第60話 ヘルピーは恋する乙女
サクラのおかげで神界のあれやこれやが捗っているらしいが、ヘルピーの創作能力のおかげだろう。
過去作も含め今後の報告書という名の官能小説は俺が確認してからにして欲しい。
「サクラの能力は神々からも注目されているのよ。今まで神しか作る事が出来なかった物が地上で造られているのですから。しかも、効果は私達が作った物よりも高いのだから、サクラを
「マスターにもコアなファンが居ますから安心して下さい。私の同志とも言うべき神々です」
全く安心する要素が見当たらない。
「まあ、その件はサクラが望めばと言う事にしておいてくれ。無理矢理と言うか、気付いたら知らない神の加護を授かっていたとか無いようにして貰えると助かる」
「その辺は大丈夫よ。サクラはカミーユの妻として私が祝福を与えているのよ。使徒の妻に勝手に祝福や加護を与えるのは御法度なのよ」
「マスター。クレティア様以外の神から打診があった際はなるべく受けて下さい。その方が神々も喜びますし、益々捗ります」
「このエロザベスが……」
「はあぁぁぁ?」
「まあ、ヘルピーがエロザベスなのは事実なんだからそんなに怒らないの! 貴女のペンネームはエロザベスでしょ? カミーユから貰った名前をあんなに喜んでいたのに……」
「ク、クレティア様……。それは言わない約束では……。嬉しかったのは事実ですし、マスターの事を愛しているのも事実ですが……」
あら、ヘルピーが恋する乙女の顔つきをしている。
ツンデレ……、では無いが、悪い気はしないぞ。
「俺もクレティアとヘルピーに相談があるんだが良いか?」
「ええ良いわよ。と言っても薔薇の事でしょ?」
「私の薔薇はつる薔薇にして欲しいですね。鞭にもなり拘束も可能で、棘が刺激的なアクセントになります。ブラックダイヤの花弁は良いのですが、出来ればピンクの粒子を舞うようにしたいですね」
ヘルピーの食いつきが凄い。
そしてヘルピーはブレない。
更に、ヘルピーにピンクは似合わない。
「ピンクか? ヘルピーには赤……、否、深紅が似合う気がするけど……」
「私もそれは考えたのですが、漆黒に深紅はちょっと重い気がします。私の軽やかさを表すにはピンクが良いですね。因みに、私の下着は基本的にピンクです」
「……」
神も下着を着けるのね。
まあ、ヘルピーが神であるかは判らないが。
ヘルピーの『出来る秘書』スタイルであれば下着も必要かと納得してしまう。
「じゃあ、花弁の内側からチラリと覗く程度の方が良いかな?」
「流石マスターです。捗らせ方を理解しています」
流石ヘルピーです。
思考の全てがピンクに染まっています。
「私は今のままでも問題無いのだけれど、花が散るときは粒子となって風に舞うようにして欲しいわね。女神として醜態は晒せないわ」
まあ、薔薇なのだけれどな。
そんな散り方をするのは、もはや植物では無い気がするのは俺だけだろうか。
と言うか、そんなの俺に作れるのだろうか。
魔法の師匠であるヘルピーが『魔法はイメージ』と言っていたから、イメージを込めて魔力を使えば出来る気もする。
エルトガドに戻ってから実験だな。
「出来るかどうか判らないが頑張ってみるよ」
「大丈夫ですマスター。既にクレティア様の許可は貰っています。マスターの魔力と私の能力があれば可能です」
「それは心強いな」
「もし失敗しても……。ね?」
ヤバイ。
この『ね?』はヤバイ『ね?』だ。
わざと失敗させたりしないよな?
「ヘルピー。わざと失敗するような事はしないでね。それは小説の中で十分よ」
流石クレティア。
ヘルピーに釘を刺す事を忘れない。
小説の内容が非常に気になるが……。
と言うか、報告書が小説であると認めてしまっているのだが……。
「今後の俺の活動は、最優先で女神像の設置だな。薔薇を作ったら早速出発するよ」
「そうして頂戴。像は貴方の土魔法で造って、決して汚れない、決して傷つかないようにしておいてね」
「クレティア様。安心して下さい。私がしっかりと監視しますので」
そうだった。
ヘルピーは万能秘書というだけで無く、俺の監視役だった。
いつもあれだから忘れていたが。
「それから、私の信徒として私の像に誓いを立てた人にはこれを渡して欲しいの。エルトガドでの私の象徴はクレティアローズみたいだから、それを模したネックレスを作ってみたのよ」
「了解した。クレティアが作ってくれたネックレスは大神殿の宝物庫で展示するようにして、複製品を信徒に渡そう。キラキラ演出が発生した人だけに」
「そうね。それで良いわ。沢山配ればそれだけ目標達成に近づくから頑張ってね」
「頑張って使徒の役割を果たすよ。早くクレティアやヘルピーと一緒に暮らしたいからな」
「そう言ってくれると私も嬉しいわ」
「クレティア様。マスター。そろそろ時間のようです」
「あら、残念ね……。カミーユ今日は会えて嬉しかったわ。貴方は良い事も悪い事も色々引き寄せてしまうから、くれぐれも気を付けてね」
「俺もクレティアに会えて嬉しかったよ」
クレティアと見つめ合い、引き寄せられるように近づいていく。
「クレティア様安心して下さい。マスターが危機に陥った場合私もサクラも居ます。サクッとやっちゃいますから」
ヘルピー。
君は空気を読みなさい。
良い雰囲気をぶち壊しやがって。
「じゃあねカミーユ。サクラにもよろしく伝えておいて」
――
ふと気付くとベッドの中だった。
クレティアと会う前と同じように俺の胸の中でサクラは幸せそうに寝息を立てている。
右手にはクレティア教? の信徒の証しが握られていた。
そう言えば、宝物庫に展示するクレティアの服とかヘルピーのハイヒールを貰えないか聞くのを忘れていたな。
次の機会に聞くとしよう。
先ずは、これから先の行動を今のうちに整理しておこう。
・薔薇の改良
・信徒の証しの制作
・クレティア像の置き換え
スムーズに事が進むように、総合ギルドを通して全ての教会に手紙を出しておこう。
ハイエルフをどうするかの問題もあったな。
ヘルピーは物騒な事を言っていたが、なるべくなら血を流さない方法で。
日本人に刃傷沙汰は無理だから。
スローライフの為に使徒になったはずなのに、スローライフが遠のいていく。
【マスターにスローライフは無理ですね。暇な時間があればサクラが……。ねえ?】
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