第35話 金づるゲットだぜ

 激しい夜だった。

 夕食と夜食がお互いカロリーバーだったのがいけなかった。

 マットレスは偉大だった。


 朝食は相変わらずのおいしさで、サクラ無しの生活は考えられなくなっている。

 出会いはだったけれど、助けて良かったと心から思う。


【マスター。魔獣達が到着したようです】


 朝食を食べ終わり、二人でゆっくりとしていたら、ヘルピーが熊どんの到着を教えてくれた。

 予想よりも随分早い到着だ。


「サクラ。熊どん達が到着したみたいだ」

「まあ。随分早い到着だったわね。約束の時間まで一緒に遊ぼうかしら」

「そうだな。久しぶりに会うし、お礼も兼ねてモフろう」


 表に出ると、熊どんが駆け寄ってきた。


「ん? 急に呼ばれたから心配したって? 大丈夫だぞ。俺もサクラも問題無い。それよりありがとうな」


 熊どん再会を喜びながらじやれ合う。

 サクラを見ると、狼くんと戯れていた。

 あの時戦っていた狼くんとサクラは今では大の仲良しだ。

 一度戦うと心が通じ合うのだろう。俺と熊どんもそうだったからな。


「みんなありがとうな。疲れただろうから、此処で少しゆっくりとしていてくれ」


 熊どんや狼くん以外にも、鹿や猪、蛇や蜘蛛とざっと百匹程の魔獣達が駆けつけてくれた。

 蜘蛛の魔獣は初めて見たな。

 ラノベ的にはスパイダーシルクで服を作って貰わないといけない流れだな。


「蜘蛛っちは糸で服とか作れるのか? んっ? それは無理? でも糸だけは提供可能と。了解。今度蜘蛛っちの糸で色々作るから、その時はよろしくな」


 どうやら、ラノベのようには行かないみたいだ。

 糸は貰えるそうなので、いつか職人さんに蜘蛛っちの糸で服を作って貰おう。


「カミーユ。そろそろ時間よ」

「おお。もうそんな時間か。熊どん達は整列して此処で待っててくれ」


 サクラと並んで歩いて昨日作った場所へ向かう。

 熊どん達は脅しだ。

 レオニラン公国からの回答が楽しみだ。


「おはよう副団長さん。納得出来る回答を持ってきてくれた事を期待しているぞ」

「おっ、おはようございます……。その……。あっ、あの魔獣の群れは一体……」

「大丈夫だ。俺達の友達であり、エデンの住民でもある魔獣達だ。君達がちょっかいを出さない限り手を出す事は無い。ちょっかいを出さなければね」

「副団長さん。うちの可愛い子達に向かって失礼な態度は取らない事をお勧めするわよ」


 顔面蒼白で動けない副団長さんからの指示を待たずに伝令のために騎士が数人城門に向かって走っていく。

 城壁には兵士達が続々と集まってくる。国が存亡の危機に直面しているからしょうがない。

 事情を知らない誰かが魔獣に向かって攻撃すれば、国が滅びるのだ。彼らも必死だ。


「それでは回答を聞かせてくれ。書面があればそれを頂こう」

「その前に、ザクス・マクファーソンとして謝罪したい。昨日騎士団長の暴走を止められなかった事。その後の対応で私も適切に対応出来ていなかった事。カミーユ国王とサクラ王妃に謝罪と、寛大なお心遣いに感謝を」


 自分の非を認め、しっかりと謝罪出来るとは大した物だ。

 人物評価を上方修正しておこう。


「君からの個人的な謝罪は受け取った。昨日は君も動揺していたのだろう。それを認め相手に謝罪する事は、簡単なようでなかなか出来ない。君の覚悟に敬意を払う」

「はっ。ありがとうございます」


「では、回答を」


 それはそれ。これはこれだ。

 

「はっ。それではこれから私が口頭でお伝え致します。その後書面をお渡しします」

「それで構わない。では初めてくれ」


「これは、レオニラン公国宰相閣下よりお預かりした正式な書面である。封はレオニラン公国国王の紋章だ。確認願いたい」

「確かに確認したわ」

「それでは、私が封を解き読み上げる許可を頂きたい」

「許可する。内容を読み上げてくれ」


 封を切り、書面を手に取った副団長……。否、ザクスさんは固まった。

 見る見るうちに顔が青くなっていく。額からは大量の汗が噴き出してくる。


「でっ、でっ、では。読みます……」


 深く、深ーく深呼吸する。


「レオニラン公国国王よりエデン国王に告げる」


 冒頭から高圧的だな。

 これがこの世界の常識なのだろうか。

 そもそも俺はサラリーマンだからその辺の事は良く判らない。

 判断はサクラに任せよう。


「カミーユ・ファス・ドゥラ・エデン及びサクラ・ファス・ドゥセ・エデン両名は、レオニラン公国内立ち入り禁止区域に無断で……」

「待て待て待て待て~~~~~~」

「ザクス~~~~。話をするな~~~~~~」


 慌てた様子で騎馬に乗った偉そうな人達が叫びながら突進してくる。

 読み上げを遮られたザクスさんは安堵の表情を浮かべている。


「ザクスさん。知り合い?」

「えーっと。外務大臣と国防大臣です……」


 心底申し訳なさそうな表情でザクスさんは教えてくれる。


「まあ。冒頭からムカつく内容だったから、どうせ碌な内容じゃ無かったんでしょう。熊どん達を見て現実を知ったんでしょう。本当に愚か……」


 急いで駆けつけたお偉いさんが馬から飛び降り駆け寄ってくる。


「私達は今、レオニラン公国国王の名代より、レオニラン国王からの言葉を受けていたところなの。国王の言葉を遮るとはどういう事かしら? 私達がエデン国王と王妃と知っての不敬かしら?」


「大変失礼致しました、カミーユ国王及びサクラ王妃。私はレオニラン公国で外務大臣を拝命しております、アリスティド・ブリス・アンゴと申します。こちらは国防大臣のヨーナス・ブリス・ヘーネスです。緊急の要件によりまかり越しました」


「緊急の要件とは?」

「実は、ザクスへ渡した陛下の手紙が真の物では無い事が発覚し、正式な手紙を届けに参りました。これを……」


 アリスティドさんは新たな手紙を取り出し、ザクスさんに渡す。

 一応国王の名代としてザクスさんにこの場を任せるらしい。


 うやうやしく受け取り、封切りの儀式を再び行い、改めて国王の言葉を代弁する。


「レオニラン公国国王として、カミーユ・ファス・ドゥラ・エデン国王及びサクラ・ファス・ドゥセ・エデン王妃に対する我が国の不手際を謝罪する」


 今度は謝罪からだ。

 熊どん達の脅しがかなり効いたようだ。


「我が国は両名の訪問を歓迎の証しとして、今回の訪問にかかる費用の全額を負担する事を此処に約し、謝罪と友好の証しとする。双方の行き違いもあったが、我が国滞在を大いに楽しまれたい」


 手紙はこれで以上の様ですね。


【マスター。街ごと全部買いましょう。ラッキーですね】

    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る