第71話 大精霊 爆誕!

「これで女神クレティアの祝福が完了した」

「祝福を授かった人は、女神クレティア様より信徒として認められました。帰る際に信徒の証しをシスターが渡しますので、忘れずに受け取ってください」


 俺の言葉に続いてシスター・マルネールが声を掛ける。


「これからクレティアの信徒として『日々女神クレティアに感謝を捧げる』『人として正しい行いをする』『笑顔で挨拶する』の三つを実践して欲しい」

「何処かの王族のように愚かな行動をしないようにしてね」


 サクラが王族を一瞥しそう伝える。

 先程の言動は一線を越えていたからな。

 サクラやシスター達のエルフとしての尊厳を踏みにじる言動は俺も許す事は出来ない。


「さて……。この不届き者達を送り届けてやろう」

「荷馬車を一台回して貰えるかしら?」


 誰に言うでも無くサクラが荷馬車を手配する。


「えっ。荷馬車ですか?」

「ええ。荷馬車よ。贅沢すぎるかしら? じゃあ……」

「大丈夫です。荷馬車を一台ですね。直ぐに手配します」


 慌てて総合ギルドの職員が荷馬車を手配するために走って行った。


「ウォーレス第一王子。バカな真似をしたな」

「貴方の軽率な行動のせいで公国は滅ぶのよ? どう? エルフ風情に滅ぼされる気持ちは」


「そんなん事をセンドラド王国が許すはずが無い」

「その時はセンドラド王国も滅ぶ事になるわね。造作も無い事よ?」

「どうなるか楽しみにしていろ」


 迎賓館での騒動の時は大人しい印象だったが、あの時は猫を被っていただけだったのか、エデンへの賠償で国力が低下した状況が彼を変えたのかは判らないが、そんな事はどうでも良い。

 

 エルフを……。否、サクラの尊厳を踏みにじる言動は絶対に許さない。


「ところでサクラ。魔法の発動方法が今までと違ったのだが……」

「あぁ。あれね。良い演出でしょ?」

「演出? 俺の知識ではサクラが使った魔法は精霊魔法なのだが……」

「精霊魔法? あれは単なる演出なのよ。ミステリアスで良いでしょ?」


 確かヘルピーも精霊魔法を会得したと言っていたが……、単なる演出らしい。

【マスター。サクラは気付いていませんが、間違いなく精霊魔法です。精霊は居ませんが……】


 どういう事だ?

 精霊が居ないのに精霊魔法?

 理解が追いつかない。


【精霊魔法と言いましたが、要はサクラの願いを具現化出来る魔法です。サクラの魔素が意志を持って魔法を発動します。精霊魔法と言って間違いないです。精霊は居ませんが……】


 サクラの魔法はそういう物だと諦める事にしよう。


「それから、『ブラックハイヒール』を使役していたようだが……」

「あの日以来何故かお願いを聞いてくれるようになったのよ。相性が良かったのかしら……」


 サクラにも理由は判らないようだが、『ブラックハイヒール』はサクラのお願いを聞いてくれるらしい。


 もしかしたら、サクラが精霊魔法を使えるようになったのでは無く、サクラが精霊になったのでは無いか?


【マスター。神界へ確認しました。どうやらサクラは大精霊となっているようです。誰かが勝手に加護を与えたようです……】

(加護や祝福を与える時はクレティアの立ち会いが必要と聞いたんだが?)

【クレティア様にも報告して犯人を特定します。私がキッチリとお仕置きを……。あぁ、楽しみです】


 名前も知らない神様に同情する。

 否。ご褒美と感じてしまう可能性もあるな。

 神界はだから……。


「流石サクラだな。世界一美しくて料理が上手なだけじゃ無く、そんな事まで出来るなんて」

「はい。ハイエルフですから」


 笑顔が眩しい。

 まぁ、サクラはハイエルフでは無く大精霊だけど……。

 どうしよう。今後も加護や祝福を受けてとんでもない事になりそうだ。


 サクラはサクラだ。

 それ以上でもそれ以下でも無い。


【マスターが進化しても、マスターはマスターです】


 ありがとうヘルピー。

 流石未来の第二夫人。愛を感じる。


【気のせいです】

「……」



「カミーユ様。報告いたします」


 ナタリーさんが礼拝堂へ駆け込んで来た。


「そんなに慌ててどうした?」

「先程のレオニラン公国第一王子及び騎士団の言動及びその後の対応について、アンジェラ宰相に報告いたしました」


 アンジェラさんに連絡しようと思っていたから助かった。


「そうか。助かった。アンジェラさんは何と?」

「はい。既に公国への宣戦布告を受けてエデンは全戦力を持って応戦する事を、レオニラン公国並びに三大大国及び周辺国へ総合ギルドの国家速達便にて通知いたしております」


 国家速達便という通信手段があるらしいな。

 いつかは遠距離通信方法を開発したい。


「同時に従魔エルナンドより熊どんに伝えております。既に森の魔獣達は公国を包囲しております。間もなく熊どんやシードルも到着すると思われます。ソフィアは既にアリーゼさんの元へ赴き、現在上空警戒を行っております」


 確かに公国を許す事は無いのだが、俺の周りの女性は血の気が多い気がする。

 熊どんはやはり改名しよう。

 こうして報告を聞いていると、エデンの森最強の熊どんが名前のせいで弱く感じてしまう。


 しかし、俺の知らない間に名前を付けた魔獣達は従魔となっているようだ。

 俺が知らないところで世界は動いているらしい。


「的確な対応だ。市民達に決して危害を加える事の無いように徹底してくれ」

「熊どんとシードルが到着したら王城へ向かいます。市民達に戦争状態にある事と、魔獣は攻撃されなければ反撃しない事を伝えてくれるかしら。戦争になった理由もね」

「はい。畏まりました」


 俺とサクラからの命を受け、ナタリーさんは再び礼拝堂から出て行く。

 凜々しいと言う表現がぴったりな美人さんはこのような場面で絵になる。


「ウォーレス第一王子と騎士達よ。これはお前達が招いた結果だ」

「世の中には決して怒らせてはいけない存在が居るの。貴方達はカミーユを怒らせた。それが全てね」


 俺は確かに怒っているが、切れたらヤバイ奴みたいに言わないで欲しい。


「何故ここまでする必要がある。たかだかエルフを軽んじただけで……」

「それが原因だと未だ判らないのか? エルフを軽んじる事はサクラを軽んじる事であり、クレティアの信徒を軽んじている事だ。少しは情けを掛けようと思ったが……」

「本当にカミーユは優しいわね。でも、貴方の言葉でこの国に血の雨が降る事が確定したわ。喜びなさい」


【マスター。何を喜べば良いかと突っ込むのは無粋ですから……。返り血を浴びるマスターとサクラが恍惚の表情を浮かべる……。あぁ、創作意欲が湧き上がります】    

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