第46話 出来る事からコツコツと

 昨晩もカロリーバーのお世話になってしまった。

 メイドさん達に教えたとおりの使用方法で……。


 効果は抜群だ!


 朝起きるとメイドさん達が顔を赤らめ俺の顔を見てくれない。

 サクラはツヤツヤとした肌で満足した表情で『ね?』と一言だけ。

 メイドさん達は納得した表情で頷いていた。


 ダメ元で寝室に防音結界が出来ないか尋ねてみたが、『セキュリティー上出来ませんしそんな事をされると私達も捗りません』とヘルピーのような事を言ってきた。


 エルトガドはヘルピーに毒されている。


 朝食を頂き一息ついているとアリーゼさんと騎士二人が到着したようだ。

 鹿の魔獣の査定も終わり、総合ギルドでの買い取り価格は金貨二百枚だそうだ。

 市民の平均月収が金貨五枚という事を考えると破格の値段だ。

 このお金で教会の修繕や孤児達の洋服を新調できるし、今までの慰労金としてシスター達にいくらか支払っても良いだろう。


「それとアンジェラ支部長から『総合ギルドまでご足労頂きたい』と伝言を預かっています」

「了解した。最初に総合ギルドに寄って、それから買い物、教会の順番だな」

「出来ればシスターも一人総合ギルドに来て欲しいわね。場所を借りて会議をしたいわ」

「滞在中は昨日の部屋を自由に使えるように手配しておりますので問題ありません。教会にはギルドから遣いを出しましょう。一応騎士団にも伝えておきましょう。騎士団へはザクスさん達からお願いしても?」

「騎士団への報告は不要です。カミーユ殿達が滞在中は治癒魔法士の派遣は一名で良い事になりましたので」


 一応俺に気を遣っているのだろう。

 だからといって評価が上がる訳では無いが。


 昨日と同じメンバーでぞろぞろと総合ギルドまで歩いて行く。

 美男美女揃いの五人が連れだって歩いているので非常に目立つようだ。

 サクラは慣れているだろうが、日本ではスーパーモブだった俺は居心地が悪い。

 慣れるしか無いのだろうが慣れる気がしない。


 ようやくの思いで総合ギルドへ到着し、昨日の部屋へ直行する。

 暫く待っていると勢いよくアンジェラ支部長が入ってきた。

 肌がツヤッツヤに輝いている。


「おはようございます。カミーユ様、サクラ様。カロリーバーは素晴らしいですね!」


 開口一番これである。

 使用方法が間違っている気はするがカロリーバーが素晴らし事は間違いない。

 使用方法は間違っているが……。


「販売量と値段、販売方法をしっかりと検討しないと大変な事になりそうです。エリクサーは一般販売は難しいと思いますし、クレティアローズは貴族や富裕層向け商品ですが、カロリーバーは市民に爆発的に売れるでしょう」


 爆発的に売れるのは嬉しいが、決めなければならない事も多い。

 作るのはサクラだからサクラの負担も考えて供給量も調整しないといけない。

 クレティアの信仰を高め、教会と孤児院を守り、エデンにも総合ギルドも儲かる仕組みをしっかり話し合わなければスタートできない。


「アンジェラ支部長からお墨付きを貰えた事は嬉しいが、先ずは仕組みをきちんと作ろう。今回販売できる量はごく少量しかないから、その辺も踏まえてな」

「クレティアローズとエリクサーの取り扱いもありますし、教会への嫌がらせが無いように対策を立てなければなりません」


 俺とサクラが場を落ち着かせる、と言うかアンジェラ支部長を落ち着かせるために言葉を繋いだ。


「私とした事がいささか冷静さを欠いておりました。何しろ今までに無いほどに身体の調子が良くて……」


 冷静さを取り戻したアンジェラ支部長が音頭をとって商品の取り扱いに付いて話し合いを始めた。


 直ぐに教会からシスター・エレオノールが到着し会議に参加した。

 

 俺とサクラ、支部長とアリーゼさん、シスター・エレオノールは当然だが、ザクスさんもナタリーさんも公国の利益にならないと言うか、公国にとって不利益になる可能性が高いのに、しっかりと意見を出してくた。


「議論はつきませんが、一旦話を纏めます」


 ・エデン産の商品は教会を販売代理店とする。

 ・教会は総合ギルドに販売を委託する。

 ・総合ギルドはエデン専属担当者を最低一名専任し、販売、会計、報告を行う。

 ・販売場所は教会とし、総合ギルドは担当者を派遣する。


 当面の販売品目は、クレティアローズ、カロリーバー、ポーションにした。

 ポーションは現在持っていないが、ヘルピーに確認したら簡単に作れるらしい。

 騎士団や冒険者ギルドが独占しているポーションよりも高品質な物を大量に。

 クレティア像の前でシスターが祈りを捧げた時に光を放ってポーションを渡すとか演出があれば最高だろう。

 

 一番の問題は教会の警備体制だ。

 騎士団へも冒険者ギルドへも依頼できない。

 森の魔獣が手伝ってくれれば解決するが、流石に魔獣を街中に入れる事は問題が多い。

 教会をエデン直轄地に出来れば文句を言わせないのだが、エリクサーを活用して何とか出来ないかと思っている。


「これは商売に関係ないのだが、学校を作りたいと思っている。学費は無料で昼食付きというのが理想だが、売り上げ次第というのもあるな」

「学校? しかも無償でご飯付き?」

「そうなんだよ。俺がいた日本では全員が教育を無償で受ける事が出来た。だから、全員基本的な読み書き、計算、歴史や地理、科学知識を持っていたんだ」

「全員が? それは凄いわね」

「基本的な教育の後は、より高度な教育や専門的な教育を受けるんだ。職業に直結した教育や、その分野をより深く理解し発展させる研究等だな。まあ、俺はこの世界の常識を持っていないから現在の仕組みや水準が判らないから今後出来たら良いな~、程度の考えだ」

「カミーユ。それは是非取り組むべきよ。エデンを教育国家にしても良いと思うわ」


 意外とサクラは乗り気のようだ。


「先ずは、孤児院の子供達からだな。手の届く範囲、出来る事からコツコツと積み上げて行こう。資金は魔獣を売ったお金しか無いんだから」

「それもそうね。問題も色々出てくるでしょうし、時間はたっぷりあるんだからコツコツやっていきましょう」


 二人で納得しているとアンジェラ支部長から思わぬ提案があった。


「教師は総合ギルドから派遣いたしますよ。臨時講師として専門家の招聘もポーションやカロリーバーの優先販売権を付ければ引き手数多でしょう」

「剣術講師として引退した騎士を雇う事も良いかも知れません。警備体制強化にもなるでしょう」


 ザクスさんからも提案があった。

 アリーゼさんもナタリーさんも前のめりに考えてくれている様子だ。


 妙な一体感が生まれている。


【マスター。女王……。いえ、調教師コースの講師は私が務めますのでご安心を】


 そんなコースは作らないし、一つも安心できる要素が無い。

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