第69話 凱旋パレード
いよいよ出発の朝を迎えた。
準備を行っていた十日間は充実した日々を過ごせた。
俺もサクラもエデンの森に引きこもり、二人だけ(魔獣は沢山いたが)の生活を送っていたので、大勢の人と過ごす事自体楽しかった。
日本ではぼっちだった俺だったが、人と交流する事がこんなにも楽しかったとは驚いた。
恐らく俺は、自分の弱みを他人から見られる事や、他人からどのように見られているのかを極端に気にしていたのだろう。
転生時にクレティアから『地球上で最も影響力が無い』とバッサリと切り捨てられた事で何かが吹っ切れたのだろう。
他人が自分をどう評価するかは自分自身でコントロール出来ない事だとエルトガドに転生して初めて気付いた。
気付けた事も、他人の評価を気にせず、自分が出来る事を一生懸命コツコツと出来るようになったのも、クレティアやヘルピー、サクラのおかげだ。
他にもアンジェラ支部長やアリーゼさん、シスターや孤児達。最初は敵対していたが、ザクスさんやナタリーさんにも感謝だ。
皆が皆、本音で接してくれるし、俺自身も着飾る事無く本音で話せたからだろう。
地球で最も影響力が無い男に成長させてくれた両親にも、今では感謝出来るほど俺は成長した。
何せ、俺はやれば出来る子だからな。
「カミーユ。そろそろ時間だから、見送りの人達に挨拶をお願い」
感慨に耽っていたらサクラから仕事をしろとつつかれた。
「皆お見送りありがとう。これから女神クレティアからの依頼により世界各地の教会へと向かう。長期間ここを離れる事になるが、その間もそれぞれの役割を全うしてくれ。留守を頼んだ」
「皆大丈夫よ。この街は魔獣達が守ってくれているし、何かあったら魔獣達の連絡網で直ぐに私達に手紙も届くようにしているわ。何よりも、私達は女神クレティア像から祝福を受けているのです」
サクラの一言で皆の顔に笑顔と共に、瞳に力が宿った。
それを確認して俺達は馬車に乗り込んだ。
「それでは、エデン国国王であり、女神クレティア像の使徒カミーユ様。王妃サクラ様ご出発です」
アンジェラ支部長改めアンジェラ宰相が出発を告げ、ゆっくりとユニコーン隊が動き出す。
最初に向かうのはレオニラン公国……。
お隣さんだ。
毎日シスターやシスターの護衛が徒歩で通っている場所に向かう。
今回はお隣さんなので露払いにザクスさん。二頭引きの馬車に俺とサクラ。御者席にアリーゼさんと雇った御者。護衛のユニコーンが二頭と殿にナタリーさんという最小編隊で向かっている。
事前に公国に俺達が訪問する事は目的も含め伝えてあるので、城門を通るのは非常にスムーズだった。
公国の宰相が出迎えてくれる歓迎ぶりだ。
まあ、公国としては前回のような問題を起こしたく無いと言う思いが強いのだろうが。
凱旋パレードのように街中をゆっくりと馬車は進んでいく。
俺とサクラは窓を開け、手を振りながら笑顔を振りまく。
公国の人達は今まで受けられなかった治癒魔法やクレティア印のポーションが安価で購入出来るので、俺達を歓迎する理由も判る。
特に問題無く教会へと到着した。
公国騎士団が警備をしていてくれていたはずだから、問題が起こるはずがないと思っていたが、冒険者ギルドや利権を奪われ人達も確実にいるので、警備は素直に感謝している。
教会にはシスター・マルネールとシスター・エミ、総合ギルドの教会担当者が三名待っていてくれた。
「シスター・マルネール、シスター・エミ。総合ギルドの皆さん。いつも街の為にありがとう。女神クレティアの使徒として感謝を」
「本当にありがとう。皆さんのおかげで公国の皆さんは日々笑顔で過ごせています。貴女達は女神クレティア様の誇るべき信徒であり、私達の誇りです」
「ありがとうございます。こうしてクレティア様の使徒カミーユ様とサクラ様をお迎えする事が出来る事を、女神クレティア様に感謝いたします」
俺とサクラの挨拶にシスター・マルネールが代表して挨拶してくれた。
「では、早速だがクレティア像を正しい姿にしよう。別に見られても問題無いから、見学したい人は全員入ってくれて問題無い」
「誰でも入って貰って良いわよ。教会の門を開放して頂戴」
門を開放して民衆にも入って貰った。
今あるクレティア像を俺の魔力暴力で作り替えるだけだから特に見られて困る事は無い。
見る人が見れば、俺の魔力が規格外である事が判るので、出来ればそういう人に見て欲しいまである。
ギャラリーも入ったところで作業に入ろうとしていた時に、公国騎士団が教会に入ってきた。
「これよりウォーレス第一王子が参られる。全員跪き
和やかな雰囲気だった礼拝堂に緊張が走り、公国の国民は騎士の指示に従おうとする。
「そこの騎士。それはウォーレス第一王子の指示なのか? それとも君の独断か? エデンと公国との間に何が起きてどのような関係か承知で女神クレティアの前でクレティア以外の人間に跪けと言っているのか?」
「カミーユ。そんなに怒らないの! この騎士は騎士としての仕事を全うしているのよ。もしあの王子の指示であれば……。ねぇ?」
この『ねぇ?』は血の匂いがする。
「あっ、そのっ。王族をお迎えする礼儀でもあり、安全確保の意味もございますので、誰の指示というわけでも無く、公国として当然の行動であります。言葉が尊大になってしまった事は申し訳ありませんが、それも王族の為であります。ご理解頂ければ……」
「それであれば事前に教会に連絡を入れるべきだ。今日ここに俺達が来る事は事前に連絡していたし、何をどのように行うのかも連絡済みだ。礼拝堂にいる者は俺達の客人だ」
「レオニラン公国は国教をクレティア様にしたのよね? 国教の象徴である女神像を女神の使徒が正しい姿へ戻そうと、使徒の力を使うその時にこのような無礼が許されると思って?」
「……」
騎士は無言だった。
民衆も固唾を呑んで見守っていた。
(ヘルピー。この国の教会は廃止で良いか? 隣にエデンの教会もあるし)
【問題無いですよ。そもそもこの国が未だ存在している事が不思議だったのです。マスターもようやくやる気が出たようですね。サクッと……。ねぇ?】
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