第61話 天才(自称)の閃き

 ヘルピーからスローライフは諦めろとありがたい助言を頂いたが、サクラとのもスローライフの一部と……。言えるのか?

 干からびてしまう可能性が……。


 そんな事を思っているとサクラがようやく目覚めた。


「カミーユ。おはよう……。いつもと違う匂いがするんだけど」


 これが殺気か。

 殺気だけで人を殺せそうだ。


「ああ。クレティアから教会の女神像を俺が造った女神像へと置き換えて欲しいと直接依頼があってな……。クレティアの世界に呼ばれていた」

「クレティア様に呼ばれていたのなら仕方が無いわね……」

「クレティアが言うには、神界ではサクラの人気が凄いらしぞ? クレティア以外の神様から祝福か加護を授かるかも知れないと言っていたぞ。その時はクレティアの世界にサクラも呼ばれるそうだから、楽しみに待っておこう」

「どっ。どうして私が神界で人気になってるの?」


 言えない。

 サクラのだからとは言えない。


「サクラはカロリーバーをエルトガドで再現しただろ? クレティアの話によると効能は神界製よりも高いらしいぞ?」

「それは……。ねえ?」


 サクラが何を言いたいのかは理解出来る。

 理解出来てしまう俺もどうかと思うが……。


「それと、薔薇に関しての要望と、教会で祝福を受けた信徒に対する証しの見本を貰ってきた」


 そう言ってクレティアから貰った信徒の証しをサクラに手渡した。


「これは、宝物庫に飾りましょう」

「サクラも俺と同じ考えで安心したよ。実はクレティアにそうすると伝えてきたんだ」

「私はカミーユの妻よ。当然でしょ?」


 当然かどうかは置いておいて、流石サクラと言っておこう。


「それで、女神像の置き換えを最優先で行わないといけないが、次の魔獣便で総合ギルドにその件を伝えて、全ての教会に手紙を出そうと思うんだが」

「そうね……。ムルドラン自治領からルシアナについての返答も来ないし、あそこには通達だけで良いと思うわ。何か言ってきたら実力で黙らせましょう」


 あぁ、神様。

 どうして私の妻達は揃いも揃って物騒な思考をしているのでしょうか。


「まあ、なるようになるだろう」

「それもそうね」


 軽い感じで業務連絡を終えた後に朝食を頂き早速薔薇の改良に取りかかる。

 ブラックハイヒールの改良はヘルピーがやる気を見せて俺は魔力を提供しただけで終了した。


【マスター。完璧な作品です。やはりマスターの魔力は捗りますね】


 きっと薔薇の改良が捗ったのだろう。

 実際あっという間に改良出来たし。


 問題はクレティアの要望だな。

 散る時に粒子となって消えていくとか、完全に植物の範疇を超えているし、世界の理に反している気がする。

 しかし、わざわざクレティアが直接依頼したのだから完璧に仕上げたい。


 クレティアからの要望をイメージしながら魔力を込めて品種改良を行う。

 しかし、花が散る時に霧散するのはなかなか出来ない。

 花弁が落ちる時に霧散するという魔法? を掛ければ出来そうだが、それは魔法であって植物では無い。

 一応魔力の暴力で完成したが、俺がいなければこの薔薇が育たないと言う状況だけは避けなければならない。


「サクラ。どうすれば良いと思う?」


 カロリーバー作りが一段落したサクラが興味深そうに俺の作業を見ていたので、問いかける。


「難しいわね。私が知る限り霧散して散っていく花なんて聞いた事無いもの。想像すら出来ないわ」

「サクラでも判らない事があるんだな」

「それはそうよ。知らない事の方が多いわよ」


 サクラの事だから何とかしてくれて『はい。ハイエルフですから』と言ってくれる事を期待したが、流石に無理そうだ。


(ヘルピーはどう思う?)

【神界では見た事があるんですが、地上ではどの世界にも存在しませんから……。もしかしたら地上では難しいかと……】


 申し訳なさそうにヘルピーが『地上では無理』と告げてくる。

 しかし、神界ではあるそうなので、全く出来ない訳では無いだろう。

 実際俺の魔素をイメージと共にしこたま流し込んだ薔薇の花弁は霧散したのだから。


(ヘルピー)

【はい。マスター】

(土や水にも魔素は含まれているのか?)

【はい。場所によって魔素量は異なりますが、土や水にも魔素は含まれています】


 であれば何とかなるかも知れないな。

 

 植物は窒素やカリウム等の栄養素を空気や水、土から吸収して成長していくと何かで読んだ記憶がある。

『女神の微笑み』は魔素を大量に(他の植物と比較して)吸収して、吸収された魔素が花弁のように結晶化するように改良すれば行けそうな気がする。


 結晶化されていない魔素が花弁結晶の中で黄金色に漂うようにして、魔素の供給が停止すると花弁結晶は魔素へと戻りキラキラと輝きながら霧散していく。


 流石は俺だ。

 日本では本気を出していなかったが、俺はやれば出来る子なのだ。

 まだ結果は出ていないが……。


 問題は、どうやって実現するかだ。

 花弁の色・艶・形を変えるのは魔力の暴力で何とかなったが、今回は新たな植物を創り出すような作業だ。

 

 遺伝子操作的な何かをする必要があるのでは無いか?


「カミーユ。何か思いついたのなら取りあえず得意の魔力の暴力でやってみたら?」


 流石サクラ。

 俺が何か思いついたのが判ったようだ。

 サクラに隠し事は絶対に出来ないと確信した。


「そうだな。取りあえずやってみるか」


 試作品の『女神の微笑み』に先程思いついたイメージと共にたっぷり魔力を注いでいく。

 特に変化が見られないので、止め時が判らない。


【マスター。そろそろ大丈夫そうです】


「出来た……。のか?」

「……。出来たの?」


 俺もサクラも成功したのかどうか判らない。

 見た目の変化は特に無いから、放置しておくしか無いな。


 しかし、サクラが造った『愛の賛歌』はどうやって造ったのだろう。

 昼と夜とで全く違う花を咲かせている。

 香りも効果も昼と夜では違う。


「それは……。ねえ? カミーユの妻としての嗜みよ」


 どうやらハイエルフは関係なかったらしい。

 カミーユの妻だからと言う理由は、ヘルピーの事を考えると納得も出来るし、クレティアも色々と拗らせているらしいから……。


【マスター。神界では『ブラックハイヒール』が新たな扉を開いて差し上げますので期待しておいて下さい】  

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