第70話 気合いと根性と精霊魔法

 レオニラン公国との相性は抜群に悪いようだ。

 国民達は問題無いのだが、王族を筆頭に言うなれば公務員関係が全く駄目だ。

 冒険者ギルドとは一悶着あったが、それ以降関わる事が無いので良く判らないが……。


「なあ、サクラ。どの国でもこれが普通なのか? 他国の国王の訪問先にアポなしで突撃してきて不快な思をさせる。なかなか出来る事じゃ無いと思うが……」

「まともな国であれば、このような非常識な行動はしないわよ。私達も事前に訪問先や目的を通知して、問題があれば日程の変更も行うし、その時に『教会には第一王子が同席します』とか、『宰相が案内します』とか、事前に打ち合わせをするものよ。予定変更があれば、今回のケースであればアリーゼに話を通してからね」

「この国が非常識なだけであって、他国はここまで酷く無いと言う事か?」

「そうね。何かしらの思惑で駆け引きはあるでしょうが、ここまで外交儀礼を失している国は他に無いでしょうね」


 それを聞けて良かった。

 他の国も同じような感じならどうしようかと思った。


「じゃあ、この国の教会は閉鎖しよう。ここにシスターを派遣するのは問題が起きそうだし、クレティア像も私物化されそうで怖いからな」

「クレティア様が問題無ければ私は構わないわよ。私としてはこの国が存在している事が不満なのよ。あの時サクッと……。ねぇ?」

「まぁ、それは置いておいて……。治療院とポーションは総合ギルドと打ち合わせをお願いしよう」

「そうね……。アリーゼ、頼まれてくれるかしら? この後総合ギルドに向かう予定だけど、事前にある程度すり合わせして貰えるかしら?」

「はい。畏まりました。では、私は早速……」


 クレティアへの信仰心向上が目的なのでこのような場所にこそ教会を作り信徒を増やしていく事も考えとしては有りなのだろうが、少し歩けばエデンの教会があるのだから。送迎バスの定期運行をすれば良いだろう。バスでは無く馬車だが……。


「集まってくれた皆には申し訳ないが、今、この時をもってレオニラン公国の教会は廃止する」


 どういう事かと礼拝堂がザワつく。


「私達としてはこの場所でクレティア様の真の姿を見てもらい、感謝を捧げて欲しかったのだけれど、公国の王侯貴族や騎士団が全く信用出来ないから……。シスター達が安心して過ごせないと判断しましたので、申し訳ないですが閉鎖します」

「その代わり、エデンの教会までは送迎馬車を定期運行する。是非エデンの教会に遊びに来てくれ。学校では誰でも無償で教育を受けられるし、昼食も無償提供している。見学だけでも大歓迎だ」


「治癒魔法は何処で受けられるんだ?」

「ポーションは買えるのか?」

「シスター・エミと交際したい」


 どさくさに紛れて聞き捨てならない事を言っている奴もいるが、まぁ……、頑張れ。


「治療とポーションは総合ギルドと協議しています。決定次第お知らせしますので暫くお待ちください」


 シスター・マルネールが若干切れ気味に伝えている。

 二人とも素敵な女性だから安心してくれ。何を安心するかは不明だが……。


「折角クレティア像のために集まってくれた皆には、女神クレティアの使徒として感謝する。感謝の証しとして皆に祝福を与えよう」

「祝福を希望する方はこのまま少し待っておいて。公国関係者並びに冒険者ギルド関係者は速やかに退出するように」


 祝福のためには俺が造ったクレティア像が必要だからな。

 結局クレティア像を作り替える必要がある。

 何だかんだとやる事は変わらない。


 集まってくれた人達は祝福が何か判らないようだが、何かしら有り難い事が起きると思ってか誰一人帰らずにこの場に留まってくれている。


「一体何の騒ぎだ! 騎士は何をしているのだ!」


 これからと言う時に問題の第一王子が登場した。

 俺は無視して女神像に向かって集中する。


「これはこれは……。外交ルールも人としての礼儀も知らない方が何か用かしら?」

「何だと? このエルフ風情が! 神聖なる公国の第一王子に向かって。万死に値する!」


 騎士達が抜刀する。

 音から察するに騎士は五名のようだ。

 五名程度なら俺が出るまでも無いだろう。


「風の刃よ。私を傷つけようとする刃を破壊して」


 何かに語りかけるようにサクラが魔法を発動する。

 俺の知識では、それは精霊魔法だ


「「「「「バキッ」」」」」


 騎士達の剣が破壊されたと思われる音が五つ礼拝堂に響いた。


「聖なる黒薔薇よ。悪意ある者を拘束して」


 だ・か・ら! それは精霊魔法だって!

 それに、聖なる黒薔薇って何?

 俺が知っている黒薔薇は『ブラックハイヒール』だけだ。


「何が起きている」

「いっ、痛い。薔薇が絡みついてくるぞ」

「棘が……。棘があぁぁぁぁ」


 本当に何が起きているのだ?

 ものすごく気になるが、この場はサクラに任せると決めたから俺は俺の仕事を完遂しよう。


 偽クレティア像に向かって真クレティア像のイメージを込めた魔力を大量にぶつける。


「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」


 偽クレティア像は金色の粒子に包まれて真クレティア像へと変身していく。

 光が収まると迎賓館やエデンの教会と同じクレティア像が鎮座していた。


 ようやく状況を確認出来る。


 第一王子と騎士達は……。

 間違いなく『ブラックハイヒール』が絡みついており、身動きが取れなくなっている。


 サクラは進化したようです。

『ブラックハイヒール』も進化したようです。


 誰か説明をお願いします。


【マスター。サクラは先日『ブラックハイヒール』とので覚醒したようです。気合いと根性で精霊魔法と『ブラックハイヒール』の使役を会得しました。エルトガドに精霊はが……】


 サクラは本当に進化したようです……。

 精霊がいないエルトガドで精霊魔法を会得しました……。

『ブラックハイヒール』の使役とか恐ろしい技まで……。

 もうカロリーバーのお世話になるのは勘弁して欲しいが、無理そうです……。


「では、ここにいる善良なる心を持った皆さんに、女神クレティアの使徒の名に於いて感謝を捧げる」


『ブラックハイヒール』の餌食になっている第一王子や騎士達を華麗にスルーしてキラキラ演出を発動させる。

 女神像から再び金色の粒子現れ、礼拝堂を満たしていく。

 金色の粒子は留まってくれた人々を包み込み、祝福という名のキラキラ演出を完了させる。


 神秘的な現象に皆言葉を失い、自然と跪きクレティア像に感謝を捧げる。


【マスター。大変良く出来ました……】


 俺の存在価値が……。

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