第54話 たまには真面目に会議します

 エフセイ国王達を招いての食事会が無事終了し、久しぶりに迎賓館のベッドで一夜を明かした。

 サクラとヘルピーの『ね?』は『ね?』だった。

 今回の旅行で用意していたカロリーバーは少なかったはずなのに、サクラはどこからとも無くカロリーバーを取り出し無言の圧力を掛けてくる。


 実に新婚旅行らしい朝を迎えられて何よりだ。


 ヘルピーが現実に参加することは出来ないのだが、彼女も色々と捗ったことだろう。


 簡単に身支度を済ませて食堂に行くとメイド達が顔を赤らめ目を反らしてくる。

 この反応にも完全に慣れてしまった。

 エルトガドにはプライベートという言葉は無いと諦めている。


「サクラ。今日はシスターや孤児達を受け入れてアリーゼさんと打ち合わせだな」

「そうね。それ以外に予定は無いわね」

「教会や孤児院は正式な契約が終わってからの方が良いよな?」

「相手に隙を与えないと考えればそれが一番ね」


 そうなるとやることが極端に無くなる。

 最近何故か寝不足なのでゆっくりと休むのも悪く無いな。


「カミーユ。もうすぐエデンに戻るでしょ?」

「そうだな。そもそもエデンの森で不足している物資を確保するために来たのだから」

「教会や孤児院、学校の建築はある程度現地の人に任せるのよね?」

「そうだな。総合ギルドに発注しようと思っている」


 公国にいる大工や職人だけでは難しいだろうし、建築に携わった人達は教会や孤児院を気に掛けてくれるかも知れないからな。


「じゃあ、迎賓館を作った時みたいにミニチュアを作ってあげたおいたらどうかしら。それならエルトガドに無い様式の建築も出来ると思うの」

「そうだな……。じゃあ、サクラ。今日は一緒に教会と孤児院、学校の設計をしよう」


 今日の予定も決まったし、ゆっくりと紅茶を飲みながらアリーゼさんやシスター、孤児達の到着を待っていると、ザクスさんとナタリーさんが神妙な面持ちでやってきた。


「カミーユさん。サクラさん。昨夜は申し訳ありませんでした」

「気にしなくて良いさ。団長さんを煽ったのは俺だしな」

「それに、私達も一応計画して動いていたのよ? 二人は何も気にしなくて良いわよ」


 二人から謝罪を受ける謂れは無いので、気にしないように言っておく。


「勿体ないお言葉ありがとうございます」

「それで、神妙な顔をしてどうしたんだ?」


 二人は謝罪のために来た訳では無いだろうと思い、言葉を促した。


「実は昨夜二人で話しまして……。私とナタリー嬢は公国騎士団を辞しエデンに、否、お二人に仕えさせていただきたいと思い参上いたしました」


 二人の申し出は大変ありがたいが、今ここで了承する訳にはいかない。

 エデンと公国は現在緊張状態にあるからタイミング的に今では無い。


「二人の申し出はありがたいが、流石に今受け入れることは出来ない。それは二人も判っているだろう?」

「今まで一緒に過ごしてきて二人は信頼できる仲間と思っているわ。面倒事が終わって、正規の手続きで公国籍から抜けられたらエデンは二人を喜んで受け入れるわ」


「「ありがとうございます」」


「しかし口約束だけでは不安もあるだろう。シスター・エレオノールが来てからクレティア像に証しを貰うとしよう」


 話が一段落したところで丁度アリーゼさんやシスター達一行が到着した。


 孤児達は迎賓館の豪華さに目を輝かせ、早速迎賓館の探検を始めた。

 アリーゼさんとシスター・マルネール、シスター・エミも見たことも無い豪華な建物や美しい装飾品に目を丸くしている。


 晩餐会のために総合ギルドを通して雇っていた料理人やメイド達に事情を説明して問題無い人は継続してここで働いて貰うことにした。


 孤児達の面倒はメイドさんにお願いして、俺達は昨夜の出来事や今後について協議することにした。

 協議すると言っても、教会や孤児院が完成するまでの生活をどうするのか、その後の運営についてどうするかはある程度考えていたからスムーズに協議は終了した。


「じゃあ、時間もあるし、シスター二人と騎士二人の誓いと祝福を行おう」

「あっ。私もクレティア様への誓いをします」


 アリーゼさんも祝福を受けたいらしいので、計五名の祝福を行った。

 皆キラキラ演出に感動していた。

 その感動を忘れずに、日々クレティアに感謝の言葉を捧げて欲しい。


 その後は教会や孤児院、学校の建築についてだ。

 最初に教会に訪れた時に俺の考えを伝えていたため、皆それぞれ夢を膨らませていたようで、様々な意見が出た。


 皆が一致していたことは、教会は俺とサクラに一任すると言うことだった。

 孤児院は学校があるので住居だけあれば良いと言う意見もあれば、孤児院と学校を一体化して運営した方が良いと言う意見もある。


 アリーゼさんは教会を中心に学芸都市として都市計画を行った方が良いと強く主張された。


「しかしアリーゼさん。こんな辺境に学芸都市を造ったとして人が集まるか?」


 元々レオニラン公国は辺境伯が独立して興した国だ。

 死の森に隣接する超辺境という立地なのだ。

 エルトガド最果ての国がレオニラン公国なのだから、不便極まりない。

 到底人が集まると思っていないし、そもそも俺の学校計画はそこまで大規模なものでは無い。

 以前検討したが、そこに暮らす子供達が気軽に通える学校を造りたいのであって、学芸都市を造ることまでは考えていない。


「俺は各国、各街に新たな教会と学校を造れば良いと思っている。新しく造らなくても、教会は既にあるのだから教会を利用すれば事足りると思っているし、それがクレティアへの信仰心向上にも役立つはずだ」


「アリーゼさんがエデンのために、クレティアのために真剣に考えてくれていることは良く判っている。しかし、目的はクレティアへの信仰心向上であって、エデンの発展では無いんだ。皆もクレティアへの信仰心向上という目的を忘れずにもう一度検討して欲しい」

「そうね。私もちょっと浮かれていたわ。本来の目的のために何を成すべきかもう一度考えてみようと思うわ」


 流石サクラだ。

 悪役を引き受けてくれてしっかり軌道修正をしてくれる。


【マスター。今夜も捗りそうですね。たまには違うプレイをお願いします。神界からのリクエストです】 

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