第39話 お願い。模擬戦させて!
冒険者ギルドのギルド長から素敵なプレゼントを貰った。
ギルド長自らテンプレをしてくれたのだ。
しっかりと恩返ししないといけない。圧勝して唖然とさせるまでがテンプレだからな。
「カミーユ。誰かに立会人を務めて貰いましょう。後から文句を言われても困るし。それと、何か掛けて戦いましょう。貰える物はありがたく貰いましょう。後、ギルドの施設が壊れても責任を問わない事も確認しておいてね」
サクラは俺が負けるなど微塵も思っていないな。
俺も負ける気はしないが、信頼して貰えるのは嬉しいものだ。
「じゃあ、俺が勝ったらギルド関係者はエデンに一切関われない、俺が負けたらエデンの利益を全てギルドに渡す事にしよう。ギルドのトップがあれだから二度と関わりたく無いからな」
「カミーユも案外意地悪なのね。これからエデンが生み出す利益を傍観するだけなんて。あの男もカミーユを敵に回すなんて馬鹿ね」
「あいつはサクラの事を『あの女』呼ばわりしたからな。絶対に許さないぞ」
「私の為にありがとうカミーユ。貴方は最高の旦那様よ」
カロリーバーの消費が激しくなっていく件。
イチャイチャするつもりは無いのだが、ついついイチャついてしまう。
中年サラリーマンがキャバ嬢へ貢ぐ気持ちが判った気がする。
「てめえらイチャついてんじゃねえぞ。お前を殺してその女は俺が貰う。お前は絶対許さねえ」
「聞いたかサクラ。このおっさんは俺に勝つ気だぞ。凄いな。相手の実力を測る能力すら無いとは驚いたな」
「何言ってやがる。顔だけの男に俺が負ける訳がねえんだよ」
ノリが良いなこのおっさんは。
煽ったらきちんと煽られてくれる。
貴重な人材だ。
二度と関わる事が無いのが惜しい。
「じゃあ、始める前に、誰か公正な立会人を。模擬戦ではあるが、その辺はきちんとしておこう。お互いの為だ」
「そ、それでは我々三人が立会人をしましょう。防衛大臣と外務大臣に騎士団副団長だ。三人が公正に立ち会い見届けよう」
「俺はそれで構わないぜ。それにギャラリーも大勢居るからな。言い訳のしようも無いぜ」
「俺もそれで構わない。いつの間に駆けつけたか判らんが、大臣が立ち会いなら誰も文句は言えないだろう」
「それから折角の機会だ。何かを掛けよう。手を抜かれては困るからな」
「おう。俺はその女を貰う」
「俺が負けたらサクラを好きにしても良いぞ。勝てればな。俺が勝った場合、今後一切エデンに関われない事を条件に。ギルド長だけで無く、ギルド関係者全員がエデンに関われない。エデンが関わった商品や事業についても同様だ。その代わり、俺が負けたらエデンが出す利益の全てをギルドに渡そう」
「カミーユ殿。あまりにも条件が厳しいのでは無いか?」
「どちらにとって厳しいかは判らんが、俺はこの条件で構わない」
「俺もそれで構わん。御託は良いからさっさと始めるぞ」
「それから、ギルドの施設が壊れてしまっても構わないか?」
「はっ。この施設は魔獣が襲ってきても大丈夫だ。壊れる心配は無いし、万が一壊れたとしてもギルドで修理する。どうせお前から利益が貰えるんだ。気にするな」
「それを聞けて安心したよ。何せ人相手に戦った事が無いからな。力加減が判らないんだよ」
「戦った事も無い田舎者が大口を叩いたもんだぜ」
「万が一があっては立会人にも迷惑を掛けるかも知れないから、準備運動がてら調整しても良いか?」
「まあ、五分くらいは待ってやる」
人が爆散するところは見たく無いからな。威力の調整くらいはしておいた方が良いだろう。
というのは建前で、全力でビビらせてあげよう。
「ヒュッ」
「ドガアァァン」
あら、意外とこの建物は脆いのね。
的があったから石を投げたら、観客席も壁も破壊してしまった。
魔獣が襲ってきたらひとたまりも無いな。
「カミーユ。もう少しだけ威力を落とすか、投石は止めた方が良いんじゃ無い? この男と練習場は良いとしても、観客が死んじゃうわ」
「こんなもんか?」
「ヒュッ」
「パアァァァン」
今度は貫通せずに壁が爆ぜただけだ。
良い感じに調整できたと思う。
「カミーユ殿。もう少し威力を落とさないと、当たれば確実に死人が出ます」
「でも、相手からは特に指摘が無いぞ? 観客も文句は無いみたいだ。誰も何も言わないからな」
ギルド長も観客も目を白黒させて、口をパクパク。
陸に上がった魚かな?
「立会人として却下します。投石禁止です。他の武器で戦って下さい」
「じゃあ、武器が無いから素手で。ちょっと練習しておきます」
そう言えば素手での戦闘は初めてだな。いつも投石かウォーターだからな。
人を殴った事なんて無いし、ビンタで良いか。
「バアァァァン」
予想以上の威力だった。訓練場にあった人形の頭から上が爆散してしまった。
流石体力お化け。俺の肉体は人外だったな。
おや?
サクラ以外全員の顔色が悪いな。
サクラは目をキラキラさせて腰をクネクネさせている。
「威力の調整は難しいが、サクラの治癒魔法もあるし、治癒薬もあるから問題無いだろう。ギルド長待たせて悪かったな。そろそろ始めようか」
「……」
「どうしたギルド長。ギャラリーも待っている。始めるぞ」
「……」
本当にどうしたのだろう。
少しやり過ぎた自覚はあるが、仮にもギルド長がこの程度でビビるはずが無いと思っていたのだが。
「おい! 何か言え。勝手に始めるぞ?」
「……でした」
「んっ?」
「すみませんでした」
「はあ?」
「命だけはどうかお助け下さい」
地面に頭をこすりつけながら、ギルド長が謝っている。
この世界で土下座を見るのは二回目だが、サクラの土下座の方が美しいな。
流石サクラだ。
「後から謝っても許さないと言ったのは君じゃ無いか。今更何を言っているんだ」
「私が間違っていました。どうか。どうか命だけは……」
「俺は殺すつもりなんて無いぞ。そもそも模擬戦だろ? 万が一死んだとしても大丈夫だ。問題無い」
何が問題無いかは判らないが、俺はサクラを侮辱した男を許す気は無い。
せめて一発殴らせて欲しい。
殴り方は知らないけれど。
「カミーユ殿。その辺で勘弁してやってくれ。君の実力はここに居る全員が理解した。今後君達に変なちょっかいを掛けてくる奴も居ないだろう。これ以上問題を大きくしないでくれ」
本音がダダ漏れしていますよ。
サクラを見ると『しょうがない』という表情をしている。
これ、俺が悪いの? 諦めるしか無いの?
【マスター。まだまだですね。今度みっちり指導します】
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