第53話 『ね?』は魔法の言葉
ヘルピーからのご褒美という不穏な言葉を華麗にスルーして辺りを見渡す。
再起動に成功しているのは料理人やメイド達。王族や騎士達は再起動までもう少し時間が必要なようだ。
「今日見聞きした事は大いに広めてくれて結構だ。君達も食事の前や寝る前にクレティアへ感謝の言葉を捧げて欲しい。これからは市民も気軽に治癒魔法を受ける事が出来るようになるし、ポーション等の販売も行う予定だから、教会が君達の助けになったときには教会への礼拝や孤児達へ優しく接して欲しい」
そんな話をしている間に騎士達も再起動し、最後に王族も再起動した。
「エフセイ国王。改めて言うがレオニラン公国とエデンとの間の約定は女神クレティアが正式に認めた約定だが、詳細はこれから詰めていこう。カロリーバーは帰りに渡すがエリクサー三本と森の魔獣への対応は詳細が決定し正式に契約書を交わした後に渡す事で良いか?」
「ああ。それで問題は無い」
「では詳細は後日と言う事で。教会や孤児院、学校の経営は総合ギルドへ委託するので、詳細の打ち合わせは総合ギルドの担当者と行って欲しい。念の為に伝えておくが、担当者は私の名代だから、くれぐれも貴国の担当者に伝えておいてくれ」
担当するギルド職員が侮られたりするのは許せないからな。
「勿論だ。敬意を持って対応する事を約束しよう。当然交渉となるので、貴国の要望を全て受け入れる事は難しいと思うが……」
「それは当然だろう。エデンもそこまで無茶を言うつもりは無い」
俺としては土地を提供して貰った上で公国に利益が回らなければ良いので、端から無茶を言うつもりは無い。
エリクサー三本とカロリーバーは今は公国の利益だろうが、エリクサーは今後敵対しない国へは配る予定だから、今だけは我慢しておこう。
「アンジェラ支部長。明日正式に依頼を出すが、そのつもりでお願いする。それから、エデンの担当者とは別に完全に中立な立場で総合ギルドに契約締結までの立ち会いと契約の履行確認をお願いしたい」
「総合ギルドはどの国にも属さない中立な立場です。安心してお任せ下さい。日程調整や協議の場所の提供も含め総合ギルドにお任せ下さい」
一旦この話は終了で良いだろう。
「さて、エフセイ国王。貴国の騎士団……。それも騎士団長という立場の者が殺意を持って刃を向けてきた。否、実際に心臓を貫かれているのだが?」
敢えてそう仕向けたのだが、そんな事は関係ない。
他国の国王、この晩餐会の主催者である俺へ刃を向け、心臓を貫いたのだ。
実際はヘルピーのおかげで心臓は無事なのだが……。
「エリクサーで無事回復しているが、まさか有耶無耶にするつもりでは無いだろうな?」
「……」
「誠意ある回答を期待している」
有耶無耶にするつもりだったのか、エリクサーやキラキラ演出で忘れていたのか、エフセイ国王は自国が非常に不味い状況にある事を思いだし顔面蒼白だ。
レオニラン公国は完全にエデンの属国扱いにしても良い程の事をしでかしたのだから。
「カミーユが優しくて良かったわね。私に決定権があれば今頃公国は更地になっていたでしょうね。感謝する事ね」
サクラが物騒な事を言って脅しをかかている。
実際それほどの事をしたのだから俺が甘いと言えばそれまでだが、俺はこの事をクレティアへの信仰心向上に役立てたいと思っての行動だから。
サクラは判っているだろうが。
「それから、何時までそこにいるテロリストをそのままにしているのかしら? 何もしないところを見ると、此処にいる騎士達もテロリストなのかしら? 私が相手をしてあげるからいつでもかかってきなさい。私のカミーユを傷つけた事は万死に値するの。当然その仲間も同じ……」
そう言いながらサクラは魔法発動の準備に入る。
「ひっ」
普段荒事に無縁な料理人やメイド達が軽く悲鳴を上げて腰を抜かす。
「まっ、待ってくれサクラさん」
「そこの騎士! 罪人を捕縛しなさい!」
ザクスさんとナタリーさんが即座に反応する。
慌てて騎士達が団長さんを押さえつけ捕縛している。
気を失っているから押さえつける必要は無いのだがな。
「ではエフセイ国王。約束通りカロリーバーは渡しておく。俺は約束を違えない。後は貴国次第だと言う事を覚えておいてくれ」
「最後はあれだったけど、楽しい一時だったわ。またこうして一緒に食事できる事を楽しみにしています」
用は済んだと俺とサクラは公国ご一行様の退席を促す。
流石に見送りまではしない。
アンジェラ支部長とシスター・エレオノール、料理人やメイド達はお見送りのために玄関へと向かう。
俺とサクラだけがメイン会場に取り残された。
「カミーユ。本当に怪我は大丈夫なの? 心臓を刺されたように見えてのだけど」
「ああ、問題無い。刺されるときに心臓をずらしておいた」
ヘルピーがだけれど。
「カミーユの事だから問題無いと思っていたけど、本当に心配したんだから。こんな無茶はもうしないで……」
縋るような目でサクラが見つめてくる。
「心配をかけてしまって申し訳ない。俺はサクラの夫だぞ? 愛するサクラを残して死ねる訳無いだろ?」
そう言ってサクラを抱きしめる。
甘い空気が部屋を満たしていく。
「カミーユ」
「サクラ」
目を見つめ合い、顔が近づいていく。
「カミーユ国王……。しっ、失礼しました!」
メイドに目撃されてしまった。
ホテルで散々聞かれているし、恐らく覗かれているので今更ではあるが、相手が恥ずかしがると、こちらまで恥ずかしくなってしまう不思議。
軽く唇に触れるだけでサクラと離れた。
俺もサクラも空気が読めるからな。
「アンジェラ支部長。迷惑をかかるがよろしく頼む」
「お任せ下さい。エデンの担当はアリーゼとなる予定です」
流石アンジェラ支部長。仕事が出来る。
俺と違って本当に仕事が出来る。
「シスター・エレオノール。明日シスターと孤児全員で迎賓館に避難してきてくれ。俺もサクラも護衛に付けないのが申し訳ないが」
「いえ。護衛など必要ありません。私達は女神クレティア様の信徒です。胸を張って此処に参ります」
シスター・エレオノールも今日の祝福で自信を取り戻しているようだ。
後は仕上げを残すのみ。
「今日は色々あって精神的にも疲れただろう。皆迎賓館で一泊し疲れを癒やしてくれ」
「カミーユは散々心配かかたんだから……。ね?」
【マスター。私も一応心配しました……。ね?】
二人とも『ね?』だけで会話を成立すると思っているのか!
成立はしているけれど……。
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