、と言うか、二次創作ですから! ノンフィクションではありませんから! 実在の人物や団体などとは関係ありませんから!】


 二次創作なら若干関係しているのでは?

 若干どころかかなり関係していると思うぞ?

 現にサクラは大精霊になっているし!


(ヘルピー。君が有能なアシスタントである事は否定しないし事実助かっている。クレティアへ日報や月報を提出するのも大変だろう。俺も嫌というほど経験しているからその気持ちは判る……)


(ヘルピーの趣味を否定もしない。俺もラノベを読んで救われていたからな……)


 ヘルピーの創作を否定したくは無いが、今言わなければ一生言えないだろう。


(俺やサクラは神々のおもちゃでは無い。実際に生きているし、感情もある。プライベートを必要以上に他人に見せたくは無いんだ……。判ってくれるか?)


 静かに諭すようにヘルピーへと伝える。

 ヘルピーは有能だから判ってくれるはずだ。


【マスターの言いたい事は判ります……。でも、私は常にマスターと一緒にいるのに、触れる事も出来ないのです……。せめて私の作品の中では、マスターと愛し合いたい……。そんな私は……、いけない女ですか?】


 ヘルピー。

 そんなにも俺の事を……。

 

 否、違うぞ?

 それは俺とサクラや、アリーゼ達を二次創作に出す理由になっていないぞ?


(ヘルピー……)

【チッッッ!】


 危うく騙されるところだったが、気づけて良かった。

 後はきちんとヘルピーから二次創作中止の言質を取るだけだ。


「カミーユ。アリーゼの修行のためにも今日は馬車の中でも……。良いことがありそうだって言っていたし……。ねぇ?」


 まっ、待ってくれサクラ。

 ヘルピーとの話が終わっていないのだ。


 この二人、実は会話してるんじゃ無いか?


【違いますよマスター。会話など不要なのです。自然と通じるものですから……】


 何とかしてくれクレティア!


【マスター。クレティア様も望まれていますから……。ねぇ?】

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