第37話 冒険者ギルド テンプレ希望!

 能力鑑定の水晶は簡単に破壊出来るとヘルピーが教えてくれた。

 絶望する顔はヘルピーの好物のようだが、俺にはレベルが高過ぎる。


「サクラ。俺達は楽しく新婚旅行をするためにレオニラン公国に来たんだ。推測だけでそんな事を言ってはいけないぞ」


 サクラには申し訳ないが、サクラに悪者になって貰おう。


「レオニラン公国は俺達に謝罪と友好の証しを示してくれたんだ。今更外交儀礼に反するような事をするはずが無い。もし、そんな事をすればどうなるか良く判っているはずだからな」


「そうよね。私が悪かったわ。レオニラン公国の皆様。私が先程発した言葉を謝罪します」


 サクラは素直に頭を下げてくれた。


「水晶に手を翳せば良いのか? 俺はこの水晶の使い方を知らないんだ」


 水晶の前に立つ騎士に使用方法を確認する。


「はっ、はい。水晶に手を置いていただき、魔力を流していただければ。ドッグタグの情報も含め登録されます。水晶の情報とドッグタグの情報に相違が無ければ手続きは完了します」

「他人のドッグタグを持って偽装しようとしても出来ない問い言う訳だな」

「はい。そうです。偽装は不可能です。私もどういう仕組みなのかは判りませんが、水晶とドッグタグは真実しか表示されません」


 流石ファンタジーだ。

 とんでも技術が転がっている。

 まあ、俺もスマホや家電を使っていたが、仕組みまで理解はしていないからな。

 当然と言えば当然だな。


「サクラ。俺からやらせてくれ。異世界って感じがしてテンションが上がってしょうがない」

「カミーユったら子供みたいね。そんなカミーユも可愛くて素敵よ」


 隙あらばイチャつく。

 それがエデンクオリティーだ。


「じゃあ、始めるぞ」


 水晶に手を当て、ヘルピーの言ったとおり大量の魔力を一気に流し込む。


「パアァァン」


 おお。確実に調整失敗だ。

 ピシッとかピキッとかの前兆も無くいきなり爆散した。

 おかげで俺もサクラも破片で怪我をした。

 周りの騎士達も。


「サクラ。怪我人に治癒魔法を。俺は最後で大丈夫だ」

「はい。直ぐに」


 あっという間にサクラの治療は終わった。

 自分で『治癒魔法は得意なんです』と言うだけあって素晴らしい腕前だった。

 治癒魔法自体見るのが初めてなので完全に俺の主観だが。


「トラブルはあったが続けよう。こっちの水晶でも構わないのだろう?」


 相手の返事を聞く前に、先程よりも大量の魔力を一気に流した。


「ズバァァァァン」


 先程よりも派手に爆散した。

 当然のように、先程と全く同じ事を繰り返した。


「どうやら何かしら問題のある水晶だったようだな。こんな事もあるのだろう」


 自分で破壊しておきながらしれっとそんな事を言ってみる。

 その方がレオニラン公国にとっても都合が良いはずだ。

 了承無しに鑑定の水晶を他国の国王に使用していたのだから。


「もっ、申し訳ございません。お怪我もさせてしまい、治癒魔法を使っていただき」

「入国手続きが出来なくなったのだが、サクラと俺はこの後どうすれば良い?」

「しばしお待ちを」


 外務大臣のアリスティドさんを中心として今後について協議している。


「お待たせしました。先ず、水晶に問題があり砕けてしまい、お怪我をさせてしまった事をお詫びいたします。その後の治療につきましても心からの感謝を」

「謝罪と感謝を受け取ります」

「ありがとうございます。カミーユ国王とサクラ王妃の入国に関しましては、ドッグタグの確認のみで特例ですが入国を許可いたします。お二方のご来訪をレオニラン公国外務大臣として歓迎いたします。滞在中は是非我がレオニラン公国をお楽しみ下さい」


 ようやくだ。

 ようやく入国出来る。

 初めて街を目指してから長かった。

 最初はサクラと出会って世界樹に引き返し、今回はトラブル連発だ。


「入国まで色々とトラブルはあったが、俺達に思うところは無い。楽しませていただこう。ところで、俺達の監視役は誰だ? 可能であれば男女一名ずつ居ると助かるんだがな」


 監視役は観光ガイドとして活用しようとサクラと話し合っていた。

 男性目線、女性目線それぞれ欲しい。

 良い人材であれば引き抜きたいし。


「男女それぞれ一名ですか……。顔見知りの方が良いかと思って第三騎士団副騎士団長のザクス・マクファーソンとしておりましたが、女性は……」

「今急に申し出た事だ。この後冒険者ギルドで魔獣を売る予定だから、冒険者ギルドへ来て貰えれば良い」


 伝える事は全て伝えた。

 必要な事はザクスさんに聞けば良いし、伝えれば良い。


「では、我々はこれにて。サクラ。早速冒険者ギルドで魔獣を売ろう。楽しみだな」

「何を楽しみにしているかは判りませんが、楽しい場所では無いと思いますよ」


 何を楽しみにって、テンプレに決まっているじゃ無いか。

 憧れのテンプレ。様式美を所望する。


 俺とサクラ、ザクスさんの三人で並んで歩く。

 村人の格好をした二人と騎士団副団長のアンバランスな取り合わせと、荷車に乗っている魔獣が人目を引くようで、奥様方の格好の餌食になっているようだ。


 レオニラン公国の街並みは綺麗に整備されていて、メイン通りは綺麗な石畳で、建物も立派な石造りで、窓にはガラスも使われている。

 馬車も走っているが、歩いている人が多い。

 中世ヨーロッパのように不衛生で匂いもきついのかと思っていたが、街は清潔に保たれており、街ゆく人々も綺麗な身なりをしている。

 生活魔法を誰でも使えるファンタジーの世界だかこその光景なのだろう。


 ザクスさんの案内で冒険者ギルドへ到着した。

 ギルドは街の中心に近い場所にあり、立派な三階建ての建物だった。

 扉は開け放たれており、出入りは自由なようだ。


 深呼吸して脚を踏み入れた。


 役所だ。

 完璧に役所に来た感じだ。


 人は多いが、殺伐とした雰囲気は無い。

 冒険者であろう者達もにこやかでフレンドリーな感じがする。


 いくつもの窓口カウンターがあり受付嬢が立っている。

 その奥には、デスクワークをする職員の姿が。


 カウンターの上には案内板がある。

 クエスト受付、クエスト報告、ギルド登録、素材買い取り受付

 非常に判りやすい。

 

 因みにクエスト受付と報告窓口は全部で十五あり、時間帯によって受付窓口と報告窓口の数を調整する仕組みと思われる。

 非常に合理的だ。


 親切にインフォメーションカウンターまである。


 酒場は併設されているようだが、酒場と言うよりレストランだ。


「冒険者ギルドのレストランは素材の鮮度が良いと評判で、一般の方も利用しているのですよ」


 ザクスさんが説明してくれる。


 違う。違うのだザクスさん。

 俺の希望はこれでは無い。

 俺はテンプレに飢えているのだ。

 エルトガドに来て以来テンプレに飢えているのだ。


【マスターのご希望通り、私が絡んで踏み潰して差し上げましょう】


 ヘルピー。それも違う。    

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