第59話 クレティアからの依頼と神界の宝

 エデンらしい薔薇を作ろうとサクラと話してから一週間。

 薔薇は完成していた。


 クレティアをイメージした『女神の微笑み』

 ヘルピーをイメージした『ブラックハイヒール』

 サクラをイメージした『愛の賛歌』


 クレティアの『女神の微笑み』以外の名前はあれだが、いずれも幻想的で目を奪われるようなファンタジーな薔薇だ。


『女神の微笑み』

 はサファイアの中に金の粒子が舞っている花とは言えない幻想的な花弁を特徴としている。

 透明なのにあおく輝き、金の粒子が舞い踊っている。


『ブラックハイヒール』は攻撃的な花弁だ。

 ブラックダイヤのように輝く花弁の先は鋭く尖り、ヘルピーの代名詞でもあるハイヒールを思わせる。


『愛の賛歌』はサクラが作り出した薔薇なのだが……。

 昼はエメラルドグリーンの美しい薔薇なのだが、夜になるとサクラの髪の色と同じクリスタルシルバーへと変化し、艶めかしい香りが狂宴へと誘う。

 

 サクラによると『この薔薇さえあれば子孫繁栄は約束されたも同然』だそうで、とても薔薇とは思えない効果があるそうだ。


 久しぶりに『はい。ハイエルフですから』を聞いた。


 エデンの薔薇を作るという第一段階は一応達成した。

 クレティアとヘルピーの意見も取り入れて更に改良しなければならないが、ベースは満足いく物が出来た。

 品種改良を進めつつ、俺とサクラ以外でも育てられるようにしなければならない。


【マスター。クレティア様から依頼があるそうです。直接伝えたいので今晩会いに来るそうです】

(夜はだぞ? サクラがだからタイミングが大切だ)

【問題ありません。本日はクレティア様もしますので】

(あぁ……。そうか……)


 今夜はギャラリーが増えるらしい。

 しかも、将来の第一夫人だ。

 ギャラリーがいると解っていてもならないのが辛い。

 サクラに相談しようかな。


【マスター。意味の無い相談は止めましょう。サクラの事ですから、それを聞くといつも以上にハッスルするかと。私は捗って問題無いのですが……。もしかしてマスターもそっちに目覚めたのですか?】


 断じてそんな事は無い。

 俺はいたってノーマルだ。

 俺の意思に反して俺のカミーユがカミーユしてしまうのは全てはカロリーバーのせいだ。


 その夜も平穏な食卓を囲んでいた。

 サクラが作ってくれる料理は公国で手に入れた調味料や調理器具によって美味しさがグレードアップしている。


「今夜もサクラの料理は絶品だな」

「はい。ハイエルフですから」


 平和だ。平和な夜だ。

 出来ればこのまま平和に眠りに就きたい。

 クレティアと会う今夜くらいは穏やかに眠りに就きたい。


 寝室に入った途端に俺の望みは儚く散ったのだが。


 何故か『愛の賛歌』が寝室に置いてあり、艶めかしい香りと言うよりも、淫靡な香りと言った方が良い香りが俺を迎えてくれた。

 その香りを嗅いだだけで、俺のカミーユはカミーユしてしまう。

 サクラはかなりヤバイ薔薇を作ったようだ。


 当然サクラは激しかった。


 激闘に満足したのか、サクラは満足した顔をして寝息を立てている。

 窓から入る月明かりによって浮かび上がるサクラは息を呑むほどに美しい。

 こんなにも美しく、華奢な身体のサクラの何処にあれだけのエネルギーがあるのか不思議でならない。


 そんな事を思いながらキラキラと輝くサクラの髪を撫でていたら突然意識が途切れた。


「カミーユ。久しぶり」


 目が覚めた途端にクレティアから声がかかる。

 正に女神という美貌と圧倒的なスタイル。


「ヘルピーの報告書で色々知っていたけど、実際見ると凄いわね」

「……」


 目の前にいる美女は先程までの行為をかぶりつきで見ていたのだ。

 これが……、羞恥プレイ?

 大丈夫。俺のカミーユはカミーユしていない。

 俺はいたってノーマルだ。


「クレティア様。今晩はいつもより激しかったのです。恐らく薔薇の影響かと思われます。流石サクラ……、と言っておきましょう」


 当然エロ美人秘書のヘルピーも此処にいる。


「ところでクレティア。俺に依頼があるそうだが」

「その話の前に、何か服を着た方が良いわよ。私は嬉しいけど、貴方は……。ねえ?」

「では、私の自信作の拘束具で……」


 あぁ。神様。

 俺の妻達は色々となようです。

 どうか平穏な暮らしを……。


 何処からとも無く現れたバスローブを羽織りながら、俺は神様にお願いした。

 目の前に女神はいるのだが……。


「で? クレティアの依頼は何なんだ?」

「私からの依頼は簡単よ。教会にある女神像をカミーユが造った女神像に置き換えて欲しいのよ」

「あー。あの像は全くクレティアに似てないからな。今まで知らなかったのか?」

「ええ。私はエルトガドの管理者だから、全体を俯瞰しているのよ。私を信仰している人達がいる事は知っていたけれど、女神像があんなに酷いとは思わなかったわ」

「そうですね。クレティア様を冒涜していると言っても過言ではありません。そもそもサクラを生贄にするような種族です。サクッと……。ね?」


「サクラの件は置いておいても、そもそもクレティアはエルトガドに姿を晒していないんだから、似ていないのはしょうがないと思うぞ。実際のクレティアには到底及ばないが、あの像の女神もかなり美しいと思うぞ?」

「もぅ。カミーユったら。そんなに褒めないでよ」


 クレティアは恥ずかしそうに頬を染めながらモジモジしている。

 とてもかぶりつきで俺とサクラの行為を観戦していた人物と同じとは思えないな。


「クレティアが美しいのは事実だからな。まあ、女神像の件は問題無い。教会に行った時には像を造り直そうと思っていたからな」

「最優先でお願いね」


 クレティアはあの像がどうしても許せないらしい。

 わざわざ直接俺に会って依頼するくらいだから当然と言えば当然なのだが。


「ヘルピーも言っていたが、エルフの件は俺もどうにかしたいんだ。結局ハイエルフが利益を上げるためだけにエルフやクレティアを良いように使っているだけなような気がするし……。この件はサクラにも確認しないといけないが」


「確認するまでも無くサクッとです。サクッと」


 ヘルピーはサクラが生贄となった事が許せないらしい。


「あの時偶々たまたまマスターが近くにいたからサクラは助かったのです。もしそうでなければ、サクラは死んでいました。サクラの類い希な才能が失われるところでした。今やサクラの存在は神界に無くてはならない存在です。捗り具合が違います」

「……」  

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