第67話 三人集えば……。 ねぇ?

 アンジェラ支部長とアリーゼさんの歓迎会は夜遅くまで続いた。

 森の警備をしている魔獣達が交代で世界樹にやってくるので、それに合わせて長引いてしまった。


 アンジェラ支部長とアリーゼさんにも相棒と呼べそうな魔獣が出来た。

 アンジェラ支部長は鹿の魔獣をエルナンドと名付けていた。

 アリーゼさんは赤い瞳の大鷲にソフィアと名付けていた。


 アンジェラ支部長はエデンの要となるから、鹿のエルナンドの背に乗れば移動が楽だ。

 アリーゼさんは俺達との移動が多いので、大鷲の移動手段があれば便利だろう。


 しかし、魔獣に名前を付けるほど仲良くなっていたとは。

 俺は熊どんにしか名前を付けていない。

 しかも、性別を勘違いして。

 サクラによく懐いている狼くんにも名前は無いのに。


「狼くんにはシードルという立派な名前があるわよ。カミーユは知らなかったの?」


 そ、そうなんだ……。

 皆きちんと名前を付けてるんだ……。

 熊の魔獣だから熊どんと名付けた俺のセンスが……。


「まあ、熊どんも嬉しそうだから……。今更熊どんを他の名前で呼べないわよ」


 サクラ。慰めてくれたありがとう。

 確かに本人がそれで納得して喜んでいるのだから問題無いだろう。


「大分遅くなったし、そろそろ寝るとしよう。アンジェラ支部長とアリーゼさんは神殿の中に部屋を用意しているから」

「あら。別に私達のベッドルームで一緒に寝ても良いのよ?」


 問題がありすぎる。


「一応、私には夫が居りますので……」

「私は、未だ覚悟が出来ておりませんので……。ホテルのメイドに聞きましたが、私にはハイレベルすぎて……」


 アンジェラ支部長が常識人で助かった。

 アリーゼさんは覚悟が決まれば同衾どうきんするのか?

 公国のホテルのメイドさんは機密保持という言葉を知っているのだろうか。お仕置きが必要かも知れない。


【マスター。それはご褒美では?】

 

 アリーゼさんとの同衾はサクラは気にしないようだが、俺が無理だから勘弁して欲しい。

 神様のリクエストなど知った事では無い。


「そう。残念ね……。カミーユの素晴らしさを判って貰える良い機会だったのに……」


 俺の良さとは?


【マスター。言っても良いのですか?】


 ヘルピー。言っては駄目だよ?

 振りじゃ無いからな?


「エデン名物エリクサー風呂を用意しているから、ゆっくりっと疲れを癒やしてくれ。じゃあ、二人ともお休み」

「効能別のカロリーバーもあるから、選んで食べてね。私達の家には鍵がかかっていないから、遠慮無く来て良いのよ? ベッドルームのドアは……。ねぇ?」


「「はい。ありがとうございます」」


 エルトガドの女性は欲望に素直すぎて、ぼっちを拗らせていた俺の手に負えない。

 この状況をクレティアはどう思っているのだろうか。


【喜んでいらっしゃいます。マスターも経験を積めて、クレティア様も色々捗るそうです】


 将来の妻のそんな言葉は聞きたく無かった。

 以前も同じような事を聞いた事はあったが、ブレていないのは褒めておこう。



 ――

「あっ。おはようございます……。昨晩は……、ねぇ?」


 顔を赤らめながらアリーゼさんが朝の挨拶をしてくれる。

 昨晩は何だろうか? 自ら望んで観戦していたのは君では無いか。

 恥ずかしがっては駄目だ。見られていた俺の方が恥ずかしいのだ。


「あら。カミーユさん。おはようございます。流石お二人と言ったところです。色々と参考になりました。それから、あの薔薇は頂けますよね?」


 流石アンジェラさんだ。『愛の賛歌』の効能に気付いているし、他人事を自分事に置き換えて捉えられている。

 こういう場面で使う言葉では無いのだが……。


「二人ともおはよう。カミーユは凄いでしょ?」


 朝一でする話では無い。

 そして、凄いのでは俺では無くサクラだ。


【マスター。昨晩のライブ配信は神界でも大好評でした。諦めましょう】


 神界へのライブ配信はきちんとしていたのね。

 流石ヘルピー。仕事が出来る。

 出演者の許可やプライバシーという概念は無いらしい。

 

「朝食を食べ終わったらこれからの行動確認して、それぞれの仕事を開始しよう」

「昨日のパーティーで魔獣達には話は通しておいたから、アンジェラ支部長とアリーゼさんは最終確認をお願いね。カミーユは馬車をお願い。私はポーションとカロリーバーの原料の確保と確認を進めるわ」


「エデンの森への通行証もお願いしますね。安全第一ですから」

「それと、クレティア様の信徒の証しも大量にお願いします。公国と王国分だけでも事前に準備しておきたいので」

「カミーユ。ポーションの瓶もある程度必要だわ。忘れるところだったわ」


 俺は使徒だからな。

 使徒にしか出来ない事は俺がやるしか無い。

 俺の負担が極端に大きいとか文句は言えない。


「サクラ。集中力を高めるカロリーバーを頼む……」


 アンジェラさんとアリーゼさんに馬車の改良点を聞いてサスペンションと内装の改良を施す。

 先ずは二人が乗ってきた馬車から改良して、試乗は三人にお願いする。


 二度ほど手直しして合格となったので、二人は先に迎賓館へと帰って貰う。

 迎賓館で働いている人達の受け入れや、総合ギルドへの根回しもあるからな。


 その後は、他の馬車も改良していく。

 サクラは馬車の外観を仕上げていく。


 ポーションの瓶に関しては、サクラにも作り方を教えながら二人で作っていった。

 サクラは魔法のセンスが良いようで、土魔法も割と早く習得した。

 瓶作りに関しては、俺と同じクオリティーの瓶が作れるようになった。


 俺の方が大量生産出来る事は敢えて付け加えさせて貰う。

 俺は仕事が出来る男なのだ。


 通行証と信徒の証しは、俺の魔力を込めなければ意味が無いとの事で、頑張って作った。

 通行証の数は取り敢えず百個もあれば十分だろうが、信徒の証しは一万個作った。

 

 正直飽きた。


 此処が日本だったら簡単に自動化出来るのだろうが、今は無理だな。

 優秀な技術者を雇って俺の魔力を貯蔵出来る、魔力貯蔵庫を作って貰って自動化して欲しい。


 薔薇の改良に付いては、サクラのウォーターでも成長する事が検証出来た。

 エデン以外の土地で、俺とサクラ以外の人間が世話をしたときにどうなるかは、迎賓館に着いてからゆっくり検証して貰おう。


 二週間頑張って、全ての準備が整った。

 いよいよ世界一周旅行へ出発だ。


「じゃあ、熊どん。エデンの森は任せたぞ」

「シードルもしっかり頼んだわよ。帰ってきたら沢山遊びましょう」


 沢山の魔獣達に見送られながら、ユニコーン隊の出発だ。

 いよいよ、異世界の旅が始まる。

 のんびり、ゆっくり、楽しい旅にしたいな。


【マスター。まったり、しっぽり、の旅です。楽しみですね】     

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