第38話 待望のテンプレ

 冒険者ギルドでのテンプレは諦めて、魔獣を売ってしまおう。

 テンプレが無い冒険者ギルドなど俺にとっては意味が無いのだ。


「取りあえずインフォメーションで買い取り方法を聞こうか」

「確か冒険者登録している人からしか買い取らないはずだけど、念の為確認してからにしましょうか」

「いえ。それには及びません。私が手配しましょう」


 面倒な事は俺がやるぜ! とばかりにザクスさんが張り切ってインフォメーションに向かうが、それも違うぞザクスさん。

 テンプレは無くても楽しみたいじゃ無いか。


 まあ、気を遣ってくれる彼に文句は言えないが。

 ザクスさんが受付嬢と話しているのをサクラと二人で眺めている。


「サクラ。俺はザクスさんがあの受付嬢と話したくてわざわざ動いた気がするんだが」


 そう。受付嬢は可愛い系の妹系だ。

 そして、タプンタプンのポワンポワンだ。


「それは判らないけど、あの女がカミーユに色目を使うのを阻止したように思うわね。そんな事をされたら私が黙ってないから」

「俺はサクラ以外考えられないがな」

「そうかしら? 鼻の下を伸ばした人から言われてもねぇ」


 まさか見ていた事がバレていただと?

 女性に気付かれずに観察する技を身につけたと言うのに。


「カミーユ。見られている方は直ぐに気付くし、私がカミーユの行動に気がつかないとでも思ってるの?」

「……」

「今夜はしっかりと身体でお話ししましょうね?」

「あ、ありがたき幸せ」


 今夜もカロリーバーのお世話になってしまうのか。


 冷や汗を流しながらサクラと話していると、ザクスさんが戻ってきた。


「あちらで冒険者登録をしておきましょう。その後買い取りの流れです。登録用紙は一枚貰っておきましたら、記入して受付に行きましょう。それから、魔獣の買い取りでトラブルがあってはいけないので、念の為ギルド長にも立ち会って貰うよう手配しておきました」

「流石ザクスさん。俺達だけならそこまで気が回らなかったよ」


 副団長ともなると、各方面に気を遣っているのだろう。

 もしくは、自然とそんな動きが出来るからこそ副団長になれたと言う事か。

 団長がなのは理解に苦しむが。


 今回冒険者登録するのは俺だけだ。

 サクサクと記入していく。

 フルネームを記入するのにドッグタグを見ながら書いた。

 端から見れば不審者だな。


 職業もドッグタグ通り『エデン初代国王』と記入するときは恥ずかしかった。


 得意とする武器や魔法の記入欄もあったので、武器は投石、魔法は生活魔法全般と記入しておいた。


 登録用紙を持って受付へ提出すると、受付嬢の顔が引きつっていた。

 目の前に立っている男が、どこぞの国の国王だからな。しょうがない。


「た、た、た、確かに受け、受け、ううぅぅぅ……」

「貴女。普通で大丈夫だから。落ち着いてちょうだい。彼は見た目が凄く良い村人だから」


 まともにしゃべれない受付嬢を落ち着かせようとサクラが声を掛けるが、『見た目が凄く良い』というところで俺の顔を見てしまい、顔を真っ赤にして倒れてしまった。


 俺は悪い事何一つしていないからな。

 申請用紙を持って受付に提出しただけだから。


「ちょっと。大丈夫? 誰か彼女を寝かしてあげてちょうだい」

「おいおい。名前も聞いた事の無い国の国王が冒険者登録をしてるって言うから来てみたら、早速トラブルかよ。うちの職員に何をしたんだ? 『ごめんなさい』じゃ済まされないぞ」


 これがギルド長か?

 ザ・ギルド長だな。

 スキンヘッドに厳つい顔。筋骨隆々でいかにも高ランク冒険者上がりですって感じだ。


「いきなり登場して言いがかりを付けるな。俺は受付嬢に申請用紙を提出しただけだ」

「それだけで受付嬢が気を失うかよ。てんじゃねえぞ」

「どっちが巫山戯てんのよ。不手際はギルド側でしょうが。巫山戯るのは顔だけにして欲しいわね」

「何だとコラ!」


 来ましたよ!

 ついに来ましたよテンプレが。

 俺は置いてきぼり感がありますが、テンプレです。

 ギルド長と思われる人物が、まさかのテンプレ発動です。


「ギルド長。こちらのお二人は何もしていません。カミーユさんが言ったとおり申請書を提出しただけです」

「誰かと思えばザクスじゃねえか。てめえはこの二人の肩を持つんだな?」

「肩を持つとか持たないとかでは無く、事実を言っているだけです。騎士団の名に掛け公平に事実を話しています」


 このギルド長できちんとギルドの運営が出来ているのだろうか。

 騎士団長と同じ匂いがする。


「まあ良い。魔獣の買い取りと聞いたが本当にこいつらが狩ってきたのか?」

「そこのはげ頭。何も良くないわよ。私達を疑った謝罪を先ずしなさい」

「あぁ? 俺は誰かに謝るような事をした事はねえし、謝るつもりもねえ。それが嫌なら他を当たるんだな。うち以外に魔獣の査定を出来る場所はねえと思うがな」


 まあ、売らなくても良いのだけれどね。

 サクラと俺、魔獣達が美味しく頂くから。

 単純に現金が欲しかっただけだから。

 今となっては現金も不要になったから、売らなくても何も困らない。


「じゃあ、売るのは止めておこう。サクラ、ザクスさん行こうか」

「そうね……。巫山戯た顔したそこの貴方。カミーユに感謝しなさい。命が無くならずに済んだのだから」

「巫山戯んじゃねえぞ。人を虚仮にしやがって。カミーユって言ったか? 訓練場で模擬戦だ。万が一俺に勝てればこの件は水に流してやる。着いてこい」


 群がっていた野次馬達は、『ギルド長が模擬戦だとよ』『顔だけ良い男なんてやられちまえ』『男が負けたら女は俺が貰う』等言いたい放題だ。

 女を貰うと言った冒険者の顔だけは記憶したからな!


「という事らしいので、訓練場に移動しよう」

「カミーユ。遠慮は要らないからね。サクッと殺っちゃって良いから」

「ちょっとお二人とも、勘弁して下さい。いきなり問題を起こさないで下さい」

「ザクスさん。俺達は何も悪く無い。喧嘩を売られただけだ。此処で引いたらエデンをあなどられる。全力で叩き潰すだけだ」


「ガントさんも冷静になって下さい。先程も言ったとおり、カミーユさん達は何もしていない」

「冒険者ギルドはどの国にも属さない独立機関だ。いくら騎士団の頼みでも聞けねえな。それに、そこの女は俺の事を馬鹿にしやがった。今更謝っても許さねえよ」


 逆に今更謝られても許さないけれどね。

 サクラの事を『この女』呼ばわりされて許すはずが無い。


【マスター。ようこそ我が一門へ。あのような輩を屈服させる喜びを味わって下さい】

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