第66話 トップとしての役割

 ヘルピーがとんでもない事を言い出したが、ライブ配信をする必要は無いだろう。

 神様達が期待している事は起こるはずが無いからな。


「では、改めて現状の問題と対策、今後のエデンについてある程度は纏めているが、兎に角人材不足に尽きる」

「そうなのよね。エリクサーやポーション類に鏡はカミーユが造っているし、各種カロリーバーは私。魔獣の狩りは熊どん達がしてくれるけど、保存はカミーユの魔法が必要だし、スパイダーシルクは蜘蛛の魔獣とのコミュニケーションが必要だもの」

「そいえば品種改良している薔薇も俺とサクラの魔力が必要だな。誰でも育てられるように改良したいのだが……」


「その辺りは総合ギルドとしても危惧していたところでして、支部だけで無く、本部でも議題として上がっています。本部と言ってもセンドラド王国本部ですが……。王国本部の管轄内で優秀な人材をエデンに送り込んではどうかと話もあるのですが」

「良いのか? そんなにぶっちゃけて。今の話だと、総合ギルドがエデンを管理すると言っているような印象だが……」

「そうよ。それが嫌だからエデンギルド(仮)を立ち上げて、クレティア様への信仰心向上と外貨獲得を考えていたんだから」


 ぽっと出の小国ではあるが、女神が何処かの組織の管理下に入る事は絶対に無い。

 現状のズブズブの関係が限界だ。


「私達はクレティア様から祝福を受けておりますし、カミーユさんやサクラさんともこうして話す機会も多いですので、先程のギルドからの人材派遣案には反対の立場です。しかし、商品しか見ていない上の者は、ギルドの利益を最優先に考えているようで……」

「そんなギルドの方針も嫌で、私とアンジェラ支部長は退職の意思を既に伝えております。エデンの意に背いて動くなど考えられませんから」


 成る程。俺とサクラの誘いに即答した理由が判った。

『流石俺』と思っていた自分が恥ずかしい。


「総合ギルドの実情は判ったわ。私達は総合ギルドからの干渉と管理を拒絶します。今までのような関係維持が望ましいわ。総合ギルドのネットワークや情報収集能力は最大限活用したいけれど……」


 仕事が出来る人達の会話が続いていく。

 俺は仕事が出来る子だが、どちらかと言えば縁の下の力持ち的ポジションだから、こういった話は彼女達に任せておいた方が良いだろう。

 決して話が難しくて思考を放棄している訳では無い。


 その後もエデンの人材確保について真剣な議論が続いた。

 俺は議論を見守っていた。

 俺はエデンのトップだからな。トップが意見を言ってしまうと決定事項となってしまうから、こういう会議での発言は控えた方が良いのだ。

 何度も言うが、決して話が難しくて思考を放棄していた訳では無い。


「カミーユ」


 なかなか意見が纏まらないので、いよいよ俺の出番が来たようだ。


「喉が渇いたから、全員分のお茶をお願い。後、軽食も」

「お、おう。任せておけ……」

「緑のカロリーバーの素を三滴入れておいて。思考がクリアになるから」

「カミーユさん。私は紅茶で」

「あっ。私はハーブティーで」


 メイドさんの確保が急務だ。

 今なら好待遇を約束する。


 軽食を摂った後も女性三人の会議は続き、ある程度の方向性が決まった。

 ・迎賓館などで働いている人から希望者を募る。

 ・アンジェラ支部長とアリーゼさんが欲しい人材をピックアップする。

 ・世界一周旅行中にその人達をスカウトする。

 ・奴隷を買う(人物照会は総合ギルドに依頼する)


「カミーユ。問題無いかしら?」

「勿論問題無いぞ。三人ともありがとう」


 俺はトップだけだから、結論の承認をする役割だ。

 大仰に頷いておいた。


「後は、此処に常駐する人をどうするかだな。ローズガーデンも造らないといけないし、維持管理もある。当然魔獣達とのコミュニケーションや素材の保存もあるし……」

「魔獣達は迎賓館まで来て貰えば良いし、冷凍保存は人海戦術で何とかなるわ。薔薇の改良についても迎賓館で可能よ。クレティア様からの依頼が終わってからで良いと思うわ」


 で、ですよね~。


「旅に同行する人員はどうだ? 俺とサクラ二人だけなら問題無いが、客人をもてなす事も必要だろ?」

「そこは大丈夫です。総合ギルドを通して人員を派遣して貰うようにすれば問題ありません」


 了解しました。


「一応教会で働いているエルフ達により信頼して貰う為にシスター・エレオノールに同行して貰おうと思っているから、シスター用の馬車をお願いね」

「それから、護衛としてザクスさんとナタリーさんにも同行して貰いたいので、お二人の分もお願いしますね。ナタリーさんは私と同室でも問題ありませんが、一応何があるか判りませんので、予備の意味も含めて」

「その間のシスター達の護衛は?」

「手配は終わっています。問題ありません」


 流石は俺が信頼する女性陣だ。

 仕事が出来る。

 俺は指示通りに動こう。

 日本で指示待ち人間のスキルを磨いてきたのだ。

 完璧にこなせる自信がある。


 決定事項も問題の先送りになっている気もするが、口出しはしない。

 部下の成長を促すのもトップの仕事だからな。


「じゃあ、折角二人が此処に来てくれたんだ。歓迎会をしよう」

「そうね。初めてのお客様だから魔獣達も呼んで屋外パーティーにしましょう」

「魔獣達ですか……」

「此処は、死の森ですものね……」


 二人が若干引き気味だが、可愛い魔獣達と触れあえば虜になるだろう。


 熊どんに頼んで魔獣達に集まって貰うように頼んだ。

 夜になると楽しみにしていた魔獣達が集まってきた。


「皆集まってくれてありがとう。此処にいるのがアンジェラさんとアリーゼさん。俺達の新しい仲間だから、皆仲良くしてくれ」

「森に来たら護衛してあげてね」


「ア、アンジェラです……。お、お、お見知りおきを」

「アリーゼです! 皆よろしくね!」


 これが若さの違いか。

 アンジェラ支部長には口が裂けても言えないが……。


「カミーユさん? 何か?」

「アンジェラ支部長も魔獣達と仲良くなれると良いな……。と」


「カミーユ。自業自得よ……。それよりも早く乾杯をしましょう」


「では。エデンの新しい仲間と皆の笑顔に!」

「「「皆の笑顔に!」」」


 やはりエルトガド流の乾杯には慣れないな。


【それよりもマスター。あのアンジェラという女は見込みがあります。私の技を継承しても良い人材を確保するとは。流石マスターです】 

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