第68話 エルトガドのエジソン

 サクラと二人でユニコーン馬車に揺られて森の中を進みながら、道の点検と馬車の乗り心地を確認していく。

 馬車の仕上がりは上々だ。

 全く揺れないと言う事は無いが、テーブルに置いた紅茶がこぼれる事は無い。

 サクラからの評価も非常に高い。


 この馬車の構造は総合ギルドに特許登録しよう。

 エデンの新たな収入源確定だ。


 因みに総合ギルドで特許が認められれば、十年間パテント料が入ってくる。

 この馬車の場合は地球の技術を使っているので、簡単に作る事が出来ないだろうから、ほぼエデンの独占状態になるだろう。

 クレティア像置き換えのついでに、貴族や大商人が集まる大都市に工房を作っても良いだろう。


 寝台の確認も当然のように行われた。

 かなり揺れていたはずだが、流石地球の技術だ。しっかりと揺れを吸収してくれていた。


 乗馬の練習も当然実施した。

 馬具は無かったが、問題無く乗馬できた。

 ユニコーン達は初心者にも気遣いも出来る素晴らしい魔獣だ。


 このように有意義な時間を過ごしながら迎賓館までやってきた。

 御者はいなかったが、全く問題無かった。


 威風堂々と迎賓館正面に馬車を着ける。


 事前に到着予定を伝えていたから沢山の人が迎賓館の玄関前に集まってくれている。


「予想以上に沢山の人が集まってくれているな」

「あら。あの大工さんはカミーユと大喧嘩した人じゃ無い?」

「あっちは、公国のホテルの時のメイドさん達だな……」


 アンジェラ支部長とアリーゼさんにエデン移籍希望者を募って貰っていた。

 迎賓館で働いてくれている人の半分程度を想定していたのだが、想像を超える人数が集まっており驚いた。


 嬉しい誤算という言葉はフィクションだと思っていたのだが、実在したとは……。


「皆、よく集まってくれた。女神クレティアの使徒として、エデン国王として嬉しく思う」

「皆さんと家族になれる事を楽しみにしていました。使徒の妻として、王妃として、皆の母として誇りに思います」


 馬車から降りた俺とサクラは、玄関の階段の上に立ちそう告げる。


「私達も女神クレティア様の信徒として、エデンの国民としてお二人にお仕えする事を楽しみにしておりました」


 集まっている皆を代表して、シスター・エレオノールが言葉を発した。


「カミーユさん、サクラさん。先ずは此処に集まった皆にクレティア様の祝福と証しを」


 アンジェラ支部長が俺達を促し、クレティア像を設置している曰く付きの部屋へと移動する。

 エデンが他国から初めて正式に認識された場所と言っても良い場所だ。

 公国の一部では『奇跡の間』と呼ばれているらしいが、騙したみたいで申し訳ない気持ちになる。


「では、此処で貴方達の近いと祝福を行うわ」

「誓いと言っても特に難しい誓いでは無い。『日々女神クレティアに感謝を捧げる』『人として正しい行いをする』『笑顔で挨拶する』の三つだ」

「敬う対象は女神クレティア様です。カミーユや私を必要以上に敬う必要はありません」

「エデンはクレティアへの信仰心向上を目的とした国だ。それを忘れずに各々おのおのの役割を果たしていこう」


 皆が頷いたのを確認してクレティア像に誓いを立て、クレティアの信徒である事とエデンの国民である宣誓を行い、キラキラ演出を発生させる。

 俺も新たな仲間を守る事を宣誓しキラキラ演出を発生させた。


 念の為に全員ドッグタグを確認して国籍が変更されている事を確認した。

 祝福によってドッグタグ情報が変更されてのだが、問題にならないか念の為にアンジェラ支部長に確認したが、全員国籍変更承認を受けているので問題無いそうだ。

 エデンが受け入れた事を元いた国に報告すれば書類上もエデン国民として登録されるらしい。


 そのような手続きや書類につてはアンジェラ支部長に丸投げだ。

 アンジェラ支部長もそのつもりで動いていたようなので、その辺は俺達に期待していないのだろう。

 まあ、異世界人と領主の娘だからな。期待されても困るが……。


 俺達が留守にする間の事についてアンジェラ支部長とアリーゼさん。ザクスさんとナタリーさんを交えて確認して最終準備を整えていく。

 

 シスター・エレオノールは『私が同行する必要があるのでしょうか……』と言っていたが、教会に訪問するのだから必要だと説得して何とか同意を得て、この打ち合わせに参加して貰っている。


 留守中はアンジェラ支部長に一任する。エデンの森への通行証も半数は渡しておく。

 アリーゼさんはこの度に同行して貰う。行く先々での交渉事窓口として頑張って貰おう。

 ザクスさんとナタリーさんは俺とサクラの護衛として同行する。道中はユニコーンに騎乗しての移動となる。

 ホテルのメイド三人組も同行するそうだ。

 劇作家が一名同行するそうだ。真クレティア教? エデンクレティア教? には聖典が無いので、聖典作りのために同行して俺から話を聞いたり、道中の記録を行うらしい。


 聖典など必要ないと思うのだが、『聖典があれば判りやすい』らしい。

 確かに地球の宗教も必ず聖典的な物はあるので、そうなのだろう。

 ヘルピーとやり取りして貰うのが手っ取り早いのだが、ヘルピーだけに方面に偏った情報を発信しそうなので、一応俺が窓口として対応しよう。

 神界でのクレティアの生活など俺は知らないし、結局はヘルピーに聞くのだけれど……。


 ザクスさんとアリーゼさんは相棒となるユニコーンを選んでいた。

 ザクスさんは相棒にカトレインと名付けたようだ。

 ナタリーさんはベアトリス。


 熊どんに申し訳ない気になってくる。


 馬具の手配もあるので、出発は十日後となった。

 その間、教会や孤児院、学校の様子を見たり、薔薇の改良をしたりとそれなりに忙しい日々を過ごしていた。


 学校で算術の授業を見学していた時に、生徒が指折り数えながら計算していたのを見て、算盤そろばんを作ってあげた。

 俺も小学校の授業で少ししか厚かった事が無かったが、ヘルピーにお願いして使用方法を確認して、先生に教えてあげた。

 どうやらエルトガドには計算機が無いらしく凄く驚かれた。


 その夜アリーゼさんに話したら、特許登録を直ぐに行う事になった。

 算盤は誰でも作れるので独占販売は出来ないだろうが、パテント料は大いに期待できる。


 この調子で特許王にでもなるか。


【マスター。特許も良いですが、出版事業を始めましょう。神界のベストセラー作家の私がエルトガドに文学革命を起こします。エルトガドの民も捗るでしょう】       

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